龍谷大学政策学部教授で「憲法9条京都の会」事務局長の奥野恒久さんの解説による憲法朗読第4シリーズ4回目は、第四章 国会から第52条、第53条、第54条です。
朗読はフリーアナウンサーの塩見祐子さん、イラストはかしわぎまきこさん、動画の再生時間は2分2秒です。引き続き前文はこちらから、第20条はこちらから、第41条・第43条はこちらからお聞きください。
《第52条・第53条・第54条解説》
中学校のときに、国会の種類として、常会(通常国会)、臨時会(臨時国会)、特別会(特別国会)、そして参議院の緊急集会がある、と学んだのではないでしょうか。憲法52条は常会について、53条は臨時会について、54条1項が特別会、54条2項・3項が参議院の緊急集会について定めています。よく覚えている人は、常会は毎年1月に召集され、会期は150日間で、1回だけ延長できるということも記憶しているかもしれません。これらは、国会法2条、10条、12条2項に定められています。憲法は基本的なことだけを定め、詳細は国会法という法律で規定しているのです。
大学1年生を対象とした「日本国憲法」の最初の講義で、私は憲法54条を紹介します。こんな具合です。「最近、いつ衆議院が解散されたか分かりますか?」と問いかけ、スマフォででも調べてもらって2021年10月14日だと特定します。それから、憲法54条を参照し、解散の日から40日以内の10月31日に総選挙が行われ、その総選挙から30日以内の11月10日に特別国会が召集されたことを話します。さらに11月10日午前に第1次岸田内閣は総辞職しましたがこれは憲法70条の規定に基づいてですし、その日の午後に国会で岸田文雄氏が内閣総理大臣に指名されたのは憲法67条1項に基づいてです。その後、岸田首相は皇居にて憲法6条1項に基づいて天皇より内閣総理大臣に任命されます。あたりまえのことですが、日本の政治は日本国憲法に基づいて動いているのです。あらためて、憲法は、国の統治の基本構造と手続も定めているのです。「制定から80年近くたち、時代も大きく変わったから憲法も変えるべきだ」という声をしばしば聞きます。しかし、このような憲法を簡単に頻繁に変えてしまっては、政治の土台が揺らぐのは必至でしょう。時代の変化のなかで、いまの憲法で人々の権利を十分保障できないところがあるならそれはどこなのかを見極めることこそ必要なのです。
さて、53条後段が「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めているのは重要です。日本では、内閣(現在では岸田政権)は国会の多数派(現在では自民党と公明党)の信任に基づいて成立し、また国会に対して責任を負うという、議院内閣制を採用しています。しかし、53条後段が「4分の1以上」とすることで少数派の存在も重視しているのです。問題は、昨今、このことの意義が全く踏まえられていないことです。その露骨な例は、2020年7月末と2021年7月中旬、野党側から憲法53条に基づき、臨時会の召集要求がなされたにもかかわらず、当時の安倍内閣、菅内閣は、要求に応じず安倍内閣は2020年9月中旬、菅内閣は2021年10月初めに召集された国会で総辞職をしたのです。両内閣は、憲法で義務づけられていることを履行しなかったのです。
憲法を変えることには熱心な政権政党ですが、それを守ろうとしません。憲法とは、国民が権力者を縛るための法です。私たちとしては、憲法に照らして政治を監視していかなければなりません。
※次回は6月27日(木)に第9条を公開予定です。