「カナリア俳壇」53

はやお盆も過ぎ、にわかに秋めいてきました。なんとなく気持ちにも潤いが戻ってきたような気がします。今月も皆さんの句をしみじみと拝見しました。

◎モスラ出る野外映画に火蛾の影     白き花

【評】モスラ自体が蛾の怪獣でしたね。火蛾との取り合わせがうまい!

〇白壁に白き木槿は添ひて咲く     白き花

【評】白と白の取り合わせに工夫がありますが、何の白壁かわかるといいですね。「咲く」は自明ですので省略できます。「古民家の白壁に沿ひ白木槿」。

△~〇膳に添ゆ若葉楓や峠茶屋     恵子

【評】終止形は「添ゆ」でなく「添ふ」です。「若葉楓」がやや窮屈かもしれません。「若楓一葉添ふる茶屋の膳」くらいでどうでしょう。

〇御詠歌の声響き来る青葉風     恵子

【評】しっかりできています。声が風に乗ってくるのでしょうが、そこは読者の感性に委ね、「青葉」という物を差し出したいところです。「御詠歌の声響きくる青葉かな」。

◎指先に脈搏しかと今朝の秋     妙好

【評】指先にパルスオキシメーターを装着しているのですね。俳句は生きていることを実感するための文芸でもあります。まさにそのとおりの句ですね。季語も爽やか。

◎遠き君ねこじやらし手に追ひ掛くる     妙好

【評】この「遠き」は距離だけでなく、はるか昔の、という時間的な意味合いもありそうですね。初恋を思わせるしみじみとした句です。

◎片蔭の鉢に水張る陶の街     美春

【評】気負いのない素直な詠みぶりがたいへん結構です。涼しげで、こんな街を歩いてみたくなりました。

〇伊自良川落ち鮎漁に影動く     美春

【評】「漁」の一字で落ち鮎が間接的になってしまいました。俳句は即物具象を旨としますので、「落ち鮎の影動きけり伊自良川」でいかがでしょう。

〇月光や畳に窓の桟の影     音羽

【評】渋くまとまった句ですね。このままでもけっこうですが、「窓の桟」まで言わず、たとえば「月影が窓のかたちに古畳」とするのも一案でしょうか。

◎灯の点る祇園甲部や西鶴忌     音羽

【評】なかなか艶めいた句ですね。季語も面白いと思います。

〇山崎の端から端を指す団扇     徒歩

【評】実は山崎がどこを指すのかわかりません。有名な地域なのでしょうか。しかし、句の形はきまっていますし、俳諧味もありそうです。「持ち山の端から端を指す団扇」ならイメージが湧くのですが・・・。

△歯磨きに著き雨音今朝の秋     徒歩

【評】歯磨きに雨音とはこれ如何に?季語「今朝の秋」の本情は爽やかさでしょうから、雨音とはミスマッチのような気もします。

◎白湯の沸くかそけき音や今朝の秋     織美

【評】この静かな風情がとてもいいですね。まさに秋の到来を思わせます。

△~〇買い物の両手に重し盆の客     織美

【評】いろいろな買い物をしたついでに誰かが訪ねてきたのでしょうか。この形ですと、読者は上五中七まで読んだ段階で作者自身のことかと早合点してしまいますので、中七の切れをもうすこし弱め、盆の客との関連を示したほうがいいでしょう。「買ひ物を両手に重く盆の客」としてみました。

〇~◎母の忌の寺の坂道蟬しぐれ     ひろ

【評】お母さまの忌日に寺詣でされたのですね。季語から周囲の木立まで連想されます。「寺の坂道」ですと寺のなかの坂道となりますが、もし寺へ向かう途中のことでしたら、中七を「寺への小径」などとする手もありそうです。

〇食べ物の広告ばかり終戦日     ひろ

【評】お気持ち、とてもよくわかります。「ばかり」のせいで作者の気持ちが出過ぎているきらいがありますから、その部分は消しましょう。「食べ物の広告の束終戦日」あるいは「食べ物のチラシ束ぬる終戦日」くらいでいかがでしょう。

