「カナリア俳壇」71

いよいよ8月も終わりです。朝晩だいぶ過ごしやすくなり、秋の到来を実感しているこの頃です。

△~〇稲光臍をおさへて下校の子     千代

【評】句の形は申し分ありません。「臍をおさへて」が月並との印象を受けました。

〇~◎囃されて爺のよろける西瓜割り     千代

【評】目隠ししてのスイカ割りは、高齢者にはなかなかハードですね。わたしならひっくり返りそう。家族水入らずの楽しい一日だったことでしょう。

△雨あがり日差しとともに蝉時雨     作好

【評】雨があがって、日が差してきたので、蝉が一斉に鳴き出した、ということですね。時系列的な説明にとどまっているように感じました。

〇休耕田モロコシ植えた猿も来た     作好

【評】民話調の口語俳句。実験精神を高く買いたいと思います。「猿も」でなく「猿が」としたほうが句意がより鮮明になります。

△~〇公園の木々の膨らむ蝉しぐれ     ひろ

【評】感覚的なおもしろい句ですが、「公園の」で説明的な句になってしまいました。作者の立ち位置が分かるとさらにいい句になりそうです。つまり自分自身その木々の下にいたことがわかるとさらに精彩ある句になりそうです。

△~〇あさがほの紺の萎みて紅のこす     ひろ

【評】景は見えてくるのですが、「こうしてしてああなった」という説明調(散文調)で、詩としてのときめきに欠けます。

△~〇蟷螂や鎌を閉ぢても凄み有り     白き花

【評】中七・下五も同じカマキリのことですから、上五で切ってはいけません。「鎌閉ぢし蟷螂にまだ凄みあり」。なお、「凄み」は抽象名詞ですので、どんな点に凄みを感じたのか具体的に写生するともっと俳句的になります。「鎌閉ぢてなほ螳螂の睨みをり」など。

△並べ置く葡萄ポツポツ五七五     白き花

【評】俳句のなかで俳句に言及するのは、落語家の楽屋落ちみたいなもので、あまり感心しません。下五の「五七五」をカットして再挑戦してください。

〇秋分や仏間に遺る刺繍の画     美春

【評】どんな刺繍画なのか、また誰が製作したのか気になるところですが、それはともかく、趣のある句ですね。刺繍画は一日だけでなく、たぶんずっと飾られているのでしょうから、季語を「秋分」という一日に限定せず、もう少し幅広く使えるものにするのも手でしょうか。たとえば「秋風や」など。

△~〇山下る猪に犬臥し向合へり     美春

【評】「下る」「臥し」「向合へり」と動詞が3つもあると、どうしても説明調になります。画家か写真家のような心構えで作句してください。そうすれば「山下る猪」という表現は出てこないはず。「猪に猟犬低く構へけり」など。

△朝市の酸味好みの林檎手に     ゆき

【評】「酸味好みの林檎」はへんですね。「朝市へ酸つぱい林檎買ひたくて」など。

△法師蝉他に音なし子の声も     ゆき

【評】具体的な場所を示したいところですね。でないと「子の声も」が意味を成しません。「戸を固く閉ざす駄菓子屋つくつくし」など。

◎虫の夜の窓開け放ち日記書く     音羽

【評】気分はもう紫式部ですね。日記の内容も格調が高そうです。

◎秋服を仕立て娘に見てもらふ     音羽

【評】娘さんとの親密な関係がいいですね。句の調べもおっとりとして優雅です。

◎軽やかな寝息たつる子今朝の秋     妙好

【評】「軽やかな」寝息がいいですね。立秋のすがすがしい空気が感じられます。

〇秋晴や峡の棚田に穂波立つ     妙好

【評】「棚田の穂」ですから「稲穂」ですね。とすると、「秋晴」との季重なりが気になるところです。例えば「秋晴や峡の棚田のよくさやぎ」などとする手もありそうです。

△~〇寺の盆供華の用意の二抱え     織美

【評】「二抱へ」と表記しましょう。「用意の二抱へ」が表現として少々ぎこちなく感じます。「二抱へ供華を運べり寺の盆」などもう一工夫できそうです。

〇~◎頬づりて永久の別れや百合の花     織美

【評】思いのこもった句です。「頬をつる」のでなく「頬をする」ので、「頬ずりて」と表記しましょう。

〇湧水で淹るるコーヒー秋日和     万亀子

【評】コーヒーがとても美味しそうです。秋の爽やかさも伝わってきます。どこの湧水かわかるとさらに味わいが深まる気がします。

△~〇星流るコロナの街の深き夜     万亀子

【評】「星流る」ですから「夜」と言う必要はありません。あえて使うなら「闇」でしょうか。「闇深きコロナの町に星降れり」など。

〇子の覗く土管トンネルつくつくし     徒歩

【評】子供の頃、大きな土管に入って遊んだ記憶が蘇りました。「子の覗く」ですと、読者の視線まで外から土管の内側に向いてしまいますので、季語があまり効かないかもしれません。「子の潜む」くらいでいかがでしょう。

