柚子唐辛子ができるまで(5)

さて、4回にわたって柚子唐辛子を一緒に作ることになった前段の話を書きました。

いままで、障害のある人と接点のなかったレストランのスタッフは、「相互研修」として、スタッフの研修であり、障害のある人の研修である「学び合いの空間づくり」で、障害のある人と同じ空間で一緒に何かをするという経験をしました。その経験がベースにあり、レストランで商品を開発しようということになった時、スタッフのひとりから「あの、障害者の人が農業をしてはるところで、唐辛子って作ってはらへんかな」の言葉がでてきたのです。

スタッフが思い出した「障害者の人が農業をしてはるところ」というのは、滋賀県の栗東にある「おもや」という障害福祉サービス事業所です。おもやさんでは、自然栽培の野菜作りに取り組んでいます。イタリアンレストランcenciから依頼し、在来種や固定種のタネを探すところからはじまりました。在来種や固定種の種を探すことは簡単ではありませんでした。いま、日本ではF1種という種が使われていることが多いのです。いろいろなところに電話をしたりネットで探して、4種類の唐辛子のタネを見つけました。柚子唐辛子にどの種類が合うかわからないので、全部育ててみることにしました。苗を育て、畑に定植するときにはレストランのスタッフもおもやに出かけて一緒に畑で定植しました。その後、無農薬無施肥で丁寧に育てられ、おいしい青唐辛子ができました。

さて、ここで、おもやさんが障害福祉事業所で「自然栽培の農業」に取り組んでおられることについて、所長の小川緒理江さんにインタビューしたことを少し書きたいと思います。

 

(なぜ、自然栽培で取り組んでおられるのですか?)

最初は有機農法でやろうとしていて、元々農業のプロではなかったので、いろいろ失敗して試行錯誤を繰り返す中で、有機の肥料も使わなくていいんじゃないかと思うようになって、そういう栽培方法として、自然栽培に出会いました。自然栽培は、肥料は有機とか化学肥料とかに関わらず使わない。もちろん農薬も使わないし、除草剤なども一切使わない。そういう栽培方法に出会って、そちらにシフトしていきました。

そういう育て方をしていると体には良いし、食の安全安心は確実。けれども手がかかる。だから一般の農家さんは少し敬遠してしまうところがある。けれど、障害のある人は、むしろいろんなことを人の手でしなければならない農法だからこそ持っている力が生きる場所はたくさんある。輝ける場所がたくさんある。だから障害がある人の働く場としても自然栽培は合うんじゃないかということで自然栽培をやっています。

 

(農業は作業工程を分解しやすいから障害のある人の仕事を作りやすいと聞いたことがあります。)

そもそも農業自体がそういうところはやりやすい。雑草を取るにしても、むしることもできるし,カマを使うこともできる。むしるだけであれば道具を使えない人でもできる。耕すときには、クワを使う、手押しの耕運機を使う、乗る耕運機もある。畝を立てる、大きい石を拾ってどける、そこに種をまく。種をまくのもコツがいるものもあれば、「この中に3粒だけ入れてね」と言えば、3を数えることができたらできる仕事もある。あるいはポットに種を蒔いて芽が出たものを植え替える定植をするのは数が数えられなくても「ここからここにいれて」と伝えたらできる。

作物が育っていく中で「虫とり」もしなければならないけど、虫を発見するのがすごく早い人がいたりする。収穫は大きさで見分けたり、色で見分けたり、意外と難しい。収穫してきた野菜を拭いて土を落としたり、それを量って袋に入れたり、袋のシールを貼ったり、そして出荷する。その時に、お店の人にありがとうと言ってもらえたりして…。

一連の流れの中で、野菜を育てて出荷するまでいろんな仕事があるからどこかしらに関われる所が絶対ある。そして、ただ、関わるだけじゃなくて、そこで自信を持ってしてもらえる仕事があると思います。

(虫を見つけるのがすごく早い人とか、たぶん“違い”に敏感な人で、生活の中ではその敏感さがしんどい時もあるだろうけど、農作業の場面ではとても役に立つのですね。)

例えばシールを貼るという作業でも、見本があったらその通りに貼れる人はもちろんたくさんいるけれど、見本がなくてもここの位置に綺麗に貼るということができる人もいる。日常生活の中ではこうじゃなきゃというこだわりがしんどい時もあるけど、シール貼りの時は生きる。すごいなと思う。

他にも農業の良さというのは、土に触れたり、野菜や草に触れることで、気持ちが落ち着くとか、穏やかになるというのは、私も他のスタッフも感じている。例えば、精神障害のある方は、広い場所で作業をすることで気持ちが解放されるのか、症状が軽減していく人もいる。暑いし寒いし、体力的なしんどさはもちろんある。力仕事もいるし。でも気持ち的なしんどさは少ないかな。

(次回に続く)


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坂本彩(彩社会福祉士事務所) 大学卒業後、20年間、知的障害のある人とかかわる仕事をする。2017年に、独立型社会福祉士事務所を開業。福祉施設のアドバイザーや研修講師、成年後見人の受任、大学の非常勤講師などをしている。障害のある人もない人も一緒に「学び合いの空間づくり」をしていきたい。社会福祉士、介護福祉士、障害者相談支援専門員、そのほか、漢方養生士指導士、漢方スタイリスト、薬膳アドバイザーの資格も持つ。