柚子唐辛子ができるまで(7)

さて、次は、柚子唐辛子を作り出すためのもう一つの大切な役割「食品加工」を担っている障害者福祉事業所「瑞穂」さんのお話をしたいと思います。今回、柚子唐辛子を作るにあたり、イタリアンレストランcenciのスタッフは瑞穂さんを見学に行き、瑞穂に通う障害のある利用者さんは、cenciに加工の仕方を学びに行きました。

瑞穂がどんなところなのか、瑞穂の職員「梅原さん」と「貴島さん」にインタビューした内容をお伝えします。

 

瑞穂とはどんな場所ですか?

瑞穂

いろんな障害の方がおられて、重度と言われる人も軽度と言われる人も、いろんな障害の方が仕事をしに通っている場所です。仕事の内容はいろんなものがあって、食品加工だったり、清掃業務だったり、自主製品で版画を彫ったり、さをり織りを織ったり版画をしたりしています。利用者さんは、商品が売れた代金だったり、清掃業務の委託料などから工賃を得ています。

年齢層も、40年前から通ってきている人は、もう60代〜70代になるし、最近、学校卒業してすぐに入ってきた18歳の人もいます。年齢の幅も広くいろんな人がいます。

その中で、瑞穂は「より弱い立場の人を大切に」という理念でやってきました。

年齢が若いからとか障害が軽いからとか、そういう事ではなくて、「今、本当に一番困っている人は誰なんだろう」ということをみんなで考えながら、その当事者の人も発信して、周りの人も考えて、弱い立場の人を大切にやってきています。

常に30人~40人の人がいる中で、毎日いろんな人が来るのでその時々によって「困っている人」というのは変わってきます。

職員だけではなくて、利用者さん同士もそのあたりを敏感に感じて、思いやりを持っている人が多い場所だと思っています。40年経っているので、家族っぽいところが瑞穂らしいところかなと思います。

 

40年前はどんなところからスタートしたのですか?

瑞穂

前所長の元藤タカシさんの家にひとりの障害のある人が住みだして「この人の働く場所はどうしようか」というところから始まりました。当時、元藤家にはいろんな人が集まってきていて、昔ヒッピーとか流行っていた時代があって、みんなで夢を語り合ったり、「みんなで理想郷を作ろう」みたいなことからのスタートだったそうです。今の時代からみると、ちょっと変に見えるかもしれないけど。

 

で、気が付いたらこんなに広がっていた?

瑞穂

そこに、町の人たちが集まってきて、「こんなんしたら?」「こっちにも障害のある人いたで」みたいな感じで、住む場所と働く場所を作って行った。

 

そして今も「より弱い立場の人を大切に」していっている。「素食の日」っていう取り組みもされてますよね。

瑞穂

「素食の日」は、月に一度ご飯とお味噌汁だけにして、浮いた食費をカンボジアに送り続けてきた。最近では災害も増えている。東北だったり九州だったり…。以前はカンボジアだけだったけど、最近はみんないろんなニュースを見たりするから「次はここに送りましょう。」「ここはどうですか?」と利用者さんからも声が上がる。施設のなかでも喫茶の時間があって、コーヒーチケットを買うんだけれども、自分の分と余分にもう1枚買って、飲んだつもりになって寄付をしたり、毎日コーヒーを飲む人は毎日入れたりして、じゃあそれをまとめて「これはどこに送りましょう。」と利用者さんが意見を出し合って決めたり。

今回は、もはや助けるのは人じゃない。「困っている牛を助ける。」福島で放射能を浴びてしまった牛を助けるためにコンサート開いて募金を集めたり、瑞穂祭で募金を集めて、東北に送ったり。最初の3〜4年は避難している子どもたちのサマーキャンプに。その時々でみんなで話し合いながら決めている。

生前に前所長の元藤さんが言っておられたのは「障害者は、ただ弱い立場の人間じゃない」と。社会的に見たら弱いかもしれないけど、福祉の制度もだいぶできてきて、「この人たちが一番弱い立場じゃないからもっと他の事に目を向けていこう」と言っていた。

 

そういうところが、cenciのスタッフがここに見学に来た時に「誇りをもって働いている空気を感じた」という背景でしょうか?お金のためだけに働いているわけじゃないというか…

瑞穂

ここ数年、「これは自分の仕事」「これは自分が作って売れた」「見学者に説明をするのは私がしたい」とかそういう感じが出てきている。みんなのためにとか、弱い人のためにというのは昔からあって、そこに加えて「これは自分の仕事やからするんや」というのは最近、強くなってきているのかな。昔から長くいる人は「これが自分の仕事や」っていうのがあるけれど、最近はいろんな選択肢がある中で、「自分はこれを仕事にするんだ」が出てきたというか…。

「職業に貴賎はない」と言うけれど、実際、昔の障害者施設は内職などが唯一の仕事だった時代がある。ここでも30年前からずっとやっている内職がある。それが唯一の仕事だった時代。だからそれに対して、今でもその人はプライド持ってやっている。そして、時代が変わって内職だけじゃなくなってきて、社会的にも必要とされている仕事をしっかりと瑞穂としてできるようになって、それを自分の仕事としてできるようになって、その仕事にプライドを持ってやっている若い人たちもいる。仕事の中に社会的な価値ややりがいを見いだしている事が、はたから見たら、誇りをもって働いているように見てもらえるのかなと思う。(続く


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About 坂本彩 41 Articles
坂本彩(彩社会福祉士事務所) 大学卒業後、20年間、知的障害のある人とかかわる仕事をする。2017年に、独立型社会福祉士事務所を開業。福祉施設のアドバイザーや研修講師、成年後見人の受任、大学の非常勤講師などをしている。障害のある人もない人も一緒に「学び合いの空間づくり」をしていきたい。社会福祉士、介護福祉士、障害者相談支援専門員、そのほか、漢方養生士指導士、漢方スタイリスト、薬膳アドバイザーの資格も持つ。