かわらじ先生の国際講座~露朝の軍事協力進展か!?

No Pictureロシア極東を訪問していた金正恩・朝鮮労働党総書記がすべての日程を終え、9月17日に帰国の途につきました。10日に特別列車で平壌を出発し、12日にロシア入りして以来、1週間近い旅程でしたが、この訪露の目的は何だったのでしょう?そしていかなる成果をあげたのでしょうか?

金氏は9月13日、プーチン大統領と首脳会談を行いましたが、共同声明などは出されていませんし、ロシアのペスコフ大統領報道官も15日、両国間で軍事協力を含めた協定などは調印されていないと述べました。そもそも北朝鮮と武器取引や軍事協力を行うことは国連安保理の決議によってすべての加盟国に対し禁じられており、ロシアもその決議に賛成票を投じています。プーチン大統領自身、13日に「制裁決議を順守しつつ、北朝鮮との協力を進める」と口にしていました(『朝日新聞』2023年9月15日付)。
しかし、いくつかの「状況証拠」から推して、軍事協力の強化・発展こそが今回の金総書記訪露の目的だったと考えられます。そして各種報道を見る限り、双方は満足すべき成果をあげたと見ていいでしょう。特に金氏は、4年半前の訪露時には予定を切り上げて3日で帰国しましたが、今回はいくつもの軍事施設その他を視察し、ロシアの要人と意見交換を行ったようですから、相当充実した時間を過ごしたように見受けられます。

No Pictureということは、ロシアは北朝鮮に対する国連の制裁決議を形骸化させ、軍事協力を開始する方針に切りかえたということでしょうか?それを示すものはありますか?

先程「状況証拠」という言葉を使いましたが、それを複数示すことができます。
第一に、金総書記に随行した北朝鮮側のメンバーです。核・ミサイル開発の責任者で、軍序列2位の李炳哲氏(党中央軍事委員会副委員長)、弾道ミサイル開発に関与しているとされる張昌河氏(国防科学委員長)と金正植氏(軍需工業部副部長)、軍事偵察衛星担当者の朴泰成氏(宇宙科学技術委員会委員長)、さらに金明食氏(海軍司令官)、趙春竜氏(軍需工業部長)等々といった人々です(以上、『讀賣新聞』2023年9月15日付)。
第二に、金氏一行の訪問先です。13日の首脳会談は、アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で行われました。プーチン大統領自らが基地内を熱心に案内したそうですが、宇宙基地が軍事と密接に関係していることは多言を要しません。

ロシアのタス通信によれば、首脳会談翌々日の15日、金総書記一行はハバロフスク地方の都市コムソモリスク・ナ・アムーレに移動し、そこで戦闘機の製造工場を視察しました。ロシア側からはマントゥロフ副首相兼産業商務相が同行しましたが、同相は「航空機製造の分野などで協力できる」と語った由です(『朝日新聞』2023年9月16日付)。
さらに翌16日には、金氏一行はハバロフスク市を訪問し、軍用飛行場を視察した後、太平洋艦隊の基地を訪れ、フリゲート艦にも乗り込んだとか。そしてロシアのショイグ国防大臣と昼食をとりながら会談も行いました(『日経新聞』2023年9月18日付)。

No Pictureこうしてみると、金総書記の訪露目的が軍事的なものであることはたしかなようですね。両国は具体的にどのような協力関係を結ぼうとしているのでしょう?

ご承知のように、北朝鮮は5月と8月に軍事偵察衛星の打ち上げを行い、いずれも失敗しました。10月には3度目の打ち上げを予定しているようです。北朝鮮としては、これを確実に成功させるための技術をロシアに提供してほしいと望んでいます。ロシアがその要望に応えようとしていることは、首脳会談の場所をボストーチヌイ宇宙基地に選んだことでも明らかです。さらには北朝鮮が力を入れている原子力潜水艦や戦闘機、弾道ミサイルの開発など多岐にわたると思われます。
かたやロシア側は18ヶ月におよぶウクライナ侵攻によって砲弾を大量に消費しており、その増産体制に入ったものの、消費に追いつきません。北朝鮮の兵器は旧ソ連製をもとにしていますので、砲弾等も互換性があります。そこで北朝鮮による提供を求めているのではないかと言われています。さらにロシアがウクライナから奪った領土の開発に北朝鮮の労働者を投入する計画もあると推測されています。
今後はロシアと北朝鮮による軍事演習も公然と行われる可能性があります。実は金総書記の訪露中の9月15日、ベラルーシのルカシェンコ大統領がロシアのソチでプーチン大統領と会談を行いました。両者は露朝首脳会談の内容について意見交換したものと想像されますが、ロシア国営タス通信によりますと、ルカシェンコ氏は、ベラルーシ、ロシア、北朝鮮の3ヶ国間の協力を検討することができると発言したとのことです(『朝日新聞』2023年9月16日付)。
ここで疑問となるのは中国の立場です。9月16~17日、地中海のマルタで、米国のサリバン大統領補佐官と中国の王毅共産党政治局員兼外相が話し合いを行いました。両国は11月に首脳会談を行うべく調整していると言われますので、その下準備かもしれません。米中は現在、歩み寄りを模索しているところですから、中国としては露朝の軍事協力に安易に同調するとは思われません。ロシアと北朝鮮の接近に対し、中国が今後どのようなスタンスをとるのかが注目されます。

ロシアと北朝鮮の軍事協力は日本にとって深刻な脅威になりそうですが、いかがですか?

たしかにわが国を取り巻く国際環境は一段と厳しさを増しそうです。ただし北朝鮮やロシア、そして中国からすれば、日米韓3ヶ国による軍事連携が大きな脅威となっていることも事実です。今年8月、米国のキャンプデービットで3ヶ国首脳会談が行われ、これから毎年、共同軍事訓練を実施すると取り決めたことはまだ記憶に新しいでしょう。

さらに米国は、近々日本領内に「在日宇宙軍」を新設する計画だと伝えられています。露朝と同じことを日米も行っている事実は知っておく必要があるでしょう。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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