〇蚊を叩く黒き骸の哀れなり     智代

【評】なかなか味わいのある句ですが「哀れなり」が古風で月並調かもしれません。たとえば「打ちし蚊の黒き骸を淋しめる」などとすると近代的な雰囲気が出ます。

〇雨去りて堰を切るかに蟬の鳴     智代

【評】大雨が続けば川の水が堰を切るところですが、雨が止んだので、蟬の声が堰を切ったのだと読ませる趣向がうまいと思いました。下五は「蟬の声」でどうでしょう。

◎灯台の鈍き灯りや秋黴雨     維和子

【評】灯台がたいへん効果的で、その近くにたたずむ作者の孤影まで見えてきます。

◎盆提灯遺影の母を明るくす     維和子

【評】「母の遺影」でなく「遺影の母」としたところがミソですね。心まで明るくしてくれそうな情のこもった句です。

〇~◎四肢確と蜥蜴は我を睨みをり     万亀子

【評】この蜥蜴に人間と同じような気迫を感じます。その面魂がみえるようです。末尾を「をり」でなく「けり」とすれば、さらに力がこもります。

〇コーヒーの香り新し今朝の秋     万亀子

【評】初秋らしい情景が浮かびますが、「新し」が今一つでしょうか。「淹れたての珈琲の香や今朝の秋」としてみました。

△希有希有し小綬鶏の子の救助かな     ゆき

【評】「希有希有」とは非常に珍しいこと。たしかに小綬鶏の子の救助を目撃した人などめったにいません。ですから、珍しいことは明らかですので、言わなくて大丈夫です。誰が、どんなふうに救助したのか、具体的に描写してほしいと思います。

△万緑や眠る曾孫(ひこ)見て泣くを待つ     ゆき

【評】「見て」「泣く」「待つ」と動詞が三つもあり散文的です。また、孫であっても曾孫であっても、俳句では「児(子)」でけっこうです。どうしても明示したい場合は、前書きに「曾孫」と記してください。「万緑や涙をためて児の眠る」などもう一工夫しましょう。

△~〇真葛原救助ボートは伏せしまま     マユミ

【評】中七の字余りは厳禁、と覚えてください。中七を字余りにするくらいなら、上五を字余りにしたほうがよいのです。「伏せしままの救命ボート真葛原」。

△恐がりの兄を横目に氷菓舐む     マユミ

【評】たとえば「恐がりの兄を横目に肝試し」ならわかります。しかし、「恐がり」と「氷菓舐む」がどう関連するのか理解できませんでした。

△汗流しオリンピックの金メダル     蓉子

【評】「オリンピック」がもっと具体的になるといいですね。「汗拭ひ女子ボクサーの金メダル」など。

△熊蟬の声聞くたびに暑さ増し     蓉子

【評】「熊蟬」も「暑さ」も夏の季語です。このような季重なりはよくありません。「熊蟬の声聞くたびに喉乾く」など下五を工夫してください。

△線状降水帯や今野分     慶喜

【評】まず五七五に収めてください。そこからスタートです。たぶん「線状降水帯」を使っても俳句にはならないと思います。

△秋暑し熱中症と対峙せり     慶喜

【評】「秋暑し」は秋の季語。「熱中症」は「日射病」の傍題で夏の季語。まずは季語を一つにするところからスタートしましょう。

△しんしんと川原を灯す流灯会       永河

【評】「川原を灯す流灯会」には別段新しい要素はありませんので、この句の眼目ないし工夫は「しんしんと」ですね。しかし「しんしんと灯す」という日本語表現が成り立つのか。わたしは無理だと感じました。

△用水の柵に盆花灯りけり     永河

【評】盆花とはお盆にお供えする花。それがなぜ灯っているのか、わかりませんでした。句意はしかと受け止めました。おそらく誰かがこの用水で命を落されたのですね。

〇雨音の激しき夜半や桃を剥く     あみか

【評】三鬼の句を引くまでもなく、「夜」と「桃」の取り合せには独特の雰囲気がありますね。句形もよく、しっかりと作られている句です。

◎毛ばたきをまづ探しをり盆支度     あみか

【評】「毛ばたき」に意表を衝かれました。類例のない、ユニークな盆支度の句です。

次回は9月7日(火)の掲載となります。前日(6日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武


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