「カナリア俳壇」97

暖かくなったかと思えば急に寒くなったり、晴れたかと思えば雨が降り出したりと、不安定な天候の毎日です。本格的な春の到来が待ち遠しいこの頃です。

△梅林に銭眩しかり願ひ亀     瞳

【評】梅林のなかに「願ひ亀」の石像があって、そこにお賽銭が置かれていたのでしょうか。せっかく梅林に出かけて、お賽銭や「願ひ亀」に気を取られているのはちょっともったいな気がしました。とりあえず「梅林や」と上五に切れを入れ、梅林に感動していることを示すといいかもしれません。「梅林や銭煌めける願ひ亀」など。

△足元に赤き椿や小判石     瞳

【評】足元ということは落ち椿でしょうか。そこに小判石といわれる石があったのですね(ネットで調べると天然記念物の花崗岩の一種のようですね)。報告どまりで今一つときめきが感じられませんでした。

△薬喰傘寿集落一廻り     作好

【評】薬喰とは養生のために栄養食(獣肉)を食べること。傘寿の方が薬喰で精力をつけ、集落を一廻りしたということでしょうか。少々解釈にてこずりました。

△仕掛け罠獣の目に終の冬     作好

【評】「獣」が曖昧ですので、具体的な動物名を示してほしいと思います。全く別の句となりますが「生捕られ観念の目の狸かな」と考えてみました。

〇煎餅の渦なぞる児ら冬うらら     チヅ

【評】渦巻き模様の煎餅があるのですね。明るい冬の景を思い浮かべました。

△~〇冬の窓息かけて描くこぶたの絵     チヅ

【評】「冬の窓」という季語はありませんので、そのへんをもう一工夫してほしいと思います。たとえば「窓に息かけて描くぶた冬の朝」など。

△~〇道の駅売場賑はす花菜かな     美春

【評】道の駅では菜の花を食材として売っているのか、それとも切り花として売っているのか、この方面にうとくてよくわかりませんが、「賑はす」を何とかしたいところ。「菜の花の黄の溢れだす道の駅」では大袈裟でしょうか。

〇小魚の群るる浅瀬や寒明くる     美春

【評】春の到来を感じさせる景ですね。句形もしっかりとしています。

〇鮨飯の照りの明るき二月かな     妙好

【評】鋭敏な感覚の句で結構です。あえていえば「照り」と「明るき」に若干重複感があります。「扇ぎたる鮨飯の照り二月来る」などとする手もあるでしょうか。

〇目張り入れピンヒール履く久女の忌     妙好

【評】靴のことにうとくて「目張り入れ」がどういうことかよくわかりませんが、中七の切れを明確にするとさらにメリハリのある句になるように思います。「目張り入れ履くピンヒール久女の忌」。

〇若草や馴染みのバスの色かはる     織美

【評】春になり、バスも装いを新たにしたのですね。下五がやや説明的ですので、もう少し軽やかな気分を出すとすれば「若草や馴染のバスも新色に」とする方法もあります。説明臭をなくすには、動詞を減らすことです。

〇~◎山つつじ坂を下れば陶の町     織美

【評】作者はこれから山を下りようとしているのですね。遠近法の構図もしっかりとした写生句です。

△~〇立春や母の書  ’春’ の軸を掛く     ゆき

【評】まず、俳句では洋風のカッコは用いません。「春」とかぎかっこを使って下さい。立春に「春」の掛け軸では予定調和的で、作品としては物足りませんが、ご自身の生活記録として残してほしい句です。

◎夫呼びて此処よ其処よと蕗の薹     ゆき

【評】作者の浮き浮きとした気持ちが伝わってきます。まるで蕗の薹が呼んでいるようにも読めて楽しい句です。

△~〇この歳で喜ぶバレンタインデー     徒歩

【評】「いまさらこの歳で、、、」とは中高年が大概口にすることなので、やや月並ではありますが、「喜ぶ」というところに俳諧味があるでしょうか。

〇青空やはや散るものに梅の花     徒歩

【評】俳句は断定、もしくは定義づけの文芸でもあると思っています。ただし、「~するものに」という表現はわりと類型化していますので、少し分別臭さを感じました。

〇春風や象の引越し完了す     実花

【評】句材はとてもいいですね。「完了す」がただの説明になっているのが惜しまれます。引越し場面が目に見えるように描写できるとさらに精彩のある句になります。一例ですが、「春風や象の引越し綱を引き」など。

〇春光や蜂蜜選ぶ道の駅     実花

【評】これも句材は新鮮。「選ぶ道の駅」に若干の違和感をおぼえます。「並ぶ」のほうが表現しては無理がないかもしれません。「春光やはちみつ並ぶ道の駅」と「蜂蜜」を平仮名にすると明るさが増すように感じます。あるいは「春光を弾くはちみつ道の駅」など、さらに工夫できそうです。

