「カナリア俳壇」58

いっきに寒くなりましたが、皆さんお変わりないでしょうか。気持ちもつい内向きになりがちですが、歳時記をみれば冬の季語はたくさんあります。俳句を通して冬ならではのよさを満喫しましょう。

〇雲一朶寄せぬ月蝕冬ぬくし     恵子

【評】上五・中七までは気合がこもっていていい感じなのですが、「冬ぬくし」がどうでしょう。これはぽかぽか陽気をさす語で、例句をみればほとんどが昼間に用いているはずです。とりあえず「冬初め」くらいにしておきましょうか。

△~〇枝振りを愛でる冬木の桜道     恵子

【評】「愛でる」は人が主語ですから、そのへんをすっきりさせましょう。「枝ぶりを愛で冬木立ゆく二人」など。

△~〇落つてなほ浅瀬彩なす寒椿     美春

【評】「落つて」よりも「落ちて」のほうが落ち着きます。「浅瀬彩なす」ですと複数の花が想像されますが、一つの花に焦点を当てたほうが印象鮮明になります。「落ちてなほ浅瀬に凛と寒椿」でどうでしょう。

〇真っ白の山茶花咲けり畜魂碑     美春

【評】「畜魂碑」が句材としてユニークですね。けっこうです。「真っ白の」は「っ」を大きく書き、「真つ白の」としましょう。

〇悴める手に刷りたてのコピー束     マユミ

【評】コピー用紙の温かさが想像されます。句意は十分に通じますが、「コピー束」がやや窮屈な気がします。「悴める手にコピー紙の温き束」と考えてみました。

〇発光の縄跳する子夕まぐれ     マユミ

【評】たしかに光を発する縄跳の縄がありますね。それを知らない人には意味が通じないかもしれませんが、ある程度割り切りが肝心。このままでけっこうでしょう。

〇やうやくに柿をば剥きて夕日影     白き花

【評】干し柿にするための柿をたくさん剥いたのですね。剥き終えたとはっきり言ってしまいましょう。「一山の(あるいは「一笊の」など)柿剥き終へて夕日影」。

◎パンに塗るバター頑固な寒き朝     白き花

【評】久保田万太郎に「パンにバタたつぷりつけて春惜む」という句がありますが、これは春らしい従順なバター。これに対し、白き花さんのバターは冬らしく固い、「頑固な」バターなのですね。とても面白い句です。

〇秒針の動かぬ時計忍冬忌     徒歩

【評】「忍冬忌」とは11月21日、石田波郷の忌日なのですね。ネットで調べて初めて知りました。この季語と秒針への注目がどうかかわるのか、正直なところわかりません。ただ雰囲気のある句ですね。

△~〇沓脱ぎに大きな靴の冬館     徒歩

【評】「沓脱ぎ」は和のイメージ、「冬館」は洋のイメージがありますので、少しアンバランスな気がします。「沓脱に大足の靴木守柿」など季語次第で面白い句になりそうです。

〇散紅葉京の土産に阿闍梨餅     織美

【評】大体よく出来ています。上五・下五がともに名詞ですと、調べが単調になりますので、下五を名詞にするなら、上五は別の形をとりたいところです。また、阿闍梨餅は京都と決まっていますので、「京」も略しましょう。「紅葉ちる旅の土産の阿闍梨餅」。「の」を重ねると紅葉の散る感じが出るでしょう。

△残り菊余生に学ぶ俳句かな     織美

【評】俳句のなかで俳句を詠むのは、落語で言うところの「楽屋落ち」です。俳句を学んでいるのであれば、その学んだ成果を作品にしてほしいと思います。

〇背に伊吹脇往還にしぐれ虹     音羽

【評】格調の高い句ですが、裃(かみしも)を着た句という感じで、もうすこし俗にくずしてはいかがか、と思いました。

〇一尺の不動尊守る竜の玉     音羽

【評】気合の入った句ですが、はたして竜の玉に「守る」という語がふさわしいのかどうか。竜の玉とずっと向き合ったすえに「守る」という気持が心に満ちてきたのなら、もちろんそれでけっこうです。

