暑さも和らぎ、だいぶ過ごしやすくなってきましたね。気が早すぎるように思いますが、もうハロウィンの飾付けまでしている店も見かけます。ともかく季節は着実に進んでいるようです。
◎父の笑み浮かぶ故郷の新走り 恵子
【評】お父さんが新走を好まれたのでしょうね。送り仮名の「り」を取って「新走」とするほうが一般的です。角川ソフィア文庫の『俳句歳時記』をご参照下さい。
◎シーグラス並べて終わる夏休み 恵子
【評】夏休みに海辺でシーグラスを拾ってきたのですね。いかにも夏休みの終わりを感じさせます。「終はる」または「終る」として下さい。
△~○梛の実や萱津の宮に落つる音 ひろ
【評】切れ字「や」は、がらりと内容を転じるために用います。しかし、この句は中七・下五も「梛の実」のことを述べていますから、「や」で切ってはいけません。「梛の実の萱津の宮に落つる音」。
○奉納の藻塩きらめく漬物祭 ひろ
【評】写生としてはやや物足りない気がしますが、とりあえず吟行句の1つとして残しておきましょう。
△雲の間へ雀放たる芒原 美春
【評】「一斉に雀飛立つ芒原」という意味でしょうか。「放たる」の解釈に悩みました。俳句独特の言い回しをしようなどとせず、日常の平易な表現を用いて作りましょう。
△妻誘い久し遠出の花野かな 美春
【評】「妻誘ひ」ですね。また「久し遠出」は語法的に無理があります。とりあえず「はるばると妻誘ひ来し花野かな」としてみました。
◎とんぼうの腰に結びぬ木綿糸 白き花
【評】子供時代、こんなふうにして遊びましたね。「木綿糸」が具体的でけっこうです。「結べり」としたほうが素朴な味わいが増すように思います。
△夕さりは魔法が掛かる芒原 白き花
【評】「魔法が掛かる」は観念もしくは説明です。魔法がかかった結果、芒原がどう変わったのでしょう。そこを目に見えるように写生するのが俳句です。
◎秋の夜や愛でてはしまふダンス靴 音羽
【評】お孫さんのことでしょうか。新しいダンス靴を買ったのですね。心浮き立つ様子が見えてきます。
◎新酒酌む老爺に高きのどぼとけ 音羽
【評】旨そうに飲んでいる感じがよく出ています。「老爺の」としたほうが流れがスムーズになるように思います。
○夜半の秋雨音に母目覚めたる ゆう
【評】「夜半の秋」ですと、そこでいったん切れが入り、仕切り直す感じで雨音が続くことになります。「秋の夜の雨音に母目覚めたる」としましょう。
○夕映や翅光りたる赤とんぼ ゆう
【評】「や」で切らず、「夕映に翅光りたり赤とんぼ」でどうしょう。
◎雲ひとつなき空二百十日過ぐ マユミ
【評】二百十日は厄日とされますが、何事もなく過ぎ去った安堵感がよく伝わってきます。
◎山鳩のくぐもる声や秋湿り マユミ
【評】「くぐもる声」が「秋湿り」とよく合っています。
○~◎花カンナすらりと伸ぶる子の背丈 妙好
【評】子の背丈はすでに伸びたわけですので、過去形にし「伸びし」でどうでしょう。
◎布巾干すひと日の終はり虫の声 妙好
【評】夕食の後片付けをし、布巾を洗い、それを干して一日の仕事が完了するのですね。今日も一日無事に終えた安堵感と虫の声が見事に調和しています。
○稲つるび読みかけの本手に窓へ 徒歩
【評】作者の心配そうな様子が伝わってきます。ただ、中七から下五にかけての調べが窮屈です。「手」や「窓」を略し、「稻つるび」と「本」だけでまとめたほうがより感覚的な句になる気がします。
△訪ふ声に暗き玄関白桔梗 徒歩
【評】ちょっと詰め込み過ぎでしょうか。季語もあまり効いていないように思います。「訪ふ声」もだれの声か今一つ判然としません。
△指の背に翅震わす蚊こそばゆし 智代
【評】何らかの事情で、蚊が指の背から離れられず、もがいているのでしょうか。珍しい光景ですので「こそばゆし」は省略し、もう少し丁寧に状況を描写してほしいところです。「震はす」と表記しましょう。
△~○鹿子百合衣ぬぐかにはらり散る 智代
【評】独特の花の柄を着物に見立てたのですね。調べがやや悪く読みづらいので、「鹿子百合散るや衣を脱ぐやうに」としてみました。
△~○穂孕みの稲の真っ直ぐ青天井 織美
【評】「青天井」が取って付けたようで気になります。稲も作者も元気であることを強調し、「穂孕みの稲は真つ直ぐ上天気」と口語俳句調にするのもおもしろいと思います。なお、「真っ直ぐ」の「っ」は大きく書きましょう。
