「カナリア俳壇」48

せっかくの連休なのに、コロナのせいで外出もままならず、ストレスがたまる一方ですね。それでも皆さんの作品を読むと、そろそろ初夏なのだなと実感します。今回は詩情豊かな句が多く読み応えがありました。

 

○若き頃草鞋履きにし山登り     蓉子

【評】回想句ですね。句形も文法もばっちりです。俳句は「現在只今」の詩ですので、「若き頃」は前書とし、現在の句で仕立てるとさらに俳句らしくなりますよ。

 

△八重桜ひときは目立つピンク色     蓉子

【評】公園などでよく見かける「カンザン(関山)」という八重桜ですね。濃いピンク色が特徴ですが、その色だけで俳句にしても今一つインパクトがありません。

 

△白樺の花牛乳の甘さかな     ひろ

【評】白樺の花を句材にしたのは大変ユニークですが、まず牛乳の味は甘いと言えるのかどうか。そして作者は白樺の花を食べたのかどうか。白樺の花にうといので、そんな疑問を抱き、うまく鑑賞できませんでした。

 

◎婚の荷やなんじゃもんじゃの花の道     ひろ

【評】おおらかな句で大変結構です。この季語とのとりあわせも面白く、最後の「道」も効果的。俳句では「ゃ」も大きくし、「なんじやもんじや」と表記しましょう。

 

△~○陽春やランドセル背負ふ日曜日     マユミ

【評】一年生になりたての子はうれしくて休日にもランドセルを背負って歩いているのでしょうね。俳句で「日曜日」のような曜日を入れると散文化し、詩的ときめきが減じます。「陽春や何度も背負ふランドセル」くらいにとどめておくとよいでしょう。

 

△~○霾るやかかと落としの床の音     マユミ

【評】かかと落しは糖尿病や認知症の予防にも効果がある運動のようですね。屋内で行っているので、この季語とは合いません。窓から外を眺めているのだと思いますが、最初に「霾る」と出てきますと、読者はまず戸外における句だと反応してしまいます。

 

◎デッサンの手に夏蝶の影よぎる     音羽

【評】情景もはっきりと思い浮かびますし、夏蝶(アゲハチョウのような大ぶりの蝶でしょう)の影も印象鮮明。文句のつけようのない作品です。

 

○たかんなの獣の如く土間に坐す     音羽

【評】筍を獣に見立てたのはおもしろいと思いますが、ちょっと説明的で、調べもなめらかさに欠けます。「艶々と土間のたかんな獣めく」などもう一工夫できそうです。

 

○ジャンパーに薫風はらむバイク過ぐ      智代

【評】若々しくて気持ちのよい句です。まさに初夏の光景ですね。「はらむ」と「過ぐ」という二つの動詞が並ぶと調べがよくありません。中七で切れを入れ「ジャンパーにはらむ薫風バイク過ぐ」と語順を入れ替えるのも一法ですね。

 

△~○あめんぼの影水底に丸七つ     智代

【評】目の付け所はよいのですが、「丸七つ」が今一つぴんときませんでした。昆虫は脚が六本ですので、「丸六つ」のほうがわかりやすいかもしれません。もっとわかりづらくなるかもしれませんが「水底にあめんぼ丸き影散らす」と考えてみました。

 

○水草の陰に群れたる蝌蚪の池     ゆみ

【評】「水草」「蝌蚪」とありますので、「池」は省略できます。「水草の陰に小さな蝌蚪の群」くらいでいかがでしょう。

 

○校庭に長さを競ふ白き藤     ゆみ

【評】だいたいよくできています。もうすこしすっきりさせるなら、「校庭の白藤長さ競ひ合ふ」でしょうか。

 

○薄桃の房垂れそめり藤回廊     多喜

【評】おおむね結構ですが、「そめり」は文法ミスです(下二段活用の動詞に完了の助動詞「り」は接続できません)。その部分だけ直し、とりあえず「薄桃の房垂れ初むる藤回廊」としておきます。

 

○~◎笊に摘む庭の小粒のさくらんぼ     多喜

【評】ご自宅の庭のさくらんぼが実ったのですね。「笊に摘む」という具体描写がいいですね。情景が目に浮かびます。

 

○~◎初夏の髪匂はせて少女来る     妙好

【評】ロマンチックで素敵な句です。このままでも十分ですが、もうすこし具体性をもたせるなら「はつなつの髪を匂はせ女学生」とする手もあります。

 

◎夏めくや一筆箋を新しく     妙好

【評】更衣の時期は一筆箋も夏バージョンへの替え時ですね。たいへん結構です。この作品のように、めぐりくる季節を能動的に迎え入れる心が俳句では大切ですね。

 

◎花吹雪絵筆を置きて眺めゐる     ゆき

【評】「絵にもかけない美しさ」などと言いますが、まさにこの花吹雪がそれだったのでしょう。恍惚として見とれている作者の姿がしっかりと描写されています。

 

◎追い越され声掛けられて春登山         ゆき

【評】追い越されながらマイペースで登山している様子がありありと思い浮かびます。この長閑な雰囲気は春ならではです。声を掛けてくれる人の温かさも嬉しいですね。「追ひ越され」と表記しましょう。

 

○~◎あたたかや犀のにほひに誘はれて     徒歩

【評】東山動物園に行かれたのでしょうか。犀のどっしりとした体躯が春の風情とよく合っている気がします。下五をもうすこし具体化し「あたたかや犀のにほひのするはうへ」とするのもよさそうです。

