かわらじ先生の国際講座~日独の軍事的連携の強化

最近、日本とドイツの軍事的結びつきが強まっているように思われます。昨年夏にはドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」がインド太平洋に向けて出発し、11月初頭に東京に寄港して海上自衛隊と共同訓練を実施しました。そして今年8月にはドイツ空軍が6機の主力戦闘機「ユーロファーター」を初めてインド太平洋地域に派遣し、多国間軍事演習に参加しています(ちなみに日本の航空自衛隊も初参加)。演習後の9月下旬にドイツの戦闘機は、日本に立ち寄る予定だそうです。ドイツのこうした軍事活動は何を目的としているのでしょうか?

「インド太平洋地域における軍事的関与は、特定の国を念頭に置いたものではない」とドイツはたびたび表明していますが、これらの軍事演習自体が、中国の海洋進出を牽制することを企図しているのは自明です。ドイツとしてはできるだけ中国を刺激しないよう、昨年フリゲート艦を派遣した際も、中国の上海に寄港する予定を立てていましたが、中国側に拒否されました。中国もドイツの意図は見透かしているということでしょう。

ドイツは中国に対し、少し及び腰なのですか?

ドイツは従来からEU諸国のなかで最も親中国的な国でした。2005年のメルケル首相就任後、中国への接近を強め、2016年には中国がドイツにとって最大の貿易相手国となり、両国関係は「蜜月」と言われました。メルケル前首相の中国訪問回数は12回に上りますが、これは訪日回数の2倍とのことです。英国やフランスと違い、ドイツにはインド太平洋地域に自国領もありませんから、中国に対する軍事的脅威感もあまりなかったと言えるでしょう。
ところが、中国企業によるドイツ企業の買収などを契機に、ドイツ国内では中国依存への警戒感が生まれました。また、香港や新疆ウイグル地区における人権問題がドイツ野党を中心に問題視されるようになり、メルケル政権としても対中姿勢における軌道修正を余儀なくされたわけです。EUも中国を警戒し始めましたが、ドイツ政府もそれに連動する形で2020年12月、外交戦略「インド太平洋指針」を閣議決定し、中国よりむしろ日本との関係強化へとシフトすることになったのです。

なるほど。そして2021年12月にショルツ政権が成立すると、この方向転換が明確になったのですね。

そう言っていいでしょう。今年4月、ショルツ首相は就任後初のアジア訪問国として日本を選び、あえて中国と距離を置きました。岸田首相との会談では、中国の覇権主義的な動きを念頭に、「東・南シナ海での一方的な現状変更に反対する」と確認し、来年には、安全保障などに関する首脳級の協議体を設立することでも合意しています。
安全保障面におけるシュルツ首相の対日接近は、ロシアのウクライナ侵攻とも連動していると考えられます。

それはどういうことでしょうか?

一つにはロシアや中国のような「専制主義国家」に対し、民主主義という価値観を共有する日本との連携が一層切実さを増したということです。民主主義を守るうえで、欧州とアジアは不可分だという認識に立っているわけです。そしてもう一つ、ロシアのウクライナ侵攻はNATOに対する挑戦であり、ロシアによるガス供給の停止はドイツを始めとする欧州への恫喝だが、そのロシアを陰に陽に支えているのが中国だという見方です。つまりロシアの盟友である中国もまた警戒対象とせざるを得ず、そのためには日本を味方につけ、中国を牽制しなくてはならないという事情です。

しかし日独の軍事的連携は、かえって中国を刺激し、アジアの緊張を高めることになりませんか?

このへんは難しいところで、現に中国は南シナ海で岩礁を埋め立てて軍事基地化していますし、台湾併合のためには武力行使も厭わないとする習近平政権の強硬姿勢をみますと、中国の強大な軍事力を抑止するためには日欧の軍事的結束が不可欠だとの論理を否定することは難しいのです。ですからこの地域におけるドイツの軍事的関与は日本にとって好もしいという理屈になってしまいます。
ただし、かりに「台湾有事」が生じたとして、ドイツや英国やフランスが本当に参戦するとは到底思えません。ウクライナ戦争でも軍事的支援どまりで、軍部隊の投入はしていないのです。ましてアジアの戦争に武力介入することなどあり得ないでしょう。とすれば、自衛隊と欧米の軍隊との連携は、結局のところ実効性のない大きな幻想だとも言えます。
ところで8月21日の報道によれば、日本政府は中国に対する「反撃能力」として、射程1000キロ程度の巡行ミサイルを1000発程度保有する検討をしているとのことです。

「抑止力」という名のもとに、日本と世界はミリタリズム万能の時代に突入しつつあります。ひょっとして将来、「日独軍事同盟」を謳歌する時代が来ないとも限りません。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもある。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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