「カナリア俳壇」69

暑中お見舞い申し上げます。天候不順の折、コロナ感染もまた急拡大するなど、不安な夏を迎えていますが、皆さんもどうかご自愛ください。

△~○塵取りの葉っぱの山にゐもりかな     作好

【評】ユニークな情景です。塵取りに掃き込むとき井守に気づかなかったのか。葉っぱの山の上にいるのか、その中に潜んでいるのかといった点がやや気になりました。

○集落に今日も一人や田草取り     作好

【評】見渡せば一望できるほど小さな集落なのですね。人っ子一人いない中での田草取りが数日続いているのでしょう。すこし淋しくなっている作者を想像しました。

○茗荷のせ二人の昼げ冷ラーメン     ゆき

【評】この「二人」はご夫婦ですね。茗荷が食欲をそそりそう。日常生活の素直なスケッチでけっこうです。

△~○二番目を膨らませ咲く桔梗かな     ゆき

【評】「膨らませ咲く」が間延びしていますので、膨らんだのか咲いたのか、どちらかに焦点を絞りましょう。「二番目のはや膨らめる桔梗かな」など。

○~◎古希ふたりゆるりと歩む余花の頃     美春

【評】季語にしみじみとした余韻を感じます。「余花」の「余」は「余生」の「余」に通じるのかもしれませんね。

○縁側の猫の座うばふ青蜥蜴     美春

【評】おもしろい景ですが、「座うばふ」がやや言い過ぎで、滑稽に傾きすぎの感もあります。「縁側の猫を遠ざけ青蜥蜴」などもう一工夫してみてください。

◎助手席の西瓜にシートベルト掛く     音羽

【評】車の助手席に西瓜を置く句は先例があるように思いますが、シートベルトを掛けたという描写は初めて見ました。滑稽な情景を淡々と詠んだ佳句です。

○~◎炎天の軒影ひろひ医へ通ふ     音羽

【評】情景がありありと見えてきました。「通ふ」ですと毎日毎日という繰り返しのニュアンスがありますので、一回性の行為にして「向ふ」くらいでいかがでしょう。

○~◎何処から木魚の音や竹簾     ひろ

【評】竹簾が涼しげです。もし自宅での吟なら、「何処から」は見当がつきそうですので、たとえば「隣家より」などとしたほうがよさそうです。

△美空ひばりの野外映画や星涼し     ひろ

【評】「美空ひばりの野外映画」はそっくり前書に出し、映画の一場面を具体的に描写したほうが生き生きとして臨場感のある作品になると思います。

△~○刃を当つる西瓜音たて罅走る     妙好

【評】動詞が3つもあると、どうしても「ああした」「こうした」と説明調になります。「音たて」はカットし、「刃をあてし西瓜に深き罅走る」などとしてはどうでしょう。

△~○堂内のらふそく揺らぐ灯の涼し     妙好

【評】「らふそく」と「灯」が重複します。「堂内の蝋燭ゆらぐ夜涼かな」など、もうすこし推敲してみましょう。

△曲がりたる胡瓜の味や一直線     白き花

【評】表現上の大胆な実験精神は高く買いますが、「一直線」が読者には分かりづらいように思います。形は曲がっていても、味はまちがいないということでしょうか。

◎鬼灯を暗きおくどに供へたり     白き花

【評】お盆のころになると、迎え火の代用として鬼灯を飾る風習があるとか。鬼灯には魔除けの効果もあるようですね。浅草のほおずき市などもそれと関連がありそうです。「おくど」はかまどのこと。旧家の大きな炊事場を想像しました。

