モモ母さんが12月19日に、伊藤詩織さんが勝訴した件について紹介しておられますが、今日はこの事件と裁判を海外のメディアがどう報道しているか、取材しているかを紹介します。日本における性被害と加害についての認識や、国家権力とメディアの関係がだいぶ異なることを示していると思います。
まずは経緯のおさらいを。
伊藤さんは加害者である山口敬之氏と仕事のことで話をするために会食し、その際に意識を失いました。山口氏はそんな彼女をホテルに連れて行き、性行為を行いました(法律用語的には準強姦というらしいです)。
伊藤詩織さんを連れ込む山口敬之氏の姿を目撃…控訴審でカギを握る
【ドアマンの供述調書】「足元がフラフラで、自分では歩けず、しっかりした意識の無い、へべれけの、完全に酩酊されている状態でした。客観的に見て、これは女性が不本意に連れ込まれていると確信しました」https://t.co/19RlMAOfpi— 盛田隆二 (@product1954) December 20, 2019
なお、彼女はそれ以前にお酒を飲んで意識を失ったことはないことから、デートレイプドラッグが使用されたのではないかと疑われています。
詳細はこちら(https://www.tbsradio.jp/153884)から聞けます(性暴力被害についての辛い体験が話されているので、フッシュバックなどが懸念される方はご留意ください)。
伊藤さんの告訴を受けて警察が捜査をし、山口氏の逮捕状が出ました。しかし全く不透明な経緯によって逮捕が取り消されました。
山口敬之氏の逮捕令状を裁判所は出し、空港で逮捕しようと待機していた刑事に電話一本で「逮捕するな」と命じたのが警察庁の刑事部長である。これは刑事本人が伊藤詩織さんに告げており、不逮捕命令を出した刑事部長の中村格氏も公に認めている。
その後、警察は山口敬之氏を不起訴にして揉み消した。 https://t.co/3TuU7utErW— 冬目岩石 (@mt1831283) December 18, 2019
山口敬之の事件「刑事と民事で判断が分かれた」のではない。裁判所は刑事で判断していない。判断したのは検察だ。「検察と裁判所で判断が分かれた」のだ。検察はなぜ起訴しなかったのか。検察審査会はなぜ不起訴相当としたのか。山口とアベ夫妻との関係がどう関係しているのか。追及すべきはそこだ。
— 前川喜平(右傾化を深く憂慮する一市民) (@brahmslover) December 19, 2019
図に書いている人もいます。
逮捕状の執行停止
■山口事件素人の邪推
現行犯逮捕とかでなければ
「逮捕状」って、裁判所が発行するモノですよね警察判断で、直前で執行停止って出来るの?
首相案件だから??三権分立を壊しにかかっている??
右の図は pipさん作成 pic.twitter.com/SjEviPU08j
— 事実を (@kirykarin) December 18, 2019
そしてこの度の民事訴訟で伊藤さんが勝訴したのですが…。
ほら! 表記するなら、元 TBS記者じゃなく、『総理』著作者・山口敬之だよな。売れたんでしょ、あの本。 https://t.co/XiwbLDtApD
— 室井佑月 (@YuzukiMuroi) December 18, 2019
海外メディアの報道をいくつか紹介します。いずれも山口氏は「安倍首相の伝記を書いた人物」「安倍首相について執筆している人物」であると明記されています。
*【すごい見出し】「英国を代表する高級紙タイムズが『安倍首相の伝記作家が若い同業者を強姦』と報じる」
… Times, December 19, 2019.https://t.co/nxJTa4Lwiy
— Hiroshi Matsuura (@HiroshiMatsuur2) December 20, 2019
伊藤詩織さん勝訴を報じる英紙ガーディアンの記事。山口氏を「安倍首相と親密なTBSの元ワシントン支局長」と紹介。https://t.co/znPHXtgg6I
— あまのじゅく (amanojuku) (@amanojuku) December 18, 2019
伊藤詩織さんの判決はトムソン・ロイターでも報じられている。
Japanese journalist wins damages in high-profile lawsuit over alleged rape. https://t.co/zSQ6LQM7KJ— toripy (憲法守ろう) (@t_toripy) December 18, 2019
質問も厳しいですね。
海外メディア。実に鋭い。「駅まで5分の距離を彼女が酔っ払って歩けなかったのなら、なぜホテルに連れて行ったのですか。酔っ払って意識がない彼女と、なぜセックスすることが良いことだと思ったのですか?」「どうしてタクシーにお金を渡して家まで送らなかったのですか?」 https://t.co/4wdIAgJs1c
