かわらじ先生の国際講座~米中首脳会談の見方

No Picture米国のサンフランシスコで開かれていたAPEC首脳会議が11月17日、2日間の日程を終えました。21ヶ国・地域のトップが参集する国際会議だったわりには盛り上がりに欠け、様々な政治的配慮から、首脳宣言にはウクライナ戦争やガザ地区情勢への言及がないなど、成果のとぼしい会議だったとの印象を受けました。
今回いちばん注目されたのは米中首脳会談でした。両首脳の直接対話は1年ぶり、習近平国家主席の訪米は6年ぶりとのことですが、その意義や成果は何だったのでしょう?

各紙が見出しに掲げているように、両首脳が「軍対話で合意」(『京都新聞』2023年11月17日など)したことです。バイデン大統領と習近平主席は11月15日、サンフランシスコ近郊で約4時間の対話を行い、台湾問題、経済問題、中東情勢、AI運用問題、気候変動など多岐にわたって意見交換しましたが、最大の成果は、両国の国防当局・軍高官同士による対話の再開で一致したことです。これは米国側が強く求めていたことでもありました。

No Pictureなぜ「軍対話」がそれほど重要なのですか?

近年、両国軍が衝突する危険性が高まってきたということでしょう。さきほど「再開」で一致したと述べましたが、昨年8月、ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことに抗議し、中国側が国防当局間の対話を打ち切ったのです。今年2月には中国の偵察用気球が米本土に飛来し、米軍がこれを撃墜する事件がありましたが、この時も米国防省当局の対話要請に中国側は応じませんでした。今回、この対話を再開しようということになったわけです。
米国防省によれば、中国軍機が東シナ海や南シナ海上空で米軍機に異常接近する事案が相次ぎ、両国艦船が近距離で牽制し合う事態も起きていて、いつ軍事衝突に至るか分からない危険な状況が続いているようです(『讀賣新聞』2023年11月17日)。偶発的な衝突が一気に紛争へと拡大する可能性も否定できません。それを回避するためには、首脳間はもとより、軍当局者による意思疎通が不可欠です。つまり米中ともに、軍事衝突は避けようと合意したということです。

No Pictureそれにしても、どうして両国はそこまで対立するのですか?

一言でいえば、米中の覇権争いです。国際政治のヘゲモニーを握るのは米国か中国か、雌雄を決すべき時期がだんだん迫っているということだと思います。
まず経済力について見てみましょう。APECは世界における人口の約4割、GDPの約6割、貿易額の約5割を占める巨大な経済枠組みですが、そのAPECのGDPに占める割合は、米国が24%、中国が18%です(ちなみに日本は第3位で5%)。

いまは米国が世界一の経済大国ですが、中国が米国に追いつく勢いで迫ってきています。中国は「一帯一路」で主導権を握ろうとしていますが、米国はその中国を経済的に封じ込めるべくIPEF(インド太平洋経済枠組み)を創設し、APEC首脳会談の直前にサンフランシスコで会議を開きました。しかし貿易面での合意は先送りするなど、参加国の足並みはなかなか一致できずにいます。
そして軍事面についてみれば、特に中国の海軍力は急速に増大しており、戦艦の数ではすでに米国を上回り世界第Ⅰ位となっています。その差はますます開く一方です。

米国では、台湾危機(中国の武力による台湾統一)の年として2027年がよく取り沙汰されますが、同年までに中国は米国が反撃できないほどの軍事力を保有することになるとの見積もりがその根拠のようです。

核兵器面でも中国の増強が顕著です。米国防省が10月に公表した報告書によれば、中国は現在500発超の核弾頭を保有している由ですが、2030年には1000発を超す可能性が高いとのことです。そこで核兵器のリスク管理を目的とし、両国政府は、首脳会談の前の11月6日にワシントンで、核軍備管理に関する局長級協議を開催しています(『讀賣新聞』2023年11月8日)。

No Picture今回、軍事対話を再開することに決まり、両国の関係は改善したと見ていいですか?

残念ながらそうとは言えません。たしかに米中首脳は軍事衝突防止で一致をみましたが、台湾をめぐっては激しい応酬があったと伝えられています。それぞれの国内には、軍事衝突も辞さずという強硬勢力が、軍部や政界にいるものと思われます。たとえば米国にも「台湾有事は最悪の事態に備えよ」と唱える対中強硬派の議員がいます。

米国で大統領選挙が近づけば、こうした強硬意見が野党で強まることも考えられます。バイデン大統領としては、そうした声を抑えるために、どうしても習近平氏との間に軍事的な安全保障措置を講じる必要があったものと思われます。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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