Weekend Review~「比叡山千日回峰行-光永圓道阿闍梨写真集」

いつか遺影用の写真を撮ってもらうならこの方に…と思ったカメラマンがいます。打田浩一さん。ただこの名前で呼ぶ人はほぼいなくて、「まんぺいさん」の呼び名で親しまれていました。雑誌、パンフレット、ポスターや書籍などあらゆる案件に応じ、幅広く活躍されていました。過去形で書くのは2年前の2020年の夏、若くして旅立たれたからです。

まんぺいさんとの出会いは2008年。壁画絵師キーヤン(木村英輝氏)の書籍に関わったことに始まります。キーヤンの作品はすべてまんぺいさんが撮影されていました。あれから12年のお付きあい。干支ひと巡り分のご縁だったのですね。感覚としてはもっと長く、知りあっていた気がします。ちょっとシャイ(なはず)だけど、なじんでくると気さくでユニークで、仕事でもインタビューなどでは撮影対象者を緊張させることなく、撮影後に届いた人物カットはとても自然で、時に深い表情をとらえていました。亡くなられる1年ほど前。編集という仕事柄、わたしはいろんな方を撮影させていただくばかりで、写される側になったことがない。ということでまんぺいさんに初ポートレートを撮ってもらうことにしました。撮られる側の緊張感を味わえてよい体験になりましたが、まんぺいさんにわたしを“撮ってもらう”ことは最初で最後になりました。

さて本題の写真集「比叡山千日回峰行-光永圓道阿闍梨」ですが、これは2016年に、写真家としてまんぺいさんが出版された渾身の写真集です。渾身というのは体全体、満身という意味ですが、まさに体すべてを使って長期間にわたって撮影に挑まれてきたその集大成です。被写体である光永圓道氏も全身、というより命まるっと懸けて挑まれているわけですが、撮影に同行されたまんぺいさんの“挑み”もはんぱないものだったことが写真集を見ればひしと伝わります。

延暦寺サイトによると、千日回峰行とは7年間かけて行なわれるもっとも過酷な修行とあります。1年~3年目までは1日に30キロの行程を毎年100日間行じます。定められた礼拝の場所は260カ所以上。4年目5年目は30キロをそれぞれ200日。合計700日を満じると、9日間の断食・断水・不眠・不臥の“堂入り”に入り、不動真言を唱えつづけます。6年目はこれまでの行程に京都の赤山禅院への往復が加わり、1日約60キロの行程を100日。7年目は200日を巡ります。前半の100日間は京都大廻りと呼ばれ、比叡山山中のほか赤山禅院から京都市内を巡礼し、全行程は84キロ。最後の100日間は比叡山山中30キロを巡って満行。書き写しているだけでもクラクラしてきます。

まんぺいさんは15歳で出会った少年僧侶が青年になり、壮年になり千日回峰行に挑まれる、その過酷な時間をカメラに収め続けました。極限の「行」の世界が白と黒のモノクロの世界で見事に表現されています。凄まじい修行の様子や表情がとらえられていますが、わたしは回峰行での圓道氏の足が印象的です。歩き続ける足は痛々しいのですが、とても肉々しくエネルギーの塊を感じました。

今回、久々に写真集をじっくりと拝見して気づいたことがありました。どこにも彼のプロフィールらしき記載がない。あぁ、まんぺいさんらしい写真集だなあと感じ入ったのでした。
(ふるさとかえる)


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