Weekend Review~「秘傳 鱧料理 百菜」

今回ご紹介する「秘傳 鱧料理 百菜」は昨年に発行された書籍で、私が約3年にわたって編集に関わらせていただいた豪華本です。手前みそで誠に申し訳ないのですが、鱧を扱う料理人さんにはぜひ1冊持っていただきたい秀逸の内容。鱧料理で知られた高台寺・高月の朝尾朋樹氏が、自身で編み出した秘する鱧さばきの手の内をすべて懇切丁寧に紹介しています。日本料理の料亭やフレンチ、イタリアン、中華そして手軽な小料理屋や居酒屋、スーパーや鮮魚店に至るまで、鱧を扱うすべての方々に必見の価値ありの「秘傳 鱧料理 百菜」です。わかりやすい手順で、調理法も見やすく、技の大盤振る舞い。仕上がりの料理写真と料理法も細やかに記されています。編集を担当したからではなく、私自身が手にしていただく値打ちがあると心底思えるからこそ、そして今まさに鱧の季節から厚かましくもご紹介させていただきました。

ところでこの書籍は改訂版で初版は25年前に発行されました。著者の朝尾氏が2017年にご自分の全店を閉めて料理人を引退されたことで、今回じっくりと、新たな項目や見直しなども含めて渾身の想いで秘傳の鱧の調理法を、これでもかとこだわりつくして発行されました。一般の方が自宅で鱧をさばくことはあまりないのでレビューにあげるのもどうかとは思いますが、これほど鱧に真摯に向き合い、お客様においしく楽しく感動して召し上がっていただくための調理研究と工夫に取り組み、鱧料理の探究にかけてきた著者のことをご紹介できたらと思ったのです。

朝尾氏は15歳で日本料理の道に入った、いわゆる昔ながらのたたき上げの料理人。器や書、しつらい、お茶や花の世界などあらゆることにも造形深く、トップに座する人ならではの知識と探究心にあふれた、何ごとも突きつめるタイプの方です。編集作業中、朝尾氏の達筆さに私が感心すると、昔、付いていた料理長のお品書きが見事で、自分も身につけたいと日々、そのお品書きを密かになぞって練習を重ねたとのこと。味を盗むのは常の世界ですが、見て盗むもしかり。自らの行動でしか本物を学べない世界です。そして朝尾氏のこだわりは本づくりでも爆発しました。自分の求めるものが正しいと思えば実現できる方法を独自で調べ、私たち(制作側)には常に、できない理由ではなく、できる道筋をつけろと課題を与え続けられました。かなりのむちゃぶりもありましたが、朝尾氏の希望はほぼ具体化できたのです。今回は初版にない挟み込み写真がありますが、これは朝尾氏が作らせた鱧の骨格標本、骨組標本です。博物館級の完成度で鱧の骨組みに感動します(骨格標本は2022年3月に京都大学総合博物館に寄贈)。時に私たちは「作り手(制作側)」の都合に走ることもありますが、お客様のために汗水流してこだわり抜け、プロの配慮を見せろと突きつけられた3年間でした。時にはそれが苛立ちとなり、私も怒鳴られたこともしばしば(今だから言える)。でも多くの料理人の目に留まってほしいと願っています。(ふるさとかえる)

※Amazonは「京都新聞出版センター 鱧料理」で検索ください(鱧料理では初版しかアクセスされません)。なお著作権料は全額難病研究に寄付されます。


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