「カナリア俳壇」43

寒中お見舞い申し上げます。今年も早々に緊急事態宣言が発出され、大変な一年が予感されますが、なんとか平常心を保って暮らしたいものですね。俳句がその一助になると信じております。

△公園の光は丸く地鳴き聞く     白き花

【評】まず季語がありません。「笹鳴」(冬)や「囀り」(春)にしましょう。「光は丸く」も読者には伝わりづらいように思いました。

△新年に花も聴きたるワルツかな     白き花

【評】この「花」は室内に飾ってある「室の花」(冬の季語)のことでしょうか。俳句ではただ「花」と書いた場合、桜を意味するというルールがあります。具体的な花の名前がほしいところです。また、花がワルツを聴くというのも俳句としては飛躍のしすぎ。俳句はリアリズムの文学です(ポエムならこれもいいと思いますが)。

△雪の朝庭の景色が一変す     蓉子

【評】「一変」するのはだれでも気づくこと。どう一変したのか、蓉子さんならではの描写ができて初めて俳句になります。

△病む夫の雑煮食して喜べり     蓉子

【評】病む夫「が」としましょう。この「の」は曖昧ですので。ここままだとご主人の雑煮を自分が喜んで食べたみたいです。また、下五の「喜べり」がいけません。喜んだというのは作者の解釈です。どんなところから喜んだとわかったのか、そこを描写しないと俳句になりません。

△~○長靴を干して豆腐屋日脚伸ぶ     ひろ

【評】句材はユニークですが、この句形ですと中七で切れが入らず、「豆腐屋」と「日脚伸ぶ」が癒着してしまいます。「豆腐屋の干せる長靴日脚伸ぶ」でどうでしょう。

△~○紙漉きの水の硬さや久女の忌     ひろ

【評】「紙漉」は冬の季語ですから、季重なりになってしまいます。「水の硬さ」に気づいた点はたいへん結構です。これは久女の忌日とは関係がありません。久女のほうへ焦点をそらすのでなく、「水の硬さ」のところで踏ん張って一句を完成させて下さい。

△初春や厨賑はす妻の味     美春

【評】味が賑わすというのは日本語表現としてどうでしょう。「賑はす」を使うなら料理のいろどりに着目したほうが自然です。それと「厨」ではまだ食べませんよね。そこで「味」を詠むのもいかがかと思いました。つまみ食いしたのなら別ですが。

△晩酌に子から写メール初便り     美春

【評】「写メール」と「初便り」が意味的に重複しています。それに「写メール」という語を使って詩的ときめきをもたらすのは至難の業です。さらにいえば、新年の挨拶をするのは「晩酌」の時間ではなく、ふつう午前中か、すくなくとも昼間でしょう。ただしお子さんが海外にいるなら、この状況は面白いと思います。その場合は、たとえば「フランスからの初メール」などとするのも手です。

△~○双六のSDGs膝の児と     マユミ

【評】情景はよくわかります。ただ、わずか17音のなかでSDGsに7音を費やすのはもったいない。それほど詩的な効果が出せる言葉だとも思いません。それより「膝の児」のことをもっと描写したほうが思いのこもった句になるような気がします。

△~○寒林に乃木大将の像しやんと     マユミ

【評】「寒林」と「乃木大将の像」の取り合わせはユニークで、想像がふくらみます。しかし下五の「しやんと」で腰砕けです。一句の成否はここで決まります。大いに悩んで最適な語を見つけて下さい。そうすれば名句になるかもしれません。

◎若き日のコ-トに厚き肩パット     音羽

【評】若いときに着たコートを久しぶりに洋服ダンスから取り出したのですね。こんなふうに肩パットの入ったコートが流行ったのはいつ頃のことでしょう。いい句です。

○初鏡己が後ろを夫よぎる     音羽

【評】ちょっと不思議な感覚の句ですね。「よぎる」ですと、今一つインパクトがありません。もう一工夫できるように感じました。

△児の背より高き竹馬歩きだす     蕪子

【評】いっぱんに竹馬は背丈より高いものだと思います(最近の製品は、安全を考慮して丈の短いものになったのかもしれませんが・・・)。それと、「竹馬歩きだす」ですと、この児が乗っているのとは別の竹馬のように受け取れてしまいます。ご再考下さい。

