孤立や貧困の「犯罪化」

九州の農園で働いていたベトナム人の技能実習生の女性が、妊娠を誰にも打ち明けられないままに双子を死産し、死体遺棄で起訴され、裁判も始まりました。彼女が逮捕されるまでの経緯は、こちらの望月さんの記事に詳しく描かれています。


このリンさんのケースに限らず、孤立出産は通常の出産よりも死産が多いです。検診も受けられず、養生もできず、設備も何もない場所でただ一人で出産せざるをえないのですから、無理からぬことかと思います。リンさんは大量出血で動けない状態でしたが、なんとか子どもたちの遺体をタオルで包み、名前と弔いのメッセージを書いて箱に入れました。翌日に、異変に気づいたらしい雇い主によって病院に連れていかれ、死産したことが明らかになり、彼女は死体遺棄の容疑で起訴されました。
しかし彼女は妊娠・出産を誰にも打ち明けられなかっただけで、死体を捨てたわけではありません。「こうのとりのゆりかご(いわゆる赤ちゃんポスト)」を運営している慈恵病院の蓮田健院長も、これが有罪になれば予期せぬ妊娠で追いつめられる女性が増えて大変なことになると、危機感を表しています。


アメリカの事情にも詳しい教育学者の鈴木大裕さんの指摘も、重要かと思います。


孤立出産に追い込まれる女性に対しては、なぜそのようなことになったのかと責める意見を聞くことがあるのですが、彼女たちは妊娠を誰かに打ち明けることも、中絶することも、(妊娠前に)避妊をすることもできない状況にあるわけです。予期せぬ妊娠について相談をする場所があることも知りません。
同じような状況にあった女性にインタビューをしているラジオ番組がありました。こちらから音声を聞くことができます。


彼女の場合は、親からも虐待を受けており、妊娠当時は住むところもなく、不安定雇用での仕事を転々としていました。妊娠を、相手の男性にも親にも打ち明けられずにいるうちに、中絶が可能な時期も過ぎてしまいました。ただ彼女は、子どもの頃に児童相談所のショートステイに預けられていたことがあったので、予期せぬ妊娠について相談をする場所があることを知っていて、それで安全に出産をすることができました。また、子どもを自分で育てたいけれども、勢いだけでは育てられない、自分も虐待されていたけれども、この子が同じになってはいけないと考え、特別養子縁組を選択しました。
リンさんの場合はこのような支援につながることができませんでした。また実際に日本の社会では、予期せぬ妊娠に悩む女性の多くが支援につながることができていません。そのような中、孤立出産の末の死産を、犯罪にしてしまってよいのでしょうか?
なおこのケースは、予期しない妊娠という問題と外国人技能実習生問題がクロスしています。19歳で来日したリンさんもまた、来日前に150万円の借金を背負い、週7日休みなく働き、月額12万円前後の手取り給与のうち10万円ほどをベトナムに送るという、厳しい生活をしていました(上記の望月氏の記事より)。技能実習制度は人権侵害であるとして国連の人権委員会からも勧告をうけていましたが、このたびアメリカの国務省からも外国人労働者搾取であると問題視する報告が出されました。

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。

 


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