— 吉岡正史 (@masafumi_yoshi) December 20, 2019
海外メディアの反応をまとめた記事もあります。
伊藤詩織氏の勝訴に海外メディアが「日本のブラックボックスを打ち破った」と続々と伝えている。伊藤氏は心ない中傷にも法的措置を検討している。今度は日本人全体の番だ。公文書改竄、破棄、統計操作、法違反、日本政治社会破壊のウソ八百安倍ブラックボックスを打ち破ろう! https://t.co/0xV8pVITa9
— 佐藤 章 (@bSM2TC2coIKWrlM) December 19, 2019
敗訴後の山口氏が記者会見で、「これからは自分も発信をする」と語っていたことから、性被害者に対する誤解と偏見を深めるような言説が出回る危険があると懸念されます。
日本とイギリスでカウンセラーとして活動する溝口あゆかさんが性被害のトラウマとうい観点から「誤解」について説明をしているので、長くなりますが引用します(12月21日にFBに公開設定で書いておられた記事です)。
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性被害にまつわる誤解をトラウマのメカニズムの認知度を上げることでなくしていきたいと心から思います。ということで、長いけど一度目を通して頂けると嬉しいです。
①抵抗しなかったという誤解。(父親が無罪になったケースで)
トラウマの3F(Fight Flight Freeze)は、トラウマを学んだ人なら誰でも知っているはず。(戦う、逃げる、フリーズする)
ショックが大きい時、自律神経は戦うか逃げるかという交感神経状態になる。戦うことも逃げることもできないと「フリーズ」モードに“自動的に”なり、体が動かなくなる。
抵抗しなかった・・・は、自律神経がフリーズ状態になってしまったからであり、自律神経は自らの意思で動かせない。
②相手に普通にメールをしているから・・という誤解
トラウマが起きたとき、精神的な混乱や辛さを感じないように麻痺、乖離という症状が潜在意識的に起きる。この場合、
・事件そのものを抑圧し、忘れてしまう。
・なにもなかったかのように振舞う。
トラウマを受けた場合、自律神経がフリーズモードになると同様に心理的にも、それは起きていない、何もなかったという麻痺、乖離状態が起きることが非常に多い。このとき、今までと同じような自分で相手に接し、同じように振舞おうとする。
③直後の言動でウソついている云々の誤解。
トラウマになると偏桃体ハイジャック(感情脳に支配される)が起きてしまい、大脳皮質の機能が低下し、正常な判断、正常な記憶、正常な行動がそれなりの長い期間できなくなる。
被害者の話のつじつまが合わない、記憶が違うから嘘をついていると判断する人が多いが、トラウマを受けた状態では、こちらが普通。
④トラウマを受けた人はこうなっているはずという誤解。
被害を受けた話をするとき、淡々と語る人、泣きながら語る人、ときどき笑いながら語る人、辛そうに語る人、人それぞれであり、表面上から判断するのは不可能。
また例えば、性的トラウマの場合、鬱になる人もいれば、派手な格好をして性的に活発になる人もいる。これは本人が選んでそうしているというより、脳や自律神経が深く関わっている。
⑤加害者の顔も見たくないという誤解。
トラウマの3Fは、トラウマを受けた瞬間だけではなく、解消されない限り続く。ある人は絶対会いたくない(逃げる)、ある人は戦う(相手と向き合う)、ある人はひきこもり、誰とも会わないなど、人それぞれである。
また、最近では4Fともいわれ、fawn(加害者に取り入る)行動をするパターンも知られてきている。他の例でも、イギリスで長年性的虐待されていた人が自分を虐待した先生(牧師)を自分の結婚式に呼ぶという行為をしている。これはもう一度相手とあって、違う結果を得ることで、トラウマを解消したいと心の深いところ起きる行動である。
⑤なぜ今頃訴えるのか?という誤解。
多くの性被害者が、相手を訴えるのに何年もかかっている。
欧米のMeToo運動の被害者たちは、10年以上かかって声を出している人たちであふれている。ハリウッドプロデューサーのワインシュタインや今年自殺したとされているエプシュタインの被害者たちは10年、20年以上声を出せなかった。2年前のことを今頃というのは、性被害者が声をだしにくいという事情をまったく知らない無知な判断である。
ーーーーーーーーーーー引用、終わりーーーーーーーーーーー
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。