 

◎眉に立つ白髪一本昭和の日     徒歩

【評】このわびしいような、哀愁をおびた雰囲気が何ともいえませんね。季語に大いに迷うところですが「昭和の日」とは絶妙な選択だと感心しました。

 

○八朔の苦味あぢはひ春惜しむ     織美

【評】八朔柑は春の季語に分類されますが、これを立項していない歳時記もあるので無季扱いで結構です。歳時記で「春惜しむ」の例句をみてください。このように季語が動詞の場合、できるだけ他の動詞は使わないのが原則です。動詞が連なると、もたついた句になるからです。たとえば「八朔のほのかな苦み春惜しむ」とすれば調べがよくなります。

 

○発声の調子いいねと今朝の夏     織美

【評】音楽の先生にほめられたのでしょうか。「今朝の夏」というやや硬い(文語調の)季語には「いいね」という口語が今一つしっくりこない気がします。「発声の調子褒めらる今朝の夏」のほうが落ち着くように思いますがいかがでしょう。

 

○~◎しやぼん玉メタセコイヤの空に吹く     小晴

【評】思い切り高く飛ばそうとしたのですね。スケールの大きな句で、シャボン玉とメタセコイヤの取り合わせも新鮮です。

 

○春寒し医師見せくるる骨模型     小晴

【評】病院の診察室で説明を受けている場面ですね。この季語は心理的なものも込められているのでしょうね。というのは、診察室は暖かいはずですから。「春愁や医師見せくれし骨模型」くらいでもいいかなと感じました。

 

○~◎べそかきて園児はバスへ花は葉に     万亀子

【評】葉桜の時期になってもまだ通園に慣れないのかもしれませんね。あるいはちょっとしかられたのでしょうか。巧みなスケッチの句です。

 

△信秀の魂か竹の子土もたぐ     万亀子

「桃巌寺 織田信秀の菩提寺」の前書があります。信秀は信長のお父さんですね。句の形は問題ないのですが、竹の子を死者の魂に見立てるのはどうでしょうか。信秀は非業の死を迎えたわけでもないので、その魂が迷い出ることもないように思います。

 

○ちんまりと塗り絵する母木瓜の花     永河

【評】いわゆる呆け防止の一環として塗り絵をしているのでしょうか。その姿がよほど小さく見えたのでしょうね。「ちんまりと」はややぞんざいに聞こえますので、個人的には「ひたむきに塗り絵する母」としたい気がします。園芸種の木瓜は小ぶりながら艶やかで、わたしの好きな花です。お母さんの風情もそんな感じなのかもしれませんね。

 

△~○寝ては覚め朧なるかな母の昼     永河

【評】春は空気中の水分が多く、景色がぼんやりと見えますが、夜におけるその現象を「朧」、昼間の場合を「霞」と言うとネットに出ていました。朧は夜の季語のようです。「寝ては覚め覚めては眠る母おぼろ」くらいでいかがでしょう。

 

△林道に生えて蘖空目指す     美春

【評】句の形はきちんと出来ています。ただ、林道ならば蘖が生えることに意外性はありませんし、それが上に向かって伸びるのも習性でしょう。さらに「空目指す」は俳人御用達の表現で、使い古されています。作者ならではの新しい発見がほしいところです。

 

△沢の瀬に鴉水浴び艶増せり     美春

【評】残念ながら季語がありません。「沢の瀬に鴉水浴ぶ夏はじめ」などとするか、「鴉の子」という季語を使い、「沢の瀬に水浴びてをり鴉の子」としてはいかがでしょう。

 

○葱坊主朝日を浴びて光りたる     ちづる

【評】素直に詠まれた句でたいへん結構です。「光りたる」は省略できそうですね。動詞を減らすと引き締まった句になります。一例として「燦々と朝日浴びをり葱坊主」。

 

○~◎子燕の勢ひ増して旋回す     ちづる

【評】巣立ちの時期の子燕ですね。今まで巣に籠っていた燕の子がついに飛立つ場面は感動的ですね。「子燕が勢ひつけて旋回す」とするとさらに解放感が増すように思います。

 

○撮り鉄の待てる踏切夏あざみ     万里子

【評】新鮮な句材ですね。「撮り鉄」とありますので、「踏切」は省略してもいいでしょう。撮り鉄の姿がもうすこし具体的に写生できるといいですね。たとえば「撮り鉄のみな中腰に夏あざみ」など。

 

△~○カーテンを透くる日眩しや夏隣     万里子

【評】夏が近づくとカーテン越しでも日差しは強まりますね。中七が字余りでは?「カーテンを透かす日眩し夏隣」、あるいは「カーテンに小鳥の影や新樹光」などとしてみたくなりました。

 

△春惜しむ時は過ぎ行くビュンビュンと     白き花

【評】時がびゅんびゅん過ぎてゆくので春を惜しむわけですから、この句はそれ以上何も言っていないことになりますね。何か具体的な物を一つ持ってきましょう。「春惜しむみるみる船は遠ざかり」など。

 

△~○早朝に若緑摘む胸のすく     白き花

【評】若緑とは松の芯のことですね。なかなかおもしろい句ですが、下五がとってつけたようです。「早朝」は消えてしまいますが、「胸のすくまで若緑摘みにけり」と考えてみました。

 

次回は5月25日(火曜日)の掲載となります。前日24日(月曜日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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