△~〇新しき家の御夫婦星迎     徒歩

【評】季語の解釈が非常に難しい句です。漢字も続き過ぎでしょうか。「越して来し若き夫婦や星迎」などもう少し工夫できそうな気がします。

△「作業中」点滅けぶる白驟雨     智代

【評】点滅する作業灯は深夜のイメージですが、「白驟雨」は昼間ですよね。そのへんをもう一度整理して再トライして下さい。

△観覧車呑まんと猛る雲の峰     智代

【評】峰雲は上へ上へと伸びてはゆきますが、それよりずっと低いところにある観覧車を隠す(呑む)ことはないでしょう。雲の種類を取り違えてはいないでしょうか。

△三つ四つ熟れし無花果啄まる     多喜

【評】淡々とした事実の報告にとどまっています。例えばどんな鳥が、何羽で来て啄んだのでしょう。あるいはどんな格好で啄んだのでしょう。また、無花果はどの部分が啄まれたのでしょう。それを見た者でなければ知り得ないような発見が詩になるのです。

〇かき揚げに玉蜀黍の粒とひげ     多喜

【評】かき揚げにすれば、ひげの部分も食べられるのですね。美味しそうです。食べ物の句は美味しそうに詠めたら成功です。

△~〇含羞草眠らせ潜る長屋門     凪子

【評】「含羞草眠らせ」はよくあるパターンです。また「長屋門」がどれほど効いているのか。本当に感動した部分だけをクローズアップし、一句に仕立ててみてください。

△寄りて見る母屋に並ぶ蝮酒     凪子

【評】「寄りて見る」は自分の動作の解説ですね。それは不要です。近寄って見た結果、何が、どんなふうに見えたのか、そこだけを言えばいいのです。この句で残せるのは「母屋に並ぶ蝮酒」のみですが、これでは読者の脳裏に具体的な像が結びません。例えば母屋のどこに、どんな状態で、何本くらい並んでいたのでしょう?

〇母看取り寄り添うてゐる処暑の朝     永河

【評】お母様の最期を看取って朝を迎えたのですね。「看取り」と「寄り添うてゐる」に重複感がありますので、一案ですが「今生の母看取り終へ処暑の朝」と考えてみました。

〇新涼や介護離れの妻眠る     永河

【評】この一句ですべてが伝わってきます。ただ「介護離れの」で7音とってしまうのが惜しい気もします。そこは前書に出し、例えば「新涼や妻深々と眠りゐて」とするのも手かもしれません。

△瑞巌寺宮城野萩の走り咲き     慶喜

【評】このままですと、いわゆる「ただごと俳句」です。瑞巌寺は前書としてしまってもいいでしょう。もう少し松島の土地誉めになるような、すなわち地元の人たちが喜んでくれそうな挨拶句に仕立てたいところです。「遙々と来て宮城野の萩と遇ふ」など。

〇ふる里の友を偲びて十三夜     慶喜

【評】風流といえば風流ですが、もう本当にたくさんあるパターンの句です。「故郷の乙姫恋し十三夜」なととすれば、「竜宮の出身なのか」と突っ込みどころができて場を盛り上げる座興の句になりそうです。

〇爺と児が西瓜の種を飛ばしつこ     ちづ

【評】西瓜の種を飛ばし合う句はちょくちょくありますので、新鮮味には欠けますが、気持ちのほっこりする作品で結構です。

△~〇風呂上がり児らと並んで棒アイス     ちづ

【評】風呂上がりとは作者自身のことでしょうか、それとも子供たちも一緒だったのでしょうか。とりあえず「湯上りの児ら待ちかねし棒アイス」としておきます。

〇目を閉じて波の音聴く遠き夏     久美

【評】「遠き夏」がいいですね。あんなに楽しかった夏はもはや遠くに去ってしまったとの感慨でしょう。どんな思い出があったのか、読者の想像を刺激する句です。「閉ぢて」と表記しましょう。

〇児が踊るドン・キホーテや夏夕べ     久美

【評】バレエ教室の発表会でしょうか。「躍る」ですと夏の季語にもなりますので、バレエであることを強調し、「子らが舞ふドン・キホーテや夏夕べ」としてみました。
次回は9月20日(火)の掲載となります。前日19日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


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