昨年の5月に国際卓越研究大学に関する法律について記事を書きました(「稼げる大学」法案という危機)。現在、国際卓越研究大学の選定作業が進んでおり、東北大学が内定しているという報道があります。当初はもっと多くの大学が選定されると思われていましたが、原資となるファンドの運用実績がよろしくないこともあり、1大学だけになりつつあるようです。そのような中、今国会で突然に出てきたのが国立大学法人法の改定案です。
国際卓越研究大学に選定された大学は、大学の意思決定を行う「合議体」を設置しなければならず、その構成員の半分以上を学外者にすることになっています。この点が、学問の自由の侵害になったり、授業料の大幅値上げや学生施設の解体・商業施設の建設につながったりして、学生の学ぶ権利を侵害するのではないかという懸念が指摘されていました。国際卓越研究大学に選定できる大学が1大学だけになったからか、今回突然、国際卓越研究大学に申請する(しない)に関わらず、政令で指定する国立大学に対して、この「合議体」の仕組みを無理やり作らせることにする法改定案が降ってきたのでした。
まとめると、(1)いくつかの国立大学を特定国立大学法人に指定し、「運営方針会議」という3名以上の最高意思決定組織を置く。(2)運営方針会議は、文部科学大臣が承認した人物を学長が任命する。(3)運営方針会議は大学の中期計画や予算決算に関する事項の決定権を持つ、ということになります。つまり、文部科学大臣が国立大大学の最高意思決定を行う組織の人事に介入するという仕組みです。
また、米国大学がトップダウンというのは一面的理解です。教職員の大学を越えた組合活動や、大学経営に教員や学生の代表を送り込む仕組みを伴うことで「学問の自由」を守っています。独、フランスはより明白に教員、学生、職員の代表と学外者が大学経営に参与する仕組みがあります。学長選考も同様です pic.twitter.com/ntrcM7zSXX
— おきさやか(Sayaka OKI) (@okisayaka) November 14, 2023
なお国会の審議で盛山文科大臣は、大学からの人選提案を文科大臣が不承認にすることは基本的にないという趣旨の発言をしています。しかし、日本学術会議会員の任命拒否のような事件が未解決のままで放置されていることを、重く考えるべきだと言えます。学術会議会員の任命拒否も、首相をはじめとする政府は「政権に批判的な発言をしたからではない」と言い、「総合的に判断」しての任命拒否だという説明にならない説明を続けています。同じことが、特定国立大学法人の運営方針会議メンバーの人選でも起きることは想像に難くありません。
法案の問題点について、説明している動画を上げておきます。1つめのデモクラシータイムズのほうは、法案についての説明に加えて、この法案の内容を先取りしてしまっている大学で起きていることについても語られています。学長の任期上限が撤廃されたり、文学の研究者が半分にされてしまったり、軍事研究が推進されたり…その他、とても心配な事態が進行中です。
他にも動画があり、リストアップされているものがあったので、こちらに紹介しておきます。
国立大学法人法「改正」関連の動画をプレイリストにまとめてみました。
オンラインのニュース番組、集会や会見の記録動画、いろいろあります。長さもいろいろ。
これからさらに増えるはず。#国立大学法人改正案は徹底審議・廃案を求めます https://t.co/8H5a5I4JRB— Komagome Takeshi (@KomagomeT) November 16, 2023
さてこのような法改定案ですが、異例のスピードで審議が進んでいます。9月下旬に政府内で検討が進められているという噂程度の話を聞き始めましたが、10月になっても改定の文案が公開ず、まさか今国会中に採決するとは思っていませんでした。それが突然に閣議決定され、当初は11月15日水曜日には衆議院文部科学委員会で採決される予定でした。ようやく、いくつかの新聞などでも取り上げられるに至り、委員会採決が17日まで伸びました。
通常、大学も含めた公教育に関する法律の制定や改定に際しては、中央教育審議会という文部科学省内の会議体で議論が行われます。我々は文科省のwebサイト等からその資料や議事録を読むことができますし、傍聴も可能です。しかし今回、国立大学法人法の改定案は中教審でも全く議論されず、秘密裡とも言えるようなやり方で進んできたと思います。法改定の内容には様々な意見があるかもしれません。しかし、研究者やジャーナリストなどが十分な情報を得たり、分析したりする時間を与えずに審議を進めていくというやり方は、フェアとは言い難いのではないかと思います。日本のトップクラスの大学の最高意思決定に関わる問題は、日本社会全体の問題だと思います。
「教員、学生、周りの市民で声を上げれば、大学自治への死刑宣告は止められる」
きょう衆院・文部科学委員会で可決された「国立大学法人法」改正案。
入管法で戦ってきた指宿弁護士は、参院での戦いの重要性を訴えています。#国立大学法人法改正 pic.twitter.com/lNk2PR0XnY
— Choose Life Project (@ChooselifePj) November 17, 2023
衆議院の委員会では可決されてしまいましたが、まだ参議院もあります。さらに、可決に際して非常にたくさんの付帯決議が付きました(それほど危険な法案だとも言えると思います)。
たたかいはこれから!
参議院本会議での法案の審議入りは、
補正予算を挟むので、12月1日になる見通し。
参議院文教科学委員会の定例日は火、木。
会期末の13日までは5日、7日、12日だけ。
会期末に野党が内閣不信任案を提出すれば、12日あたりの審議は吹っ飛ぶ。
徹底審議、廃案をもとめましょう! https://t.co/XoB1SwKfpN— 大学フォーラム (@univforum7) November 17, 2023
国立大学法人法の改正案、13個も付帯決議がついた。これほど付帯決議をつけなければならないほどやばい案だということだし、付帯決議は実際には無視されてしまいかねない pic.twitter.com/L7mxIDbncm
— 本田由紀 (@hahaguma) November 17, 2023
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