6月11日~13日、英国のコーンウォールでG7サミットが開催されましたが、今回は韓国、オーストラリア、インド、南アフリカ4ヶ国の首脳がゲストとして招待されました(ただしインドはオンライン参加)。その意義は何でしょうか?
近年は世界経済に占めるG7の比重が低下し、中国等の新興国から成るG20の存在感が増してきましたので、G7拡大の必要性は以前からいわれていました。しかし今回は、単なる経済力でなく、政治思想を前面に押し出した参加国拡大という点が注目されます。
それはどういうことですか?
D11という呼称がそれです。DはDemocracy(民主主義)の頭文字です。民主的な11ヶ国が集まり、世界の反民主主義的潮流に警鐘を鳴らそうという趣旨だといっていいでしょう。とはいえ、この4ヶ国の選び方をみればわかるとおり、中国を念頭においてのD11であることは明らかです。オーストラリアとインドは対中国包囲網を形成する「自由で開かれたインド太平洋」構想のメンバーですし、韓国は中国と対峙するアメリカの軍事同盟国です。
中国もそのことは十分わかっているはずですから、強く反発したでしょうね。
反発はしました。猛反発をしたと報じているメディアもあります。しかし、わたしの感触を述べるなら、中国の反発は意外に抑制されたものでしたし、むしろ余裕を見せたといいますか、どこかユーモラスですらありました。たとえば中国外務省の趙立堅副報道局長は、6月15日の記者会見で、G7サミットにおける米国の姿勢に関し、「米国は病気だ。病は軽くない」と述べ、「G7は米国の脈をとり、処方箋を書いてあげたらいい」と揶揄しました。また、中国のあるメディアが掲載したG7の風刺画は、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模したもので、思わず笑いを誘います。
ところで、米国と中国の間でバランスを取らざるを得ない韓国の文在寅政権は、いかなる認識のもとでサミットに参加したのでしょう?
韓国にとって、G7への招待自体はたいへん誇らしいことです。世界有数の先進国として認められたわけですから。しかし、中国への牽制を主要目的とする会議に加わることに対してはリスクを感じていたと思います。それゆえ、サミットに先立つ6月9日に、韓国外相は中国外相と電話会談を行い、中国への配慮を示しました。また、文大統領はG7首脳とともに、表現の自由や法の支配の尊重を求める「開かれた社会の声明」に署名しましたが、韓国の政府関係者はこの声明が「特定の国を狙ったものではまったくない」と述べ、中国への気遣いを見せました(『読売新聞』2021年6月15日付)。
韓国は2016年に、米国の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備を決めてから、中国と険悪な状態が続いていると聞きますが、これを改善させようとしているのでしょうか?
そうです。文大統領は2017年12月に訪中して以来、中国との関係改善を模索してきました。韓国にとって中国は輸出入ともに最大の貿易相手ですから、経済的にも依存しています。中国が韓国を敵視し、北朝鮮への軍事支援を増やすことも避けたいところです。
他方、中国も韓国への接近を図っています。米中関係が悪化するなかで、米国の同盟国を少しでも自陣営に引き寄せようとの思惑がみえます。昨年来、習近平国家主席が訪韓する可能性も取り沙汰されています。この頃中国内では、対立する日韓の「仲裁」に乗り出し、中日韓関係におけるイニシアチブを握るべきだとの論調すらあるようです。
来年は、中韓国交樹立30周年という節目を迎えますので、両国ともそれに向け、少しでもよい環境を整えようとしているように見受けられます。
とすると、米国も心中穏やかでないのではありませんか?
そうですね。ですから5月に行われた米韓首脳会談では、共同声明に「台湾海峡の平和と安定」という文言が入れられましたが、これは米国側の要請によるものだったといわれます。米国は中国が最もいやがる問題を提起し、韓国に同調を求め、結束を誓わせたということでしょう。
ただ、日韓対立は米国にとっても頭痛の種で、和解を促すために米国が主導し、G7会期中に米日韓の3国首脳会談を開くプランもあったようですが、結局は実現しませんでした。菅首相がそれを望まなかったことが主因のようです。
日韓首脳会談も日本側が拒否したため行われなかった由ですが、文大統領は本気で希望していたのでしょうか?
そうだと思います。元徴用工問題や元慰安婦問題が日韓を遠ざける最大の原因でしたが、4月21日に、ソウル中央地裁が元慰安婦の損害賠償請求を却下、6月7日には同地裁が、元徴用工の日本企業への損害賠償請求を却下しました。本来、司法に行政が介入することはあり得ないし、あってはならないのですが、ともかく韓国でこれらの問題に対する風向きが変わったのはたしかで、これを追い風として、韓国は日韓首脳会談を実現させたかったのでしょう。結果的には、サミット期間中に文大統領が菅首相に歩み寄り、簡単なあいさつを交すのみとなったことはご存じのとおりです。
菅首相の素っ気ない対応は大人げないようにも思われるのですがどうでしょう?
歴史認識問題は国民感情もからんできますので、非常に扱い方が難しいのですが、今日の日韓関係のこじれはG7のほかの国々には理解しがたいかもしれません。しかも、元徴用工問題にしろ元慰安婦問題にしろ、たしかに日本政府が主張するとおり法的には解決済みなのでしょうが、まさに人権問題そのものでもありますから、日本側の態度は人権重視の欧米諸国の共感を得にくいと感じます。その点に関していえば、韓国側に強みがあるといえるでしょう。
現に韓国がG7に招待された事実や、米国も中国も韓国を重視していることを日本政府は冷静に受け止め、前提条件を付けずに日韓首脳会談を開く度量を示すことが必要なのではないか。そんなふうに思います。
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