「心をコントロールしたい」ということ(2)

人の心を読んだり、コントロールしたりできるようになれることを期待して心理学を学ぼうとする学生が増えてきたように感じるという話を、前回は書きました。きちんとデータを取っているわけではありませんし、大学や学部によっては事情が異なるのかもしれませんが、そういう学生がいることは確かです。
もちろん、心理学を学んでも、そんなことができるようになるわけはありません。そもそも心というものは、たとえ自分の心であっても自分で理解しきることはできませんし、思うようにコントロールすることもできません。まして、他者の心をコントロールなどできるわけもないのです。
それでは心理学の知識は何の役にも立たないのかというと、そうとも言い切れないとは思います。心の調子を整えたりすることはある程度までは可能ですし、心のメカニズムに関する知識は、自分や他者の心の動きを推測するさいにある程度は役に立つでしょう。しかしそれは「ある程度」にすぎません。それよりもむしろ、「心というものは、それを隅々まで知ることも、操ることもできないものだ」ということを理解することにこそ、利点があるのではないかと思います。
ちなみに服部祥子さんという研究者は『生涯人間発達論―人間への深い理解と愛情をはぐくむために』(医学書院)という著書の中で、「主よ、変えられないものを受け入れる心の静けさと、 変えられるものを変える勇気と、 その両者を見分ける英知を 我に与え給え」というラインホルト・ニーバーの祈りの言葉を紹介しています。


心を思うように操る(変える)ことなどできるものではないのです。ただ、このように学生に説明したところで、納得されるとは限りません。そこで私は、エリク・エリクソン(1902-1994)という著名な心理臨床家のエピソードを紹介しています。エリクソンは、米国でもっとも影響力があったと言われる精神分析家で、臨床家としても研究者としても、大変優れた功績を残しました。そのエリクソンは、4人目の子どもが生まれたとき、幼い日の自分自身を苦しめた「秘密を抱えた家族」というトラウマを、自身の子どもたちにも与えてしまうような行動をとってしまうのです。(次回に続く)
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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