「カナリア俳壇」87

ひところは災害級の暑さなどと言っていましたが、昨今の猛暑はさらにそれを上回るようです。しかも、日本だけでなく世界的な現象であるのが不気味ですね。国連のグテーレス事務総長は「温暖化は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と警告を発しました。本当に地球はどうなってしまうのか……。

△~○牛飼の牛観て逝くや時鳥     作好

【評】牛飼の人が、ご自身の大事にしている牛を見てから亡くなったのですね。季語がどうか。「牛飼」(人間)、「牛」、「時鳥」と生き物(人間を生き物というのはやや失礼な言い方になりますが)を表す言葉が3つも並ぶのは上手な作り方ではありません。季語は植物など別の物を持ってきてください。また、「観て」だと観劇のようですので、「見て」でどうでしょう。

△~○睡蓮に引き寄せられて寺参り     作好

【評】「寺参り」だとこれからお寺に出かけるところだとも解せます。つまり「牛にひかれて善光寺参り」のような意味にとれてしまいます。「睡蓮に引き寄せらるる寺に来て」ということでは?それとも「睡蓮を一目見たさに寺参り」でしょうか。

△~○推し活の再結成や星祭     翆

【評】「推し活」という言葉が最近はやりですね。上五中七までは現代の世相をうまく切り取って結構だと思います。ただ、なぜこの季語にしたのか。七夕と「推し活」の関係がこの句だけからは読み取れませんでした。たとえば「夏旺ん」や「夏の空」など、時候や天文の季語を選んだほうが素直な句になると思います。七夕の日にアイドルのイベントが行われたのだろうと想像しますが、、、。

○米びつの米が底つく夏休み     翆

【評】夏休みなので、子供たちが家で御飯をたくさん食べるようになり、すぐにお米がなくなってしまう、、、ということを言いたいのでしょう。実感がこもっていますね。

○~◎玄関の白百合の香の仏間まで     ゆき

【評】概ねけっこうです。「の」が多くて、ややうるさい感じですので、「玄関の白百合匂ふ仏間まで」でどうでしょう。

○~◎夏祭あんぱんマンのお面の曾孫(こ)     ゆき

【評】夏祭の感じがよく出ています。「曾孫」に「こ」とルビを振るのはやや無理があります。素直に「子」とするのがよいと思います。たとえば前書に「曾孫の賢治」などと記しておけばよいでしょう。なお「アンパンマン」とすべてカタカナにするのが正式の表記です。

○山の湯や自酌ビールの溢るなり     美春

【評】山の湯にきて気持ちのほぐれているご様子が目に浮かぶようです。上五を「や」で強く切った場合、下五は活用語の終止形を避けるのが一般的です(「なり」ですと、強い切れを感じますので、いわゆる三段切れの句になってしまいます)。「山の湯や自酌ビールの泡あふれ」「山の湯や手酌ビールの旨きこと」など、もう一工夫できそうです。

△~○白かべに青蔦這ゆる忌日かな     美春

【評】「這ゆる」は間違いです(終止形は「這ふ」であって、「這ゆ」ではありませんので)。「白かべに青蔦這へる忌日かな」でどうでしょう。

○鈴なりのほおずき抱え墓参り     千代

【評】よく情景のみえる句です。ほおずきもお墓参りに合いそうですね。「鈴なりのほほづき抱へ墓参り」と表記しましょう。

△蝉時雨縁に腰掛け桃かぶり     千代

【評】「桃かぶり」というのは、「桃にかぶりつく」という意味でしょうか。「蟬時雨」は夏の季語、「桃」は秋の季語です。たとえば「夕ぐれの縁に腰掛け桃剥けり」など、季語を一つにできるといいですね。

○輪になりて三代揃ひ門火焚く     ひろ

【評】「なりて」「揃ひ」と動詞が2つある点が気になります。何かもたつく感じなのです。とりあえず「輪になりて家族三代門火焚く」としておきます。漢字が7つも続く点は気になりますが。「三代が囲みてゐたる門火かな」とするのも一法でしょうか。

○盆提灯たたみてさみし仏間かな     ひろ

【評】「さみし」は終止形ですので、仏間にかかるのであれば連体形にしないといけません。「盆提灯たたみさみしき仏間かな」。あるいは「盆提灯たたみてさみし夜の仏間」など。

△~○万緑のふくらみの果比丘尼寺     妙好

【評】「ふくらみの果」に文学的な表現を使おうという意識が感じられ、しかも意味がとりにくくなっています。俳句はできるだけ素直な表現で作りましょう。「万緑の奥に小さな比丘尼寺」など。

◎野仏の台座にふはり蛇の衣     妙好

【評】この句は見たままを感覚的にうまくとらえています。たいへん結構です。

○夏燕標高2千飛び交へり     恵子

【評】「駒ヶ岳」と前書があります。こんな高いところにまで燕が来ているのですね(もしかするとイワツバメでしょうか)。俳句は横書きでも算用数字は使いません。「2」ではなく「二」と表記しましょう。

