Weekend Review~「サクリファイス」

大規模買収事件で逮捕された河井克行元法相の自宅から「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と買収原資とみられる手書きメモがみつかっても、8月の企業倒産が742件と前年同月の1.5倍になっても、テレビでは大して騒がれず、ジャニーズだったり大谷翔平やバスケットW杯といったスポーツばかりず大きく報じられていますね。スポーツの中でも主に野球やサッカー、好成績ならバスケやラグビーといったところで、滅多に話題にならないものもあって、自転車ロードレースは殆ど取り上げられないか、報じられても小さな扱いなので、よく知らない人が大半ではないかと思います。私も全く興味がありませんでした。近藤史恵の「サクリファイス」は陸上選手から自転車競技に転身し、プロのロードレースチームに所属している白石を語り手にした作品です。
自転車ロードレースはチーム競技で、エースを優勝させる為に他の選手は前を走って風よけになったり、エースのロードバイクに不具合が生じた時に自らの自転車のパーツを提供したり。コンサートマスターのバイオリンの絃か切れたら内側の奏者のバイオリンと交換するみたいな感じでしょうか。エースで優勝しても名前が残るのはその選手のみ。アシストする他の選手の名は記録が残らない。例え自分が完走出来なくてもただただエースに尽くす、エースはそうしたチームメイト達の思いを背負ってゴールを目指す、門外漢にはちょっと不思議なスポーツです。「サクリファイス」のタイトルはそうしたエースの勝利の為に自らをささげる選手たちを指すだけでなく、更なる意味を含んでいます。白石がチームに入る前に、一人のアシスト選手が事故で再起不能になり、チームのエースである石尾がその選手をつぶすために仕組んだのではとの疑惑がある。石尾は白石に優しく接しているけれど、本心はどうなのか。導入部に「熱で溶けたアスファルトに少しずつ赤い血が広がっていく」、「あらぬ方向に曲がった首」といった描写があり、いずれ事故が起きることを読者は知っているので、常に緊張感を抱きながら読み進めることになります。近藤史恵には「キアズマ」という自転車競技を描いた作品もあり、それもとても面白かったんですが、読んでみると青春小説にサスペンスを加え、「サクリファイス」の意味を改めて考える等、読後に余韻を残すこちらの作品をより評価する人が多いのも納得です。「サクリファイス」の3年後を描いた「エデン」や石尾を描いた「サヴァイヴ」などの続編も読んでみたてと思っています。(モモ母)

 


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