かわらじ先生の国際講座~自衛隊と米軍の指揮統制連携とは?

No Picture4月8日から14日まで岸田総理大臣が米国を公式訪問しました。国賓待遇ということで米国側のもてなしも盛大だった印象を受けます。首脳会談、公式晩餐会、連邦議会上下両院合同会議における岸田首相のスピーチ、さらには日米比(フィリピン)首脳会談など盛りだくさんの日程で、協議内容も防衛や外交、国際情勢、経済安全保障等々本当に多岐にわたり、その成果をどう総括すればよいか難しいところだと思います。その中で、特に注目すべき点は何でしょう?

米国のバイデン大統領は11月の大統領選のための選挙キャンペーン真っ最中ですから、それに役立つものであることが至上命令でしたし、岸田首相も支持率低下の中で9月に自民党総裁選を控えていますから、政権浮揚につなげたかったはずで、双方の思惑が合致しての岸田氏訪米だったといえます。その成果は、4月10日に発表された日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」に記されています。

その中で最大の成果は、真っ先に出てくる項目「防衛・安全保障協力の強化」でしょう。

No Picture具体的にはどのような中身ですか?

これ自体が全10段落から成る長い文章で、書かれている内容も大半が従来の日米共同文書を踏襲したものです。ただ、わたしが注目するのは、まず冒頭に「我々のグローバルなパートナーシップの中核は、日米安全保障条約に基づく二国間の防衛・安全保障協力であり、これはかつてないほど強固である。我々は、日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎であり続けることを確認する」と書かれていることです。「グローバルなパートナーシップ」という表現は以前から使われていましたが、今回は、その中身が「防衛・安全保障協力」だと明確に打ち出されたことだったと思います。簡単にいえば、軍事におけるグローバルな協力を約束したということになります。

No Picture実質的な内容をさらに具体的に示してもらえますか?

共同声明の文言をなぞる形で言いますと、まず大前提として、日本が2027年度までに防衛予算をGDP比2%に増額すること(つまり従来の2倍に増やすこと)、そして(米国のトマホークを購入し)反撃能力を保有する決定をしたことが挙げられています。今までの日米同盟は、米国が攻撃を担う「矛」、日本は後方支援とディフェンスに徹する「盾」という役割分担になっていましたが、今後は日本も「矛」の役目を果たすことができる、すなわち戦うことができるようになったと日米政府は確認したわけです。その前提のもとに、米軍と自衛隊の指揮系統をどうするかをはっきり決めようという段階に至ったのです。

No Pictureそういえば、新聞の見出しなどでも「在日米軍の指令機能強化」「日米指揮統制」「自衛隊の統合作戦司令部創設」などといった語をたくさん見かけます。そのへんをもう少し詳しく説明してもらえますか?

まず日本側の取組みについて述べます。自衛隊は2024年度末、陸・海・空自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」を創設することになっており(東京・市ヶ谷に置き、240人規模になる予定)、自衛隊法などの改正のため現在、衆院本会議で審議に入ったところです。3自衛隊を一元的に統括し、米軍司令部との「相互運用性」を向上させるのが目的です。この「統合作戦司令部」司令官の米国側カウンターパートとなるのは、インド太平洋軍司令部の司令官とのこと。
ちなみに自衛隊では、2006年に統合幕僚監部が創設され、統合幕僚長が制服組のトップに立ち、陸・海・空自衛隊のそれぞれの幕僚長を従えて有事の際に先頭に立ち、首相の補佐をする役目を負っているのですが、今度新設される統合作戦司令部との関係が今一つよくわかりません。わたしの印象ですが、従来の統合幕僚長は首相のサポートをするなど国内での任務を負い、他方、新たな統合作戦司令部の司令官は専ら米軍の司令官と行動を共にする、ということになるのでしょうか。とすれば、日本政府がブレーキをかけられなくなりはしまいかと危ぶみます。

No Picture自衛隊との連携のため、米国側はどのような取組みをしようとしているのでしょう?

在日米軍は陸・海・空軍及び海兵隊の約5万5千人から成り、在日米軍司令部は東京・横田基地に置かれています。しかしこの在日米軍司令部は権限が小さく、たとえば沖縄にいる海兵隊や横須賀の米海軍等に指図することができません。在日米軍に指図できるのはハワイに根拠地を置くインド太平洋軍司令部なのです。
日米で緊密な協力をするといっても、東京とハワイにそれぞれの最高司令部があるのは、距離的にも時差の面でも何かと不都合であるとの観点から、米国側は在日米軍司令部の権限を拡大し、有事の際は同司令部に指揮権を委ねる方向で改革を進めています。
ただし、これはわたしのうがった見方かもしれませんが、米国はインド太平洋軍司令部と自衛隊の統合作戦司令部を同格にしたくはないように感じられます。米国からすれば、自衛隊の統合作戦司令部はせいぜい在日米軍司令部と同格がいいところで、インド太平洋軍司令部はもっと格上なのだと考えているようにも思われるのです。

No Pictureなぜそう思うのですか?

米国は日本に対し、台湾有事と朝鮮有事での出動を求めていて、それ以上の軍事力拡大を欲しているわけではなさそうだからです。むしろ日本の方が、AUKUSに加わったり、NATOとも連携したりと、よりグローバルな自衛隊の活用を望んでいるふしがあります。米国としてはAUKUSに関しても日本の技術提供や軍需品の生産は求めていますが、今後自衛隊が強大な軍隊に育っていくことまで許容するつもりがあるのかどうか疑問です。自衛隊が日本国軍に変貌し、ウクライナや中東に出動するなどということはあるまいが思いますが、そのへんを今の岸田政権はどう考えているのでしょう。
林官房長官は4月11日の記者会見で、日米間の指揮統制強化に関して、「自衛隊の統合作戦司令部が米軍の指揮・統制下に入ることはない」と言明しましたが、それをどう保証するつもりなのかも、まだはっきりしません。自衛隊と米軍の指揮統制連携の具体的な形は、早ければ来月から両国間で協議が始まるはずですから、注視しなくてはなりません。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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