かわらじ先生の国際講座~緊迫するコソボ情勢――民族紛争の連鎖!?

No Pictureイスラエル・ハマス間の戦闘やウクライナ戦争の陰に隠れてあまり注目されませんが、コソボにおける民族対立が再燃しているようです。
今年5月にはコソボ北部の都市で、市長選挙をめぐりセルビア系住民が抗議デモを行い警察と衝突する事件がありました。

9月にはコソボ北部で約30人のセルビア系武装集団がセルビア正教会の修道院に立てこもり、警察と激しい銃撃戦を行いました。

コソボ政府はこの事件をセルビア政府の支援によるものと見なし、セルビアとの国境の一部を閉鎖しました。反発したセルビアは国境地帯に軍部隊を派遣し、一気に緊張が高まりました。事態を重くみたNATOは、コソボに駐留する平和維持部隊(KFOR)を増員すると発表しました。
11月20日、NATOのストルテンベルグ事務総長は訪問先のコソボで記者会見を行い、コソボにおける緊張の高まりが他地域へ波及し、暴力の連鎖を生むことがないよう、KFORの恒久的な増員を検討していると表明しました。

ウクライナや中東のみならず、コソボが位置するバルカン半島でも、民族紛争が勃発する危険性が高まっているのでしょうか?

1998年~99年に凄惨なコソボ紛争が起こったことはご存じでしょう。コソボはもともとセルビア共和国内の自治州でした。面積は日本の岐阜県ほど。人口は約180万人ですが、そのうち90%以上がアルバニア人(イスラム教徒が多い)、5%がセルビア人(主としてセルビア正教徒)です。

1990年代、セルビア政府がコソボの自治権を縮小したため、アルバニア人が反発し、そのなかの急進派が武装組織「コソボ解放軍(KLA)」を結成しました。彼らはコソボの独立を目指し、セルビア側と戦闘を開始しました(ハマスとイスラエル政府の関係に似ていますね)。セルビア側が「民族浄化」など残虐行為を展開したため、NATOが軍事介入しアルバニア人たちを加勢しました。事実上アルバニア人が勝利する形で紛争は終結し、コソボでは国連の暫定統治が行われましたが、2008年にコソボは独立を宣言しました。日本や米欧など100ヶ国以上が独立を承認しましたが、セルビアはいまだにコソボの独立を認めていませんし、国連安保理常任理事国のロシアや中国も独立承認しておらず、コソボは国連加盟を果たせずにいます。

No Picture独立してもコソボの政情は不安定なのですか?

コソボ内のアルバニア人とセルビア人の対立は全く解消されていません。北部は圧倒的少数派であるセルビア人の居住区とされていますが、アルバニア人中心のコソボ政府による圧力を受け、セルビア人の不満は高まる一方です。今のところ紛争の再発が食い止められているのは、NATOを主体とする4500人のKFORが常駐しているからです。しかし現在のKFORでは抑えがきかなくなりつつあり、その増員が検討されているのです。

No Pictureコソボがセルビアの一部であったときは、少数派のアルバニア人がセルビア人に迫害され、今度はコソボが独立すると、そのなかの少数派であるセルビア人がアルバニア人に迫害されるというのはまさに負の連鎖ですね。それを思うと、果たして少数民族の独立は正当化し得るのでしょうか?

非常に難しい問題です。欧米諸国や日本は2008年にコソボの独立を承認しましたが、実はこれが2014年のロシアによるクリミア併合を招いたとの見方もあるのです。当時ウクライナ領であったクリミアは、圧倒的多数がロシア系住民で、彼らが住民投票の結果、独立とロシアへの併合を求めたことを口実として、ロシアはクリミアを併合したのでした。コソボが独立を許された以上、クリミアもウクライナから独立する権利があるというのがプーチン政権の言い分だったのです。

イスラエル国内のパレスチナ自治区の問題も似た構図です。国家のなかに国家が生まれ、独立することがどんな事態をもたらすか。国際社会がパレスチナ人に同情はしても、独立支援に至らない理由もそのへんにありそうです。
とはいえ、抑圧された民族が自立を求める動きは今後ますます世界各地で起こりそうな予感がします。たとえばロシア国内のイスラム系共和国や、中国におけるウイグル族の問題なども連動する可能性は決してないとはいえません。われわれは民族による動乱の時代を迎えているのかもしれません。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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