△~○夜濯の裸電球いど屋形     織美

【評】一時代前の日本の家屋はこんな具合だったのでしょうね。今でも地方に行けば見られる光景かもしれません。「夜濯や電球つるす井戸屋形」くらいでいかがでしょう。

○~◎口髭に笑みの遺影や半夏生     織美

【評】ダンディーな老紳士が思い浮かびます。半夏生のころが命日なのですね。

○空梅雨や男結びの古雑誌     徒歩

【評】「男結び」というこだわり方に面白みを感じました。蒸し蒸しとして鬱陶しい屋外で、黙々と廃品用の雑誌を束ねている男性の姿を思い浮かべました。なお、一般に男結びは竹など細長い物に対して使われるようですが、雑誌の場合にも大丈夫か、一応ご確認ください。

○~◎乾杯の氷の音の晩夏かな     徒歩

【評】乾杯のとき、ふれ合うグラスが鳴りますが、同時に動いた氷も音を立てたのですね。そこに晩夏を感じた感性が大変繊細です。「音の晩霞かな」の「の」が少々気になります。「乾杯の氷鳴りたる晩夏かな」「乾杯の氷傾く晩夏かな」など、「氷」と「晩夏」を述語でつないだほうが自然かと思います。

○老鶯の経文上手し鳳来寺     万亀子

【評】うぐいすは別名「経読鳥」。夏ともなれば鳴き方も上達し、まさに「経文上手し」なのでしょうね。俳諧味のある作品です。鳳来寺でさらに景が具体的になりました。

○空梅雨や二部に降格リーグ戦     万亀子

【評】二部降格という残念な結果が「空梅雨」の鬱陶しい天候とマッチしています。このままですと三段切れになってしまいますので、中七下五を「二部降格のリーグ戦」とするとよいと思います。

△風吹けばころころ転ぶ蟬の殻     智代

【評】このままでは何か物足りない感じです。「手をこぼれ風にころがる蟬の殻」など、もうすこし何か具体的な事柄を加えてください。

○木天蓼の白葉あやしき化粧かな     智代

【評】「木天蓼」は「またたび」と読み、上部の葉は白くなります。それを「あやしき化粧」と捉えたのですね。「あやしき」は主観的な表現ですので、そこを客観写生できるとさらに俳句らしくなります。「しらしらと木天蓼の葉の化粧かな」など。

○~◎蝉時雨如来は眼閉ぢてゐる     永河

【評】「動」と「静」の対比ですね。眼を閉じている如来に威厳を感じます。「閉ぢてゐる」という口語表現が近代的で、新しさがあります。

△白桃やパンダが生まれくるやうな        永河

【評】発想が斬新で、不思議な味わいのある句ですが、白桃と「パンダが生まれくる」ようなことがどう関係するのか理解できませんでした。

○紫陽花の真夜に盗られて残る穴     久美

【評】状況としてはお気の毒としかいいようがありませんが、作品はユニークで、「残る穴」にリアリティーがあります。とりあえずこの句が得られただけでもよしとするほかありませんね。

△久方の恵みとなれり初夏の雨     久美

【評】このような恵みの雨を「喜雨」といい夏の季語になっています。この雨はそれより時期が早いものの、「恵みとなれり」は観念ですね。「久方に庭生き生きと初夏の雨」など、もうすこし具体的な表現を心がけましょう。

△~○鰻の日息子夫婦と落ち合へり     千代

【評】いっしょに鰻を食べたのですね。「落ち合へり」が漠然としています。「鰻の日息子夫婦とデパートへ」など、具体的な景を描写してください。

○かんぱちの漬け丼を孫おかはりす     千代

【評】素直な句でけっこうでしょう。「かんぱちの漬け丼孫に二人前」とするのもおもしろいかもしれません。

△~○入りきしとんばう出してヨガ終る     らん子

【評】動詞が3つもあり、「ああして」「こうした」という説明調になっています。「鬼やんまヨガの爪先かすめ飛ぶ」など、具体的な景を描写してください。

◎引越しよ卵くはへて蟻の列     らん子

【評】こういう情景をたまに見かけることがありますね。あの引越はなぜ行うのでしょう。童話のような牧歌的な句でたいへんけっこうです。

次回は8月9日(火)の掲載となります。前日8日の午後6時ころまでにご送付いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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