「カナリア俳壇」77

明けましておめでとうございます。穏やかなお正月をお迎えのことと存じます。
今年も皆さんのご投句を楽しみにしております。

○信じつつワクチン五回冬迎ふ     作好
【評】「信じつつ」とは裏腹な作者の不安な気持ちが伝わってきます。「冬来たりなば春遠からじ」という言葉を信じてこの冬を乗り切りたいものですね。

△~○早朝の空には下弦地に初霜     作好
【評】絵画であれば幻想的な景になりそうですね。ただ、下五の字余りが調べを悪くしています。季語から早朝であることは見当がつきますので、とりあえず「初霜や下弦の月が中天に」としてみました。

◎焼芋に大きく振れるばね秤     智代
【評】ずっしりとして大きな焼芋が見えてきました。

△~○愛子抱くダウンコートの懐に     智代
【評】「愛子」がわかりませんでした。赤ん坊の名前でしょうか、それとも愛し子(いとしご)のことでしょうか。ひょっとすると子猫の名前かもしれませんね。その場合は「子猫抱く」としたほうがすっきりすると思います。

△~〇二人して古き文よむ年の暮     美春
【評】全体的に漠然としています。「二人して」はご夫婦のことでしょうか。「古き文」とは昔受け取った手紙のことだと思いますが、だれからのものでしょう。もう一つ具体的なものがあるとさらによくなります。

△~〇遠つ地の友の便りや今朝の春     美春
【評】「遠つ地」が雰囲気先行で、漠然としています。たとえば上五を「ふるさとの」とすれば、もっと鑑賞しやすい(読者に親切な)句になります。

△~〇冬至湯の槽を洗へり膝ついて     徒歩
【評】「膝ついて」はやや当たり前かなと思います。これは冬至湯に浸かったあとの場面でしょうね。浸かる前なら「冬至湯の用意まづ槽よく磨き」でしょうか。

◎日本晴わがゆく道を恵方とす     徒歩
【評】作者が雄々しく見えます。この能動的な気持ちがいいですね。

〇~◎山茶花の散り敷く道や足の急(せ)く     白き花
【評】山茶花が咲いていればまだしも、散ってしまえば何となくさびしいもの。用がなくてもつい足早になりそうですね。

△~〇全集の二巻目重し年は明く     白き花
【評】読者としては何の全集か気になります。「年は明く」の「は」も強すぎるように感じます。添削にもなりませんが、仕立て方の一例として「年変る二巻目重き『資本論』」と考えてみました。

△~〇冬日和稚児の指より砂零る     ゆき
【評】「稚児」の解釈がむずかしい。ただの幼子のことなのか、神事に参加しているお稚児さんなのか。なぜその手から砂がこぼれたのかも謎めいています。別の句になってしまいますが、「冬晴や児のてのひらに星の砂」としてみました。

△~〇芽を欠きて出来たポテサラ誕生日     ゆき
【評】「芽を欠きて」とは毒性のある芽を「取つて」ということでしょうか。「芽を取つて作るポテサラ誕生日」くらいでいかがでしょう。

◎陽を溜めて今開かむと冬薔薇     万亀子
【評】冬薔薇に焦点を当て、その生命としっかり向き合った佳句です。

◎朝市の寡黙な砥ぎ屋年の暮     万亀子
【評】年末の朝市は喧噪に包まれているように思います。それだけに研ぎ屋の寡黙さがよけい際だっていたのでしょうね。

△~○七輪や汁の溢るる牡蠣を子と     利佳子
【評】牡蠣は七輪に乗っているので、「や」で切るのはどうでしょう。ここで切ると、七輪と牡蠣の関係性が切れてしまいます。「七輪に汁滴らす牡蠣を子と」としてみました。

○輸出車の埠頭に並ぶ去年今年     利佳子
【評】概ねけっこうですが、やや表現が平板な気がします。もうすこし現代風の味わいをつけるとすれば「輸出車は埠頭に並び去年今年」でしょうか。

◎丹田に墨の香おとし筆始     妙好
【評】中七の表現がうまい。文字を書く直前の静けさと緊迫感が伝わってきます。

○~◎食卓の声とりどりにお元旦     妙好
【評】久しぶりに家族が勢揃いし、ふだんは静かな食卓がにわかに活気づいたのですね。浮き立つ気持ちをもうすこし強く打ち出すとすれば、「食卓の声とりどりよお元旦」。あるいは「食卓に声あふれをりお元旦」とするのも手ですね。

○~◎甘えびを添へて供ふる雑煮かな         永河
【評】大体けっこうですが、この形ですと雑煮より甘えびのほうが意味的に重くなってしまう印象を受けます。読者は「添へて」をつい深読みしたくなるからでしょう。「甘えびと並べ供ふる雑煮かな」くらいでどうでしょう。

○グーパーと空つき上ぐる初日の出     永河
【評】初日の出を漫画風にとらえたのですね。であれば、もっとシンプルに図案化し、「グーと出てパーと広がる初日かな」とするのも一法かもしれません。

◎奉仕団姉さかぶりに煤払ふ     織美
【評】大きなお堂の煤払いでしょうか。「姉さかぶり」がまさに即物具象です。

○~◎大寺のお煤払いや大うちは     織美
【評】こちらも具体的な描写で情景が思い浮かびます。「払ひ」ですね。

次回は1月24日(火)の掲載となります。前日23日の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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