松野博一官房長官は7月22~24日の3日間、沖縄県・先島諸島のうち、台湾に近い八重山地域を訪問し、石垣市、与那国町、竹富町の各首長と意見交換を行いました。「台湾有事」が懸念される中で、国民保護を担当する官房長官として、島の現状を視察し、島民避難の具体策を協議するのが目的でした。それぞれの自治体の長からは、有事の際に速やかに住民を避難させるための空港や港の整備や、島民が身を寄せられるシェルターの建設を急ぐよう要請され、検討を約束しました。
官房長官がこのような国民保護に関する視察を行ったのは初めてとのことです。しかも3日間という長い日程で東京を離れたのもかなり異例です。岸田政権の国民保護対策への「本気度」がうかがえるように思いますがいかがでしょう?
政府が「国民保護」に本腰を入れようとしているのはたしかでしょう。2004年に施行された「国民保護法」は、都道府県や政令指定都市に対し、ミサイル攻撃などに備える避難施設を定めるよう規定しています。爆風や飛散する破片物から身を守るための堅牢な「緊急一時避難施設」は、2022年4月現在、全国に5万2490ヶ所あり、そのうち安全性が高い地下施設は1591ヶ所とのことですが、沖縄県には地下施設は6ヶ所しかないそうです(「日経速報ニュースアーカイブ」2023年7月22日)。
そこで与那国町議会は昨年12月、政府に避難シェルターの早期設置を求める意見書を賛成7人、反対2名の多数で可決しました(『朝日新聞』2023年5月4日)。
今年3月に沖縄県は、先島諸島の住民11万人と観光客1万人を島外に避難させる図上訓練を初めて実施しましたが、その実現性について参加者から疑問の声が出ました(『朝日新聞』2023年7月25日)。現実には島外避難がかなり困難であることから、避難シェルターの建造を求める意見がますます地元で強まっているのが実状です。
そうした沖縄県民の要請に応えるべく、松野官房長官が今回、沖縄の離島に赴いたということでしょうか?
善意に解釈すればそうなります。しかし、別の見方も成り立ちます。
たとえば、沖縄国際大学の前泊博盛教授は、官房長官による今回の視察を「有事に向けた地ならしに来たのかというような印象を受ける」と述べ、「国民保護」を名目とした港湾やシェルターの整備について「沖縄が戦場になることが前提となっている」と指摘しています。
ですが、先島諸島は台湾から極めて近く(いずれも400キロ圏内)、最西端の与那国島はわずか110キロしか離れていません。海洋進出を強め、台湾への軍事侵攻も取り沙汰されている中国の動きをみれば、これらの離島が戦争に巻き込まれる可能性は決して小さくありません。国家が離島住民の命を守るための策を講じるのは当然ではありませんか?
台湾有事が起こり、その「流れ弾」が離島に飛んで来る場合に備えての避難策なら、ぜひ必要です。しかしそんな悠長な問題ではないのです。故安倍元首相が述べたとおり「台湾有事」は「日本有事」という前提のもとですべてが進められているのです。台湾有事をロシアによるウクライナ侵略と重ね合わせ、中国の軍事侵攻を許せば独裁の勝利と民主主義の敗北を意味するととらえて、それを阻止すべく、台湾有事の際には米軍と自衛隊が一体となって戦うことが想定されています。その証拠に南西諸島における自衛隊の配備は強化され、着々とミサイル基地化が進められています。
わが国のミサイルは、あくまでも敵のミサイルを迎撃するだけの防御的なものだと政府は説明しますが、それは詭弁でしょう。昨年12月に閣議決定された安保関連3文書には「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有が明記されましたが、これは他国の軍事基地や司令部をミサイル攻撃するためのものです。そうした長距離射程のミサイルが離島に配備されようとしていますが、これは日本が戦争の当事者になることに他なりません。当事者となれば、自分が相手国のターゲットになります。
そのようなミサイルが与那国島にも配備される可能性があるのですか?
はい。今年5月に防衛省は与那国町の住民に対し、この問題に関する説明会を開きました。しかしその説明は曖昧で、参加者から疑念や反発を招きました。
要するに政府は、一方では沖縄の離島を戦場化する政策を推し進めながら、他方では住民の命を守るための避難シェルターを整備しようとしているのです。沖縄を戦場にし、その住民をシェルターに避難させる。これは第二次大戦末期の沖縄戦と全く同じ構図です。沖縄戦時、多くの住民がガマと呼ばれる洞窟で非業の死を遂げました。愚かで無謀な国策の犠牲になったのです。わたしには政府が整備しようとしている避難シェルターが、現代版のガマに見えます。
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