Weekend Review~「倉橋由美子の怪奇掌篇」

 以前、このレビューで紹介した「ぼくを探しに」と「続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い」(シェル・シルヴァスタイン作)の翻訳をした倉橋由美子さんの短編集です。
「作家 倉橋由美子」は2005年に69才という今にしては早い旅立ちで、私はとても残念に思っています。とはいえ彼女の代表作「パルタイ」や「聖少女」「スミヤキストQの冒険」「アマノン国往還記」などには実は関心がなく、私はシルヴァスタインの翻訳と、この「倉橋由美子の怪奇掌篇」のみ印象が強く、これだけを好み、愛読し続けてきた偏ったファンです。
とにかく不思議な世界。好みは二極化されるでしょう。引き込まれたら取り込まれるか(笑)、まったく受け入れがたいか。そもそも表紙デザインからして妖しい。怪しい、のではなく妖しい。話の内容もしかり。夜になると頭だけが愛する男性のところへ飛んでいってしまう「首の飛ぶ女」とか、風呂に浸かり過ぎて血肉内蔵が溶け、骨だけになった少年の話、はたまた姉と弟の双子が自分たちの両親が“合体”している風景を見て、この世のものと思えない姿になっていたことにショックを受けるものの双子自身も姉弟相姦の仲であり、その姿が異界のモノの姿、形となって合体していることを覗き見た父親の衝撃……などなどなど。これを読んだだけではまったく想像しがたい内容だと思いますが、他にはない物語の構成と展開です。怪奇掌篇なので、怖いといえば怖い話なのですが、そこには表紙のイメージで書いた「妖しさ」が常に底辺に流れ続けているのです。読みながら物語の場面場面が生々しく、ドロリとした感触で肌に、脳に伝わってくる。よくこんな世界を紡ぎだされたものだと、立派な作家さんに対して失礼ですが、感心してしまうのです。いったいどこからこんな感性が生まれていたのでしょうか。彼女の人物像紹介には『カフカやカミュの影響を受け、日本の女流作家としては稀な抽象的、寓話的作風を示して注目された。』とあります。たしかに、カフカの変身にも通じそうな系統は感じないでもありませんが、影響を受けていたとしても、本書は異なる感覚をもった世界観です。
この書籍を私が手に取った経緯は忘れましたが、30年以上前から、本棚と私の寝床横を往復してきた本です。何年かごとに、ふと思い出しては読みたくなります。
倉橋由美子の怪奇掌篇。この世界に取り込まれてしまうかどうか。一読いただくしかありませんが、妖しき異空間から戻ってこられることを祈ります?!(ふるさとかえる)

 


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