「カナリア俳壇」100

気がつけば「カナリア俳壇」も100回目となりました。皆さんの意欲的なご投句のおかげと感謝しております。これからもこのペースで共に学んでゆけたらと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

○羊歯の先解れさうなり春の水     ゆき

【評】歳時記には「しだ萌ゆ」という春の季語がありますので、それのことかなと思いましたが、「羊歯の先」なら季語とはなりませんので、このままでけっこうでしょう。「春の水」の句となりますね。羊歯のほうを季語にするなら、たとえば「羊歯の芽のほぐれかけをり源流に」などとする方法もありそうです。

◎花吸ひのはばたくたびに花吹雪     ゆき

【評】「花吸ひ」とは目白の別名なのですね。典雅で美しい句です。

◎龍神の松の迫り出す春の海     瞳

【評】力強く、構図もしっかりとした句で、一幅の日本画を思わせます。松が龍神の化身のようですね。

○島宮の雅楽聞こゆる春祭     瞳

【評】「聞こゆる」は自明なので、そこをもう一工夫できるとさらによくなりそうです。一例ですが「島宮の雅楽鳴り出し春祭」など。

○~◎若楓一葉摘みて幼児に     美春

【評】優しい情感に包まれた作品です。もう少し漢字のつながりを減らすなら、「一葉の楓若葉を児に摘めり」とすることもできそうです。ちなみにわたしは漢字を続ける時は4つまでという原則を設けています。見やすさという理由からですが。

◎守宮来て戸口の窓に身じろがず     美春

【評】しっかりとした写生句でけっこうです。守宮のいる暮らし、いいですね。

◎金堂に百灯揺るる暮春かな     徒歩

【評】幽玄で、しかも壮大な景です。いわれのある金堂なのでしょう。「暮春」ならではの情緒も魅力です。

△~○洗ふ手のさいう対称昭和の日     徒歩

【評】当たり前のことでも季語次第で化学変化を起こし得るというのが俳句の醍醐味ですが、この作品に関しては少々当惑気味で、うまく句意がくみ取れませんでした。

○相合傘さして桜の通り抜け     千代

【評】ほのかに色気を感じさせる、きれいな句。上五の字余りを解消するため、「相傘をさして」とすることもできます。

◎新緑の風や朝摘みハ一ブティ     千代

【評】気持ちよさが伝わってきました。下五は「ハーブティー」ですね。

◎花冷えの舌に溶けゆく和三盆     妙好

【評】まさに和の世界ですね。静謐で繊細な感覚の句と思います。

○弥次喜多の七里の渡し初つばめ     妙好

【評】弥次喜多の伊勢参りを思いやっての作ですね。必ずしもその場に行かなくても作れそうだという点ではやや臨場感に欠けますが、巧みな一句です。

○藤棚のベンチでそつと踏む花弁     白き花

【評】美しい花弁を踏むのがためらわれたのでしょうね。下五、名詞より動詞で終えたほうが雰囲気が出るかもしれません。「藤棚のベンチに花弁そつと踏み」、あるいは「藤棚のベンチに花弁踏まぬよう」など。

○風立ちて藤波しぶき色に酔ふ     白き花

【評】「藤波」という季語には、風が吹いていることが含まれていますので、「風立ちて」は不要です。「藤波のしぶきの色に酔ひゐたり」くらいでいかがでしょう。

◎正座して経読む児らや花御堂     織美

【評】よく情景が見えてきます。「花御堂」も華やぎがあっていいですね。

◎説教の僧は卒寿よ著莪の花     織美

【評】句形もよく(「や」でなく「よ」としたところもけっこうです)、季語の離し方も上々です。

○アルプスを望む一村朝霞     万亀子

【評】季語を「朝霞」にすると、アルプスがよく見えなってしまうのは惜しまれますが、スケールの大きな気持ちの良い句です。

○~◎板囲ひの絵島の住まひ桜散る     万亀子

【評】「板囲ひ」が哀切ですね。季語「桜散る」も哀れをさそいます。上五の字余りを解消するには、「桜ちる絵島屋敷は板囲ひ」とする手もあります。

◎名画座に手描き看板春の虹     実花

【評】昭和の雰囲気がよく出ている句です。いまはこんな映画館が本当になくなりました。どこか郷愁をさそうような明るい季語がよく合っています。

○聳え立つ黒四ダムや昭和の日     実花

【評】句の形はぴったりと決っていますが、即物具象句としての臨場感はあまりありません。しかし昭和の日の記念としては意味のある句と思います。

○朝風に鶯鳴けり吉良の里     欅坂

【評】吉良の里に吟行に行かれたのですね。手堅くまとめられた一句です。

○万葉の小径を歩く夏隣     欅坂

【評】こちらも手堅く作られた句です。ややパンチ不足ですが、とりあえずけっこうでしょう。

○霾ぐもる空にタワーの点描画     智代

【評】黄砂のせいで空にそびえるタワーが点描画のように見えたのですね。手元の歳時記をみましたが「霾ぐもる」の使用例が見当たりません。「霾ぐもり」という名詞形はあるのですが。俳句は先例主義の一面がありますので、どこかに「霾ぐもる」の例句が載っていればOKでしょう。

△番の蝶黒を纏ひて円舞曲     智代

【評】上五を「つがいのちょう」と読むと字余りです。「黒を纏」うとは黒色の蝶(揚羽蝶など)ということでしょうか。「円舞曲」という比喩もポエムとしてはありですが、俳句では避けたいところ。レトリックに頼らず、実感を素直に詠んでいただければと思います。

△~○果てしなき命のかたち花筏     永河

【評】もしかするとDNAのらせん構造からの連想でしょうか。ただ、上五中七のフレーズは、いろいろな場面に応用可能な気がしますし、花筏の花びらは命の散った(終えた)ものというイメージが強いので、このフレーズにふさわしいかどうか悩むところです。

△~○田の矩形満たしておくれ蓮華草     永河

【評】「おくれ」という呼びかけがどうでしょう。呼びかけるなら「満たせよ」のような文語調にしたい気もします。「矩形」も表現として硬いように思いました。

○つばくろや校舎の跡にサッカー場     咲江

【評】学校を取り壊し、新たにサッカー場にしたのですね。その高揚感をもう少し出すとすれば「学校がサッカー場につばくらめ」とでもして、前書を付けてはいかがでしょう。

○ヘルメット女子の調査や抱卵期     咲江

【評】明るくて、どこかユーモラスな句です。「や」で切ってしまうと調査と抱卵期がつながりませんので「ヘルメット女子が小鳥の卵観に」とする手もありそうです。

次回は5月21日(火)の掲載となります。前日20日(月)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。皆さん、よい連休をお過ごしください。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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