かわらじ先生の国際講座~注目されるトルコの独自路線

ウクライナ情勢が緊迫化する中で、NATO諸国も最悪の事態を回避すべく、それぞれ独自の外交を展開しています。NATOの一員であるトルコの大統領もまた今月(2月)初めにウクライナを訪問しました。わが国のメディアでは、トルコのエルドアン大統領がウクライナ訪問後、オミクロン株に感染していた事実を報じていましたが、肝心のウクライナにおける首脳会談の中身は何だったのでしょうか?

トルコはNATO加盟国ですが、ロシアやウクライナとも良好な関係を保ってきました。そこで2月3日にキエフを訪問したエルドアン大統領は、ウクナイナのゼレンスキー大統領と会談し、緊張緩和への仲介を申し出たようです。
新聞報道によれば、会談のポイントは3つありました。第1は、ロシアとウクライナの首脳会談をトルコで開くようエルドアン大統領が提案した由です。これに対しゼレンスキー大統領は謝意を表明し、「ウクライナの平和のため、やれることは何でもやる」と強調したそうです。第2は、トルコが開発した無人機(ドローン)「TB2」をウクライナで量産することで合意したとのことです。ちなみにウクライナ政府軍は、すでにこのトルコ製無人機を導入しており、国内東部の親ロシア派武装集団との戦闘に用いています。そして第3は、トルコ・ウクライナ間での自由貿易協定(FTA)の合意文書に署名したことです(『読売新聞』『日経新聞』2022年2月4日付)。

トルコの立場が何かちぐはぐだとの印象を受けます。一方では善意の中立者としてロシアとの仲裁役を買って出ながら、他方では、ウクナイナ国内の親ロシア派を鎮圧するための兵器をウクライナ政府に売却しているわけですから。これではロシアがトルコを信用しないのではありませんか?ロシアはトルコをどう見ているのでしょう?

実はそのへんが非常に不思議といいますか、われわれには不可解なところです。ロシアのニュース・メディア「オー・エス・エヌ」は、駐トルコロシア大使のインタビューを掲載し、エルドアン大統領による仲介の労を高く評価しているのです。さらにロシア政府報道官のコメントも載せ、プーチン大統領がトルコを訪問する予定があること、それは2月下旬か、もっとあとになるかもしれないことを報じています。


要するにロシアは、我々の想像以上にトルコを重要視しているのです。エルドアン大統領自身もウクライナ訪問前の1月末、あるインタビューの中で、ゼレンスキー大統領と会談したあとにプーチン氏との会談が控えていると述べていましたし、別の報道によれば、プーチン大統領は2月4日に北京入りして習近平氏と会談をしたあと、そのままトルコに移動してエルドアン大統領との首脳会談を行う予定だったとか。しかしコロナ禍を理由に(エルドアン大統領の感染のことかもしれません)、延期になったようです。いずれにせよ、このウクライナ危機の最中、プーチン大統領自らがトルコに行こうと計画すること自体、ロシアがトルコを重視していることの表れでしょう。

ロシアにとってトルコは、なぜそんなに大切なのですか?

トルコの「二股外交」が奏功しているということでしょう。トルコはNATOの一員として対ロシア包囲網の一角を担っていますが、他方ではロシアとの軍事的な結びつきも強めています。すなわち2019年7月以来、トルコはロシアから地対空ミサイルシステム「S400」を購入しており、ロシア製戦闘機の導入も視野に入れています。ロシアにとってトルコは武器輸出の大事なお得意先なのです。しかし米政府は、トルコの行動はNATOの結束を乱すものだと反発し、軍事情報がトルコからロシアへ漏れることを恐れ、トルコを最新鋭戦闘機F35の開発計画から排除しました。米国がトルコに制裁を加えたわけです。

米国にとってトルコは信用の置けない国なのですね。そのトルコをロシアは信用しているのですか?

信用しているというより、話が通じやすい国なのでしょう。ロシアのプーチン政権は米国のバイデン政権と違い、政治思想や理念よりも実利を優先しますが、トルコの場合も同様で、NATOの大義や自由民主主義の擁護よりも国益を重んじます。その点で、ロシアとトルコはいわば馬が合うのです。両国とも、お互いに利用価値があると思えば、関係を強めるのにやぶさかでないのです。米国から見れば、トルコは節操がないということになるのでしょうが。

こんな「二股外交」をとるトルコが、米国やロシアからいずれ見限られるという懸念はないのですか?

それはない、とトルコは確信しているはずです。なぜなら、地政学的にみて、トルコはきわめて重要な場所に位置しているからです。中東、中央アジア、西欧、ロシアの利害がトルコで交差しているのです。トルコはグローバルな大国ではありませんが、ローカルな大国です。イラン、イラク、アフガニスタン情勢にトルコは大きな影響を与え得る国です。ロシア海軍が黒海から地中海へ出られないのはトルコがあるからです。いくら信用できなくてもNATOがトルコを重視せざるを得ないのは、トルコがロシアの海洋進出を食い止めるための防波堤になっているためです。逆にロシアからすれば、トルコを懐柔することによって自国の立場を有利にすることもできるわけです。
つまりトルコは、地の利を生かし自国の重要性をアピールすることによって、大国を動かす力を得ているのです。わが国からすればトルコは遠く、あまり情報も入ってきませんが、ひょっとするとこのトルコが、ウクライナをめぐる米露対立の構図を動かし、何かしらの緊張緩和をもたらす鍵を握っているのかもしれません。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもある。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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