◎畠道に風の音のみ去ぬ燕 織美
【評】燕はよく囀るおしゃべりな鳥ですから、去ってしまうと尚更寂しさが募りますね。その寂しさが「風の音のみ」からよく伝わってきました。
△異国語の飛び交ふ現場雲の峰 万亀子
【評】異国語とは何語なのか、現場とは何の現場なのか、もう少し具体性がほしいところです。例えば「大阪万博予定地」などと前書を付けるのも手です。
○農日記しるす南瓜の受粉の日 万亀子
【評】「農日記」ですから農業を営む人の句であることがわかります。このままでもけっこうですが、いっそ「農日記」のことは省略し、南瓜の受粉場面を生き生きと描写してもよい句になりそうな気がしました。
○文鎮はベネチアングラス星月夜 あみか
【評】星と月の絵柄のペーパーウエイトから発想したものと思われますが、詩心を感じさせる句です。中七の字余りが気になりますが、この場合はやむを得ませんね。たとえば「ベネチアングラスのスワン星月夜」等と工夫する余地はあるかもしれません。
◎帰りたくない子と仰ぐ秋夕焼 あみか
【評】「秋夕焼」が効いていますね。ペーソスを感じさせる句です。
○抱き上げし堰の小綬鶏羽根ぬくし ゆき
【評】小綬鶏の遺骸を堰から抱き上げてやったのですね。「ぬくし」が哀れみを誘います。「羽根」を省略し、「抱き上げし堰の小綬鶏まだ温し」でどうでしょう。小綬鶏は春の季語ですので、春の句として受け止めました。
△変わり葉の草残し今朝葵咲く ゆき
【評】この「草」と「葵」の関係がよくわからないのですが、要するに「変わり葉ゼラニウム」が咲いたという意味に解していいでしょうか。誤解があるかもしれませんが、とりあえず「今朝ひそと変はり葉葵咲きにけり」としてみました。「変わり」でなく「変はり」と表記しましょう。
△農日誌見返す二百十日かな 多喜
【評】昔の農日誌を読み返している場面でしょうか。それとも、たったいま記した文面を読み直しているのでしょうか。作者の気持ちを十分にくみ取れませんでした。たぶん「台風が来なくてよかった」と安堵の気持ちで見返しているのだろうと察しますが。
◎瓦師の塩辛声や秋旱 多喜
【評】瓦師という言葉を初めて知りました。瓦を焼く職人さんでしょうか。「塩辛声」が「秋旱」と何となくマッチしていますね。
○稲妻や令和の黎明いつ見ゆる 永河
【評】混沌とした世情に対する不安感を象徴的に詠んだ句とお見受けしました。中七の字余りが気になります。「稲妻や令和の闇の只中に」くらいでいかがでしょう。
△身を削り地に消えゆくや法師蝉 永河
【評】上五中七は単に法師蝉のことだけでなく、作者の死生観をも込めた表現だと解しました。ただし思いが籠り過ぎで、読み手の気持ちが引いてしまいかねません。もう少し「軽み」が出ると秀句になりそうです。そういえば故中曽根康弘氏に「暮れてなほ命の限り蝉しぐれ」という句があったのを思い出しました。
△寝入ばなに着信音や厄日来る 千代子
【評】「寝入りばな」ですから、一日の終わり(就寝時)のことですね。しかし「厄日来る」は一日の始まりを意味します。このへんをもう一度整理して下さい。
○秋風や手術の友の無事祈る 千代子
【評】「秋風」に不安感も伝わってきます。素直に詠まれた句でけっこうです。
○絵手紙の露草の青強く描き 慶喜
【評】句意明瞭でけっこうです。俳句は言い切る文芸ですので、下五は「強く描く」と終止形にしましょう。
△~○サルスベリ紅い花びら妻掃けり 慶喜
【評】植物図鑑では植物名はカタカナで表記されますが、俳句では出来るだけ漢字にしましょう。「百日紅散らす花びら妻が掃く」としてみました。「百日紅」に「紅」がありますので、「紅い」は省略できそうです。
○~◎盆の朝からすの降りし伝馬船 茱美
【評】鴉を乗せた伝馬船が精霊舟のようにも思えたのでしょう。「盆の朝鴉乗せたる伝馬船」でもいいかもしれませんね。
△~○雨あがり頻りに飛べり鰡の海 茱美
【評】この句形ですと三段切れになってしまいます。「雨上がりひつきりなしに鰡飛べり」あるいは「次々に鰡飛ぶ海や雨上がり」でいかがでしょう。
次回は9月28日(火)の掲載となります。前日27日の午後6時までにお送りいただけると幸いです。河原地英武