自衛隊への入隊を決め申し込んだ。父へは、事後報告だった。何も言わず許してくれた。「なんて息子だ。」と今になって思う。「御免なさい。有難う。」心からそう思うが、ついにそう伝える機会を失ってしまった。一生懸命畑で働くことが父への供養だと思っている。そして今息子と一緒に働けることがとても楽しい。しかし、始まりはそんなだった。自衛隊での思い出は様々あるが、任地の北海道での生活が将来の農業への夢を育んだ。私が、中学生だった頃「ブラジルで農業をしようか」と父が言ったことが有る。冗談で言ってると思っていたが案外本気だったのかもしれない。事実私の心には、広大な畑で働く自分のイメージの欠片が未だにきらりと光る時が有る。任地を北海道に選んだのもその影響が有る。自衛隊では、真面目に勤務し訓練にも励んでいた。休日には、体力錬成を兼ねて駐屯地に隣接する演習場の森によく走りにいた。ある時、道から外れて森の斜面を登って行くといつの間にか森を抜け、牧草地が広がっていた。丘の上の草原は、とても見晴らしが良く石狩平野が一望できた。札幌辺りから蛇行した石狩川を遡ってゆくと暑寒別岳の山群まで見える。
心地よい風景に浸りながら「心地良さの感じられる農業」についてあれこれ思いを巡らせるようになっていった。
京滋有機農業研究会 会長の田中真弥さんが無減農薬野菜などの宅配サービスの会員向けに連載しているコラム「こころ野便り」を当サイトにも掲載させて頂いています。前回はこちら。