△~〇耳鳴りの騒めくあした開戦日     妙好

【評】「耳鳴り」といえば「騒めく」は要りません。耳のなかで騒めくのが耳鳴りですから。「耳鳴りのきいんきいんと開戦日」など、いろいろ冒険してみてください。

△風そよぐ枯蓮そそとピアニシモ     妙好

【評】「風そよぐ」と言わずに、枯蓮の動きだけで風があることを示したいものです。「ピアニシモ」も浮いた感じで、季語と合っていません。言葉に寄りかからず、じっくりと対象を観察しましょう。

〇日を溜めて色深めたる冬紅葉     万亀子

【評】日が当たると紅葉の色が増すことは常識の範囲内ですので、あまりオリジナリティーがあるは言えませんが、「日を溜めて」がすこし面白いですね。

△日向ぼこ猫の居座る特等席           万亀子

【評】作者はこの情景を見ていますので、「特等席」ですぐにイメージが浮かびます。しかし読者には、これが戸外なのか、室内なのか、特等席とは一体どこなのか、見当がつきません。もうすこし読み手に親切に作ってほしいと思います。ついでながら、下五の字余りもいけません。

△~〇大文字草持ちてすぐ来し蜂二匹     ゆき

【評】素直に詠まれた句でけっこうですが、7・7・5がやはり気になります。「大文字草持てば来し蜂二匹」(だいもんじ・そうもてばきし・はちにひき)とすれば、5・7・5に収まります。

〇古橋の袂の廃家蔦紅葉        ゆき

【評】「古橋」も「廃家」も古びて色を失い、寂れた感じですが、下五の「蔦紅葉」で一気に華やぎがでましたね。

△小さき手の人参早も驢馬の口     あん子

【評】子供が差し出した人参をロバがぱくっと食べてしまったのですね。「小さき手」は子供とは限りませんので、もし子供のことが言いたいのであれば、この表現はあまり推奨しません。「早も」も消したいところ。「口」で終わるのもなんだか語法としてへんです。まだ句帳のメモ段階。一ヶ月くらい時を置いて見直すと、思わぬ表現が見つかるかもしれません。わたしもよくそうしています。

△散紅葉ふんはり囲む十字墓     あん子

【評】「ふんはり囲む」が間延びした感じです。「降りしきる紅葉に埋もる十字墓」くらいのほうがシャープな句になりそうです。

〇利酒にほんのり赤き妻の顔     智代

【評】利酒は日常の言葉と思いがちですが、実は秋の季語です。ほんのりと頬を染めた妻があでやかですね。利酒に頬を染める句は割とよく見かけますが、とりあえず素直な詠みでけっこうです。

◎ねんねこや寝息微かな子の重み     智代

【評】郷愁をさそう句です。これは子供をおぶった母の立場から詠んだ句ですね。「子の重み」に実感がこもっています。

△~〇冬空の果てに突つ込む飛行機雲     永河

【評】飛行機であれば「突つ込む」で問題ないのですが、飛行機雲が「突つ込む」でよいのかどうか。下五の字余りも気になります。とりあえず、「冬空の果に飛行機雲刺さる」としてみました。

〇人眠り水は清らに木の実降る         永河

【評】これは写生句というよりも、作者の澄み切った境地を詠んだ作品だと受け止めました。写生派のわたしであれば、「人去りしあとの清流木の実降る」となりそうです。

〇猫カフェの出窓に猫と聖樹かな     あみか

【評】お洒落な街なかのスケッチですね。猫カフェに猫がいるのは自明ですので、もうひとひねりほしいところです。たとえば「猫カフェの出窓に猫の尾と聖樹」など。

〇~◎冬凪の瀬戸へ石段下りけり     あみか

【評】自注に尾道の景とありましたが、その雰囲気がよく出ていますね。季語から「瀬戸」が海をさすことは明らかですので、ややくどくなるかもしれませんが、「冬凪や石段下りし瀬戸の海」という別案も考えてみました。

一つお知らせです。

「伊吹嶺」編集長の荒川英之氏が『沢木欣一の百句』(ふらんす堂)という本を出しました。沢木欣一はわたしの先師です。たいへんよい本です。ぜひご注文下さい。

お申し込みは、はがき・FAX・メールのいずれかで荒川英之氏まで。

〒475-0915 半田市枝山町40-160

FAX: 0569-47-5064

Mail: tw28ez@bma.biglobe.ne.jp

1冊1500円です。

次回は12月21日の掲載となります。前日20日(月)午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30