「カナリア俳壇」52

蟬も鳴き出し、まさに夏本番です。猛暑続きですが、お互い気持ちを奮い立たせ、パワフルに作句したいものです。

△~○水舟の山水の音明易し     ひろ

【評】郡上八幡でしょうか。水舟に山水を引き込むことは半ば常識ですし、それが立てる音も読者には既知ですので、あとすこし、ひろさんならではの観察がほしいところです。

△~○朴の枝折りて箸とす杣昼餉     ひろ

【評】着実な写生句ですが、「朴」だけ、あるいは「朴の枝」では季語にならないのではないでしょうか。歳時記でご確認ください。

△朝日浴ぶ糸瓜の花や律思う     恵子

【評】文法的には「朝日浴ぶる」と連体形にしなくてはなりません。字余りを回避するには「日を浴ぶる」とすればよいでしょう。「律思う」は「律思ふ」ですね。

△三拍子のかぜのリズムや軒風鈴     恵子

【評】面白いとらえ方ですが、上五の字余りが気になります。また、俳句では「リズム」という言葉を使わずに、リズム感を出すことが大切です。軒風鈴の様子を具体的に写生し、そこから風の動きを探らせるほうがいいかもしれません。

△大瓶に漬けし梅酒の飲み頃に     美千代

【評】なぜ「飲み頃」だと思ったのでしょう。そう判断した理由(梅酒の色合いなど)を具体的に描写してください。

△突然の雷雨に駆くる下校の子     美千代

【評】だいたい雷雨は「突然」やってくるものです。ですから上五は省略しましょう。下校の子供たちがどんなふうに駆けたのか具体的に描けるといいですね。

△初盆や沈香揺らぐ位牌前     美春

【評】「沈香揺らぐ」でいいのかどうか、迷うところです。「香煙揺らぐ」としたほうが正確かなと思いました。位牌の前で香煙が揺らぐこと自体は珍しくありませんので、もう一歩踏み込んだ写生がほしいところです。

△二番子のピーツピーツツ軒惜しむ     美春

【評】中七をそっくり擬音語にしてしまうのはもったいない。二番子の鳴き声は読者の想像に委ね(大概の読者は見当がつくはず)、「軒惜しむ」と作者が受け止めたその鳴き声を、もうすこし繊細に表現してください。

△夕顔の一夜かぎりの儚さよ     智代

【評】夕顔の花言葉は「はかない恋」。夕方に美しい花を咲かせても夜には萎れてしまうことがその由来だそうです。掲句はその花言葉をなぞっただけにとどまっています。「儚さ」といわず、もっとしっかり夕顔の花を観察し、オリジナリティーのある写生を目指してほしいと思います。

△~○はたた神街の熱れを一掃す     智代

【評】「熱れ」は「いきれ」と読めばいいですね。雷が鳴っただけで、街のむっとした感じが「一掃」されるものなのかどうか。たとえばその直前、さっと風が吹いてきたのかもしれません。そのへんの事情を描写できると俳句に深みが増します。このままの形ですと、今一つ観念的です。

△~○蠅帳に母のメモ添へところてん     あみか

【評】「蠅帳」も「ところてん」も夏を代表する季語ですので、この季重なりはあまりよくありません。また、「蠅帳」「母のメモ」「ところてん」と3つも具体物があり、焦点が定まりません。蠅帳のどこに母のメモがあったのかを描くだけでも十分におもしろい句になりそうです。

△~○白シャツの首のほどよき伸び加減     あみか

【評】眼目はユニークなのですが、「首のほどよき伸び加減」は日常感覚から発せられる月並な言葉で、詩としてのときめきに欠けます。読み手をどきりとさせる表現がみつかると、俳句が芸術になります。

◎汗の児のつむり火薬の匂ひせり     音羽

【評】花火をしてきたのですね。観察も繊細ですし、「火薬の匂ひ」という不穏な表現もおもしろい。上々の句と思います。

○ピアノ弾く水搔き白き日焼の子     音羽

【評】「水掻き」とは指間膜の俗称ですね。目の付け所がやや細かすぎる気がしました。「日焼子のピアノ弾く手の白さかな」「日焼子のピアノ弾く指ほの白し」など、もうすこし考えてみてください。

