菅首相による日本学術会議会員の任命拒否問題(2)

隔週木曜のカナリア倶楽部では、日本学術会議とその会員任命拒否問題について、何回かに分けて書いていこうと思っていましたが、この2週間ほどの間に次々とデマ情報が政治家や大手も含めたメディアによって拡散されるに至っています。今日は、私が見つけることのできた範囲で取り上げます。

誤情報1.日本学術会議会員に選ばれると多額の年金がもらえる
フジテレビ解説委員の平井氏が、学術会議で6年働くと学士院に入れて多額の年金がもらえると主張したのですが、これは全くの事実無根です。そもそも日本学術会議と学士院は全くの別組織です。なおフジテレビのアナウンサーが後日、この平井氏の発言を訂正しています。


誤情報2.学術会議に税金を投入しているのは日本だけだ
学術会議は英語ではアカデミーと呼ばれる組織で、組織の形は様々ですが基本的にどの国にもあります。そしてアメリカのイギリスも税金を投入しています。


誤情報3.日本学術会議は活動をしていない
自民党の下村博文議員が、長年にわたって答申がでていないことを理由に、日本学術会議が税金を投入するに見合った活動をしていないため、行政改革の対象にするべきだと指摘しました。
しかし実際には日本学術会議は、9月だけでも25もの提言を出しています。例えば9月11日には「認知症に対する学術の役割ー「共生」と「予防」に向けて」という提言が出されています。提言以外にも報告や声明など多くの議論をまとめて発信をしています。下村氏が指摘した「答申」が出されていないのは、政府から諮問がないからです。答申は「お答え申し上げる」ものですから、政府が質問(諮問)をしなければ、学術会議が答申することはできません。


誤情報4.会員は自分の後任を指名できる
できません。学術会議会員は3年ごとに半数ずつ改選されますが、それに先立って全国の学会にアンケートを取るなどして候補者などについて情報を集めます(私が共同副代表をしている学会にも問い合わせが来ました)。優秀な研究者を偏りなく選んでいくことができるように、多くの努力がされています。


誤情報5.日本学術会議は中国の軍事研究『千人計画』に協力している
衆議院議員の甘利氏が最初に流した誤情報で、本人がブログをこっそりと書き変えた後もネット上で拡散が続いています。ここには誤情報が2つ含まれています。まず日本学術会議は中国の『千人計画』とは無関係です。このことは加藤官房長官も、10月12日の記者会見できっぱりと否定しています。
また中国の『千人計画』は軍事研究ではないとのことです。中国は優秀な若い人たちが米国を始めとする海外の大学に留学して学位を取得し、そのまま帰国しないことに悩んでいます。中国出身の研究者たちを帰国させたいということで始まったプロジェクトです。


またこの誤情報と絡めて、日本学術会議の中国の科学技術団体との交流に疑惑の目を向ける主張も出ているようですが、どこの国の学術会議も様々な国と交流していますし、それを言い出せば自民党自身も、ビジネス界も、中国と交流しています。交流それ自体は悪いことではないのでは?

以上、主なものを挙げましたが、他にもいろいろなデマ情報が流れているようです。

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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