大崎善生は「パイロットフィッシュ」がとても好きなので何作も彼の小説を読んでるんですが、ちょっとワンパターンが気になります。寧ろノンフィクションの方がクオリティが高い。「将棋の子」はプロ棋士を目指す「奨励会」の若者たちと彼らのその後を描いたノンフィクションです。地方では大人を次々負かして注目された天才少年も、そんな強者ばかり集まって来る奨励会では大勢の中の一人に過ぎないのが現実。昇段には年齢制限があって、夢破れて退会して行った人も少なくない様です。大崎さんが将棋連盟で働いていた頃は高校に進学せず退路を断つ棋士も結構いて、他の世界を知らないまま30近くになって退会すると、一般社会で生きていくのは大変。
羽生善治がどうすごいかのかもこの作品を読んで初めて知りました。定石などの知識と研究の深さが最重要で、高度な技術を持つ者なら誰が指しても同じになるというのが羽生理論。以後、坂田三吉みたいな無頼派はいなくなり、メインで描かれる成田英二のように敢えて定石を勉強しない棋士は、もはや通用しない。医師から一時退院を許された余命わずかの母と奨励会を辞めた成田が、お正月にマンションで過ごす場面は切なかった。以前レビューした「風が強く吹いている」を三浦しをんが執筆したのは「努力神話について考えたかった、報われなかったのは頑張らなかったからだという考え方に納得がいかない」からだそうで、それは「将棋の子」にも通じると思うのです。ただ、風強が一年間だけを描いたフィクションなのに対し、これはシビアな現実が何年も続いてなかなかキツイ。それでも将棋がその後も彼らの大きな支えになっているのが救われます。藤井聡太四冠の登場は将棋界をまた大きく変えそうで大崎さんの藤井評が気になったりもします。今の将棋界を描く新たな作品を期待したいところです。ただ、大崎さんには村山聖の一生を描き、映画化もされた「聖の青春」という作品もあって、こちらは幼い頃から思い腎臓病を患い、病室で出会った将棋に魅せられ、17歳でプロ入り、名人を夢見ながら、将棋界最高峰A級に在籍したまま29歳で亡くなった村山聖を描いたノンフィクション。「聖の青春」や夢破れた棋士達を追った「将棋の子」といった夢に届かなかった人達に迫りたい大崎さんにとって、藤井四冠はあまり作品のモチーフにはならなそうです。(モモ母)
Weekend Review~「将棋の子」
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