△今年また賀状欠礼喪にありて     蕪子

【評】これでは575の形をとった報告です。俳句は「座の文芸」です。つまり自分の句を受け止めてくれる仲間(読み手)を意識しないといけません。読者はこの句から何を共感したらよいか。感動はどこにあるのか。真の俳句はこの句をさらに推し進めたところに必ずあるはずです。もう一踏ん張りして下さい。

○煮魚の匂ふ厨や雪催     妙好

【評】日常生活のなかからうまく詩情を掬い取った句です。「雪催」が効果的です。欲をいえば「厨や」に再考の余地があるかもしれません。「や」は感動の所在を示す切れ字です。つまりこの句は「厨」に感動している句になっています。むしろ匂いに感動のポイントをもってきたほうがいいように思いました。

△~○夕照や臘梅の黄の深まりぬ     妙好

【評】夕照のせいで黄色が濃くなったのですね。理屈で割り切れてしまうところが惜しい気がします。上五次第でさらに句意が深まるように思います。

△不揃いの親子で丸む鏡餅     織美

【評】仮名遣いは「不揃ひ」としましょう。ところで不揃いの親子とはどのような親子なのでしょう。そこを具体的に写生して初めて俳句になります。

△冷えし夜の追い焚き五分仕舞ひ風呂     織美

【評】仮名遣いは「追ひ焚き」です。「五分」にどれほどの意味があるのか。今一つ報告にとどまっていて、作者の感動が伝わってきませんでした。

◎春めくやしこ名呼び合ふ紙相撲     多喜

【評】家族で紙相撲に興じているのでしょうか。春を呼び込むような温かみと華やぎが伝わってくる句です。

△~○発掘の泥んこの尻松過ぎぬ     多喜

【評】句材は面白いのですが、季語がミスマッチ。泥だらけの「尻」から「松過ぎ」へのつながりがしっくりきません。季語次第で佳句になりそうです。ご再考下さい。

○自粛てふ言い訳ありて寝正月     万亀子

【評】仮名遣いは「言ひ訳」です。「自粛」とはまさにコロナ時代の句ですね。正月らしい穏やかな気分が伝わってきました。

△~○雀にはたつぷりの米お正月     万亀子

【評】「たつぷりの米」がやや舌足らずでしょうか。「雀には」の「には」も強すぎます。「自分もおなかいっぱい食べたけれど、雀にもたくさん食べさせたあげよう」という句に仕立てたほうが正月らしい明るさが出るように思いました。「雀にも米たつぷりとお正月」でどうでしょう。

○四温光卒寿の母と筋トレを     徒歩

【評】ユニークな季語ですが、この明るさが句の情景と即応していていい感じです。最後が「を」で終わると安定感がそこなわれますので、語順を入れ替えて、「筋トレを卒寿の母と四温光」でいかがでしょう。

○大寒や泡の浮きたる除菌ジェル     徒歩

【評】「除菌ジェル」まで貪欲に詠もうという意欲を高く買います。俳人たる者、句材も含め常に新しい境地を求めないといけませんね。泡の浮揚感が「大寒」に合っているかどうか。もうすこし明るみを出し「寒暁や」とする手もありそうです。

△~○鼻弾けまつげを濡らす細雪     永河

【評】字余りでも「鼻に弾け」といわないと鼻が吹っ飛んでしまうことになりかねません。中七も助動詞「り」を用い、「鼻に弾けまつげ濡らせり細雪」とすると雰囲気がソフトになり、細雪らしくなります。常々考えていることですが、俳句では助動詞が極めて重要です。現代語にはない陰影やニュアンスをもたらしてくれるのがこの助動詞です。

○~◎方舟の如く病院雪しまく     永河

【評】病床の逼迫が報じられ、患者の選別(トリアージ)などということが言われると、ほんとうに病院が方舟に見えてきますね。中七で切れを入れるなら「如き」でしょうか。また、「病院」は一般名詞ですので、個別具体的な描写をするなら「病棟」のほうがいいかもしれません。「方舟の如き病棟雪しまく」でどうでしょう。

次回は2月9日(火曜日)に掲載の予定です。前日8日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。皆さんの意欲作に期待しています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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