教員免許状更新制の見直しに関する議論がされるようです。
いつも言ってますが早く廃止すべき。講習費3万円+交通費・宿泊費が自腹というのもありえない。公教育の担い手の免許更新費用を「公」が出さない道理は通らない。オランダは逆に年間約13万円の研究費が支給される。→教員免許更新制度の見直し 萩生田文科相「本気で取り組む」 https://t.co/vbfR0JdNqH
— 苫野一徳 (@ittokutomano) February 2, 2021
民主党政権は廃止を掲げていたこの制度、自民党政権が復活した後には見直しが俎上に上がることはあるのですが、実際には問題点が残り続けているのが実情です。そうでなくても忙しい学校の先生方が、3-4日ほどの時間を犠牲にして、受講料も交通費や宿泊費も自腹で受けなければならない講習です。
はじまりは?
だいぶ前のことになってしまいましたが、2006年に第1次安倍内閣が「美しい国」というキャッチフレーズを掲げて発足した時、首相官邸に教育再生会議というものが設置されました(翌年に福田内閣が教育再生実行会議に改組)。個人的に強く記憶に残っているのは、体罰容認論を掲げていたことなのですが(委員の一人がTVで、「私は自分の子どものお尻を叩きますよ」と平然と言っていたのを覚えています)、それ以外にも様々なことが提案されました。その1つに教員免許状を更新制にするということがありました。教育再生会議の意見としては、不適格教員から免許状を取り上げるべきだという主張だったと理解しています。そして10年に一度の講習を義務付けて、講習後のテストに合格しないと教員免許状が失効するという仕組みになりました。
そしていったい何のため?
文科省のwebページを見ると、教員免許状更新制は不適格教員の排除を目的としたものではないと明言されています。
教育再生会議とは意見が異なるようです(教育再生会議のまとめはこちら)。教育再生会議の主張を、実際に制度にするのは文科省の仕事です。制度作りの中で目的がよくわからないものになったのは、教員免許状更新制が「不適格教員の排除」の道具としては機能できないことを知っていたからだと推測します。
想像してみてください。講習は数十人から数百人規模の講義です(全国の教員免許状保持者全員が講習を受けるのですから、ものすごい規模です)。講習担当講師は、短ければ90分程度、長くて一日程度の講習を担当しますが、この状況で「あなたは不適格教員です。あなたの免許状は更新しません(=失職してください)」と決定することができるでしょうか? 実際的にも、法的にもあり得ないことです。
そして教員免許状更新講習は、教員が最新の知識を得るなど、教員の研鑽のためであるというふうに位置付けられることになりました。
無意味な負担では?
学校の教員にはすでに、様々な研修制度が用意されています。特に10年研修と呼ばれる節目の研修は、相当にしっかりしたものです(高校時代の友人に「今年も会おう」と連絡したら、「今年は10年研修だから無理、ゴメン」と言われたことがあります)。そこに教員免許状の更新講習まで加わるのは重複であると同時に、過剰負担ではないでしょうか。また、いわゆる「不適格教員」と言われる人たちについても、別途研修や指導の制度がありますし、教員免許状の更新講習が役に立たないのは上述の通りです。
これからの議論がどうなるのかわかりませんが、市民の皆さんが関心を持ってくださることが大事です。ご注目ください。
———–
西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。