〇~◎寒風や友の手編みの肩ケ一プ     千代

【評】句形も上々の写生句です。中七・下五のやさしい情調からすると、上五がやや強すぎる気がしますので、たとえば「料峭や」と春の季語にするのも一法でしょうか。

△~〇雲間より日差し暖たか芽吹く梅     千代

【評】「暖か」と「芽吹く梅」の季重なりが気になります。「雲間よりやさしき日差し梅芽吹く」としてみました。

〇~◎めくるめく日をかき混ぜて雲雀鳴く     永河

【評】ゴッホの絵の渦巻きを思わせる大胆で力強い句ですね。これは高空に舞い上がる雲雀の目で見た景色なのではと思いました。とすれば、「雲雀舞ふ」でしょうか。

〇日常の扉開けゐる水仙花     永河

【評】抽象的かつ哲学的な句で、いろいろ想像が膨らみます。「開けゐる」ですと少々間延びしますので、「開けり」と切れを入れてはいかがでしょう。「未来への扉開くや水仙花」などとすれば、卒業生への祝福の句にもなりそうです。

◎白猿の見得にため息春の宵     智代

【評】「市川團十郎白猿襲名披露」と但し書きがあります。感嘆の気持が素直に表れていてたいへん結構です。季語も満ち足りた気持ちをしっかりと受け止めています。

△~〇女学生髪に春風遊ばしむ     智代

【評】ちょっと表現が凝り過ぎかなと感じました。「女生徒の黒髪乱し春の風」「春風に髪ふくらめり女学生」など髪の様子をうまく描写できるといいですね。

〇十歳の子獅子跳び跳ね春舞台     翠

【評】「春舞台」という季語はありませんので、そこを何とかしたいですね。新年の季語になりますが「獅子舞」を使う手もあります。「獅子舞の獅子は十の子とんと跳ぶ」あるいは「十歳の子の獅子跳ぬる春日かな」など。

〇春寒し父とはぐるる東京駅     翠

【評】季語と状況はよく合っていますが、下五の字余りが調べを悪くしています。「春寒や東京駅に父捜す」くらいでどうでしょう。

△日本海波高き河豚の宿     万亀子

【評】五・五・五になっていないでしょうか。日本海もやや漠然としています。とりあえず「波高き若狭の海や河豚の宿」としてみました。

〇厚切りの白き沢庵宿自慢     万亀子

【評】「宿自慢」まで言ってしまうとやや興ざめです。「宿の膳白き沢庵厚切りに」とすれば、それが宿の自慢の沢庵だと伝わるのではないでしょうか。

〇~◎東風吹くやなぞり読みたる芭蕉句碑     欅坂

【評】句形もしっかりとしており端正な句です。動詞を1つ減らし、「梅東風やなぞり読みたる芭蕉句碑」とすればさらにシャープになりそうです。

〇妻の留守焼蛤の夕餉かな     欅坂

【評】上五で切れていますので、下五は「かな」を避けたいところです。「夕餉」をもう少し俗っぽくし、いかにも「男飯」という感じにして、「妻の留守焼蛤を晩飯に」くらいでどうでしょう。

〇豆をまく吾子の見つむる鬼のパパ     久美

【評】とりあえず出来ている句ですが、「見つむる」では何だかさみしい句になってしまいます。わたしなら「パパ鬼が豆まく吾子を抱きあぐる」としてみたくなります。

〇雪めがね取れば失意や恋冷むる     久美

【評】言わんとすることはよくわかります。このままでも結構ですが、しかし俳句とは感動を詠むものです。アイフルのコマーシャルではありませんが、ここに感動はあるのかどうか……。

〇本堂の奥に茶室や福寿草     春子

【評】「茶室や」ですから、茶室に感動しスポットを当てている句ですね。とすると、福寿草との関係が今一つ判然としません。茶花としての福寿草を詠みたいのであれば、「本堂の奥の茶室に福寿草」としたほうがよさそうに思います。

〇冴返る蛇結茨の太き棘       春子

【評】「蛇結茨」は「じゃけついばら」と読むのですね。太く鋭い棘が特徴とか。「太き棘」だとやや物足りない気もします。「冴返る蛇結茨の棘は牙」などとするともう少し詩味が増すように思います。

△へのもへ字涙顔なり結露窓     白き花

【評】今のところ最も権威があると目される『新版 角川俳句大歳時記』には「結露」が季語として載っていません。別の句になりますが、とりあえず「寒晴や涙垂らせる窓の顔」としておきます。

〇~◎絞り出す啼き声荒む残り鷺     白き花

【評】迫力のある作品です。「啼き声」の「啼き」を取り、中七に切れを入れて、「絞り出す声の荒みや残り鷺」とすれば、さらに鋭さを増しそうです。

次回は3月19日(火)に掲載の予定です。前日(18日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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