今年は梅雨入りが遅くて少し心配になりますが、もうしばらくは気持ちよい初夏気分に浸れそうですね。何より傘をささずに散策できるのはありがたいことです。
△~○燕の子園の子どもに追はれ行く 美春
【評】童謡の赤蜻蛉は子供に追われますが、燕のような素早い鳥の場合、追うのは無理ではないかと思います。下五がたとえば「見送らる」ならわかります。
△~○急に立ち一村覆ふ夕の虹 美春
【評】俳句は動きのある映像ではなく、静止画(写真や絵など)ですので、「急に立」ったことと、一村を「覆」ったことを同時に描くことができません。どちらか一方で一句作ってほしいと思います。「夕暮の村に突如と虹立てり」「すつぽりと一村覆ふ夕の虹」など。
◎列をなすシニアライダー青嵐 妙好
【評】イケオジの集団ですね。「シニアライダー」も「青嵐」もかっこよくて、きまっています。
○高窓のもと留置場梅雨ちかし 妙好
【評】「高窓のもと」まで読むと、「下」の意味の「もと」を連想してしまいますので、ここは「元」という漢字を使ったほうがいいでしょう。「窓高き元留置場梅雨ちかし」。留置場は警察署内にある施設ですが、もしかすると拘置所ではとも思いました。それなら「高窓の元拘置所や梅雨近し」でしょうか。
○硝子戸の内の暗闇虎が雨 徒歩
【評】外から硝子戸を覗き込んでいるのですね。どこか心象風景を思わせます。「硝子戸の内は暗闇虎が雨」とどちらがいいでしょう。
○~◎硝子戸の外白白と竹夫人 徒歩
【評】こちらは硝子戸の内側から外を眺めての光景ですね。竹夫人が不思議な存在感をかもしています。明け方でしょうか。「白白と」の表記のほか、「白々と」「しらしらと」「ほの白し」など、迷うところではあります。
○あぢさゐの道や自転車ゆつくり押す 実花
【評】雰囲気のある句です。下五の字余り(6音)が惜しい。「あぢさゐの道自転車を押しゆけり」とするのも一案です。
○菖蒲田に風の届かぬ真中あり 実花
【評】おもしろい発見の句です。「菖蒲田の真ん中風の届かざる」と考えてみました。
△~○古民家を囲む水蝋樹の花清し 瞳
【評】「水蝋樹」と書いて「いぼたのき」と読むのですね。初めて知りました。「水蝋樹の花」で初夏の季語。清楚な花として有名とのことですので、「清し」は不要でしょう。また中七が字余り(9音)です。「水蝋樹咲くや古民家取り囲み」としてみました。
○朝の陽にきらり蜘蛛の囲潜り抜く 瞳
【評】概ね結構ですが、「きらり蜘蛛の囲」が今一つでしょうか。「朝の日を弾く蜘蛛の囲潜りけり」くらいでどうでしょう。
△~○園児らのこゑ降り注ぐ植田かな 永河
【評】「降り注ぐ」と言う場合、樹木など高い所から鳥や蝉の声が聞こえてくるイメージが強いので、園児くらいの背丈だと、「降り注ぐ」はやや大袈裟な気がします。「園児らのこゑよくとほる植田かな」など、もう少し考えてみてください。
○夏薊ステノザウルス子等は好き 永河
【評】楽しい遠足の風景が思い浮かびます。このままでも結構ですが、客観写生に徹するなら「子ら囲むステゴサウルス夏薊」となるでしょうか。ちなみにウィキペディアでは「ステノザウルス」ではなく「ステゴサウルス」となっていました。
◎仏唇の紅微かなり半夏生 智代
【評】「法華寺の特別開扉」との前書があります。色気を感じさせる独特な雰囲気の句。季語も絶妙だと思いました。
○冥土より声を絞るか牛蛙 智代
【評】牛蛙の雰囲気はよく出ていますが、芭蕉の時代でも作れそうで、「冥土より」が21世紀の句としては古いかなと感じました。
〇擬宝珠を咲かせり寺の小さき池 欅坂
【評】はっとさせる驚きはありませんが、安定した写生句です。
△~〇五月闇庚申塚をなぞりけり 欅坂
【評】庚申塚に刻まれている文字を指でなぞったのでしょうか。であれば、「庚申塚の文字なぞる」としたほうがわかりやすいように思います。季語はおもしろいですね。
△~〇中学は隣の島へ夏の雲 なつ
【評】小学校は自分の島だったけれど、中学は隣の島へ行くことになった、という意味ですね。この句が成り立つのは(鮮度があるのは)、4月の新学期の頃でしょう。とすれば、季語は「春の雲」としたほうが生きてきます。
◎走り梅雨葉陰に百のだんご虫 なつ
【評】好き嫌いは分かれるかもしれませんが(わたしは団子虫が好きです)、とにかくインパクトのある句です。季語もよく合っています。
〇~◎青空へすくつと佇ちて花菖蒲 恵子
【評】菖蒲の花の立ち姿をうまく捉えた句です。青空も菖蒲の花の色とよく呼応しています。「佇てり」と終止形にして、切れを明確にしましょう。
〇十人の和太鼓夏の空を突く 恵子
【評】ヤリなどでしたら「突く」で結構ですが、音の場合はどうでしょう。「夏の空」の前に切れを入れ、「十人の和太鼓の音や夏の空」とするのも一法です。動詞は句を説明的にしますので、できるだけ省きましょう。
◎万緑や語りかくかに飛鳥仏 万亀子
【評】飛鳥仏に生命が宿ったかのようです。それも万緑という生命感あふれる季語の力でしょうね。
〇風薫る橿原宮の砂利の音 万亀子
【評】五感のうち、嗅覚と聴覚を用いた感覚的な句です。このままでも結構ですが、句にもう少し勢いをつけるなら、上五を「薫風や」とするのも一法でしょう。
△~〇雑草に蛍見つけてはしゃぐ児ら 千代
【評】「雑草」があまり文学的でないので、もう一工夫したいところ。あと、下五を動詞止めにして句の形を整えましょう。「草の葉に蛍見つけて児らはしやぐ」。俳句では平仮名はすべて大きく書きます。「ゃ」は「や」としましょう。
△~〇雨濡れし色鮮やかなアジサイ寺 千代
【評】ウィキペディアには「アジサイ寺」となっていますが、俳句では「アジサイ」と片仮名にはせず、漢字か平仮名にしましょう。明確な切れを入れ、「雨に濡れ色鮮やかや紫陽花寺」としてみました。
〇召し上がれ蛍に手向く砂糖水 白き花
【評】茶目っ気のある句ですね。こういう作風も悪くはありません。上五、字余りになりますが「召し上がれと」としたほうが句が安定するように思います。
△~〇今しがた命包みし蛇の衣 白き花
【評】抜け殻ですから、さっきまで生きていた蛇を包んでいたのは確か。つまり、当たり前のことを言っているだけにも思えます。このままですと「今しがた」の使い方に違和感をおぼえますので、「今しがた命出でゆき蛇の衣」でいかがでしょう。
次回は7月2日(火曜日)に掲載します。前日の7月1日午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。