○蠍座の尾を撥ね上げる酷暑かな     恵子

【評】ふつう「酷暑」は昼間の暑さのことで、夜に使うことはしませんが、今の異常気象では、このような使用もありかもしれません。「蠍座の尾の撥ね上がる」のほうがいいかもしれません。

○~◎戦場の血の池跡や石灼くる     万亀子

【評】なかなか凄味のある景です。池の跡地にある石が灼けているわけですので、「や」と切らないほうがよさそうです。「戦場の血の池跡の石灼くる」。もし「や」で切るなら、「戦場の血の池跡や劫暑なる」等とするのも手でしょう。

○夏空や屋根に胸張る鵜の飾り     万亀子

【評】この「鵜の飾り」は何かの魔除けでしょうか。だとすると「飾り」という表現がいいのかどうかわかりませんが、きちんとした写生句です。

○縷紅草じわり法面這い上がる     白き花

【評】「縷紅草(るこうそう)」はヒルガオ科の蔓草。「法面(のりめん)」は人工的な傾斜地。ワイルドな情景が目に浮かびます。「這ひ上がる」と表記しましょう。

△夏の陽を塞ぐ手立ては豆知識     白き花

【評】「手立ては豆知識」は単なる観念です。その豆知識を使って、どんなふうに夏の日差しを塞いだのか、ありありと目に見えるように描写してください。

△心地よき疲れの車窓大夕焼     徒歩

【評】「心地よき疲れ」が抽象的で、遊びのあとなのか、仕事のあとなのか、具体的な状況がイメージできませんでした。また、「疲れの車窓」もやや舌足らずでしょうか。この「車窓」が自家用車の車窓なのか、バスの車窓なのか、列車の車窓なのかも不分明です。

○~◎音立てて蛇の跳ねたりアスファルト     徒歩

【評】生々しい情景が見えてきます。アスファルトの熱さにのたうち回っているのかもしれませんね。「蛇跳ねゐたり」でもいいかもしれません。

○カタログの車種決め兼ぬる夏の夕     みさを

【評】状況はよくわかりますが、「決め兼ぬる」は頭の中の出来事、つまり観念です。これが目に見えるように具体描写できるといいですね。たとえば「自動車のカタログ並べ夏座敷」「自動車のカタログ脇に冷奴」等々。

△~○クレヨンを重ぬるやうに牽牛花     みさを

【評】これだとクレヨン画を描いているのでなく、単なる比喩にとどまっています。俳句はあくまで即物的です。本当にクレヨンで絵を描いていることにしたほうが、力のこもった(実体のある)句になります。「クレヨンの色重ねたり牽牛花」。

○朝顔の今朝は二輪や坊の鉢     織美

【評】「坊→幼児」と但し書きがありました。たしかに但し書きがないと「僧坊」のことかと誤読されるおそれがありますね。朝顔は朝開くので「今朝」は略せます。とりあえず「児の鉢に朝顔二輪開きけり」と素直に詠んでおきましょう。

△疫病の潜みてながし夏の果     織美

【評】一般的な事実を述べただけで、しかも観念的です。もうすこし目に見えるような具体性をもたせましょう。「感染のグラフまた伸ぶ夏の果」など。

○冷水を飲み干す朝の瓜の花        永河

【評】素直な詠み方で結構です。「朝や」と切ったほうが一句に広がりが出るかもしれません。「蛇口より水飲む朝や瓜の花」とするとさらにワイルド感がアップしそうです。

△~○川へゆく径真つすぐに青田風      永河

【評】「真つすぐに」の解釈に悩みました。つまり「真つすぐに」が「径」のことなのか、それとも「青田風」にかかるのか、やや曖昧に感じました。「川へゆく」のも、径のことなのでしょうか、青田風のことなのでしょうか。「ゆく」という動詞を無くし、たとえば「川までのサイクルロード青田風」とするのも一法でしょう。

◎薄らと紅筆ひくや蕗の雨     智代

【評】情緒があって大変結構です。「蕗の雨」もユニーク。「うつすらと紅筆ひけり蕗の雨」と平仮名を多用するとさらに趣が増しそうです。

◎懐かしき妣の手ほどき浴衣裁つ     智代

【評】昔お母さんが教えてくれたように浴衣を裁っているのですね。しみじみとして味わい深い句です。

○散水や飛蝗つぎつぎ飛び出せり     利佳子

【評】「散水」が夏の季語、「飛蝗」が秋の季語ですが、「散水や」ですから、こちらが主季語ですね。しかし、散水自体に感動の焦点を持ってくるより、飛蝗が飛び出す姿にスポットを当てたほうが面白いように感じます。「ぽんぽんと飛蝗飛びだす水撒けば」でいかがでしょう。

○ひよこ組ぞうのじようろで水遊び      利佳子

【評】可愛らしい情景ですが、可愛らしさだけの甘い句になっていないかと危ぶみます。「ひよこ」と「ぞう」ではややしつこいので、「水遊び象の如雨露でダム作る」などもう一工夫してください。

次回は8月22日(火)の掲載となります。前日(21日)の18時までにご投句いただけると幸いです。まだまだ猛暑が続きそうです。どうぞご自愛の上お過ごしください。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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