私は成年後見人の仕事をし、利用者さんの財産を管理することが仕事のメイン部分の一つです。しかし私は財産を管理しますが、日々の生活のなかで使うお金の管理は、できるかぎり利用者さんご自身でしていただいています。「自分のお金で好きなものを買う」ということは、大人の生活の中でアタリマエのことですし、楽しみにもなります。どこまでを後見事務として行い、どこまでをご本人にしていただくか、その見極めは大切です。そして、なかなか難しいです。
お金を管理するための脳の働きを考えると、たくさんの働きが必要です。お金を計算するための計算力、使ったことを覚えておく記憶力、将来のことを考えて使える予測力、欲しくてもお金がないなら我慢する抑止力・・・などなど。もちろん、お金の種類を理解して、買い物に行くにはお金を持っていき品物と交換しなければならないことなどの知識や理解が必要なことは言うまでもありません。
成年後見制度を利用される方は、何らかの部分で判断力に低下や不安がある方です。しかし、だからと言ってすべてのことができないわけではありません。どこまでなら可能なのか、どこを支援する必要があるのかを把握してサポートする必要があります。
私が少し前から支援をし始めた人の中に、これまでお金の管理をしたことがなく、毎日さまざまに訪問する支援者が当番を決めて数百円ずつ渡しているケースがありました。数百円の中で好きなものを買って、一日のお金が終わります。しかし、よく話を聞いてみると、暗算は苦手なものの電卓を使うことができました。数字を書くこともできます。無駄遣いをすることは嫌いで、「もったいない」が口癖でした。長い間、一日数百円のルールがあったため、大きなものを買うことも考えなかったようでした。でも、話のなかにはほしいものがある話もありました。
ご本人のお金を、支援者が少しずつ渡すことは、お金が底をついて必要なものにお金が払えなくなることを防ぐためには必要な手段です。しかし、支援者が必要だと思うものでも、ご本人が本当に欲しいもののために、多少生活の中の不便さがあっても我慢して、欲しいものにお金を回すのは、本人にとっては大切なことです。
そんな思いがあり、家計管理のための第一歩「お小遣い帳をつける」という取り組みをお伝えしました。最初の一歩は、「買い物でもらったレシートを、ノートに貼る」という作業です。そして、一週間分を一緒に見て、電卓で計算してもらい、どれぐらいの買い物をしたか振り返ります。今度は、一週間分のお金をまとめてお渡ししました。前の週までの残りのお金も加えた中で、上手に決まった金額のなかで使えています。今では、一週間の最後の日に、残ったお金で買える「すこし良いもの」を食べることが楽しみだそうです。一日分ずつではできなかったお金の使い方ができるようになってきたことで、ほんの少しですが生活の自由度が広がったようです。
成年後見制度を利用するさまざまな人のために、無駄遣いしないようにガードをする管理手法ではなく、一人ひとりが自分の好みや状況に合わせて、欲しいものを手に入れることができるよう、これからも日常生活の「金銭管理」のスキルを利用者さんにお伝えしていきたいと思います。