◎籐椅子のわづかに軋む寝覚めかな     徒歩

【評】静かな、満ち足りた時間を感じます。籐椅子の軋みから目覚めへと推移するところも自然でいいですね。

△~○三線にさびしく咲ける仏桑花     徒歩

【評】「三線」と「仏桑花」から沖縄への思いがこもった作と受け止めました。「さびしく」と言わずにそれが伝えられるといいですね。また「咲ける」は自明ですので、省略できます。上五で切り、仏桑花の風情を具体描写するのも手でしょう。

◎手文庫の恋文の束羽蟻の夜     妙好

【評】竹久夢二が描く女性の姿が彷彿としてきました。「羽蟻の夜」がよく効いています。「手文庫」という古風な言葉も効果的です。

○~◎果実酒の気泡ふはりと夜の秋     妙好

【評】なかなかロマンチックな句ですね。「気泡」がちょっと硬いかもしれません。とりあえず「果実酒の泡のゆらめき夜の秋」としてみました。

○日を数へ今日はよかろと西瓜穫る     織美

【評】古風な話し言葉を入れ、素朴な味わいを出した句ですね。西瓜を叩いて収穫のタイミングを探る句はよく見かけますが、この句は、そのような動作をとらず、「日を数へ」て収穫時期を決めたところに面白みがあります。

○馬籠宿に水車の軋み夏燕     織美

【評】きちんと写生は出来ているのですが、上五の字余りが気になりますし、夏燕が効いているかどうかについても再吟味したいところです。作者の思いは季語に託されますので、それをとやかく言うのは選者の越権行為になりますが、一例として「夏雲や水車の軋む馬籠宿」などとすると句形が落ち着きます。

◎月涼し子の諳ずる以呂波歌     マユミ

【評】「以呂波歌」という表記がおもしろいですね。涼しさが伝わってきますし、どこか郷愁を誘う作品です。

○~◎勢ひて進む蚯蚓の砂まみれ     マユミ

【評】欲をいえば「勢ひて」をさらに具体的に描写してほしい気もしますが、一茶のように蚯蚓に頑張れとエールを送りたくなる作品です。

△コロナ禍のオリンピックや梅雨の明け     慶喜

【評】単なる事実を述べただけで、俳句の手前といったところでしょうか。「コロナ禍のオリンピック」は前書にして、作者ならではの観察を詠んでください。

△~○秋隣須恵器の黒き猿投窯     慶喜

【評】「黒き」は須恵器のことですね。この形ですと「猿投窯」にかかってしまいます。「秋近し猿投窯の黒き壺」などもう一工夫してみてください。

○~◎迸る水の清冽蜂光る     永河

【評】「蜂光る」でぴたりと決まりましたね。「清冽」という観念的な語を省き、どんな水か写生できると完璧だと思います。

○~◎飴色に陽を漉いてゐる葭簾     永河

【評】「透」ではなく「漉」という漢字を用いたところに工夫がありますね。すなわち紙漉きをオーバーラップさせた作品です。「陽を漉いてゐる」ですと、葭簾を主語とした擬人法になりますが、やや暑苦しい読後感をもたらします。「飴色に陽の漉かれたり葭簾」くらいでいかがでしょう。

○~◎蟬しぐれ鳥居の先の十字墓     うつぎ

【評】「崎津」と前書があります。キリシタンの里として有名なところですね。しっかりと作られた写生句です。「先に」としたほうが句に奥行きが出るように思います。

△赤錆や住む人のなき梅雨の家     うつぎ

【評】どこの赤錆でしょう。屋根でしょうか。また、これは親族の家だろうとは思いますが、このままですと作者とこの家の関係がわかりません。「住む人のなき」をもうすこし肉付けしてほしい気がします。

○織姫のくるみ絵飾る星祭      蓉子

【評】「くるみ絵」が具体的でいいと思います。これはふっくらと厚みのある絵で、絵柄に使われる和紙のなかに綿やスポンジを入れ、くるんで厚みを出しているのだとか。雅な雰囲気もかもしています。

○蒸し暑し風呂を早めにたてにけり     蓉子

【評】すなおに詠まれた句です。このような句を毎日日記をつけるようにして作っていけるといいですね。

次回は8月17日(火)の掲載となります。前日16日午後6時までにご投句頂けると幸いです。力作をお待ちしています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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