3回くらいの記事で…と思っていたのが、結局3か月に渡って書くことになってしまった日本学術会議会員の任命拒否問題ですが、本日の記事をもっていったんシメとさせていただきます。
日本学術会議には、非常に優れた研究業績を有する研究者が選任されます。そのため、大学で学ぶ一般の学生からは、縁遠く見える存在かもしれません。しかし実は、日本学術会議は学生が大学で学ぶ教育の内容にも影響力をもっています。それが教育成果の分野別参照規準と呼ばれるものです。
一般に先進国と言われる国には多くの大学があり、それぞれが個性を持っています。それ自体は素晴らしいことですが、「何でもあり」という状態では学生の学ぶ権利が保障されません。
全ての学生が適切な教育を受けられるようにするために、大学評価という仕組みがあります。国が認めた評価機関の評価担当者が、各大学を定期的に評価することによって、教育の質を担保しようというものです。
大学には多くの学問分野があります。その学問分野ごとに、4年(6年)の間に学ぶべき内容を決めているのが「分野別参照規準」です。そしてこれは日本学術会議で議論、提示されています。
その名の通りに「参照規準」ですので、ある程度緩やかなものではあります。しかしこれは、大学が定期的に受審することを義務付けられている大学評価の参照規準でもあります。つまり、日本学術会議は学生が大学で何を学ぶかの内容に影響力を持っているのです。そのような学術会議が、一部の政治家の思惑によって人事を左右されることになれば、学生の学びが偏った方向に誘導される恐れもあると思います。日本学術会議というのは、実は学生にとっても非常に身近な存在でもあるのです。
さてこの問題が発生してから3か月弱ですが、これまでに自然科学系の93の学会、人文・社会科学系の310の学会・協議会が、抗議声明を出しています。
日本学術会議問題、学界から声明続々 海外科学誌も言及:日本経済新聞 https://t.co/CzigAXc5IQ
— まさのあつこ (@masanoatsuko) October 11, 2020
「自由に物を言える社会を維持できるか、統制されるかの分水嶺だ」。日本学術会議の任命拒否問題を巡り「人文社会系学協会連合連絡会」のメンバーが記者会見しました。https://t.co/YUGI7AP2cu
— 毎日新聞 (@mainichi) December 2, 2020
またネイチャーなどの国際的に著名な学術誌からも懸念の声が寄せられています。
英誌ネイチャーや米誌サイエンスが学術会議人事への菅政権の介入を批判。「学問の自由の脅威」と。当然のこと。冷静な「学問の自由」が失われれば社会の発展なく未来に悲劇が待つのみ。戦前戦後にかけ日本人は痛いほど経験しているはず。#日本学術会議への人事介入に抗議する https://t.co/I0LXDvK14M
— 佐藤 章 (@bSM2TC2coIKWrlM) November 15, 2020
最後に、東京都立大学教授の木村草太さんが、今回の問題と憲法と日本学術会議法について解説している動画がありました。大変わかりやすい解説ですので、ぜひご覧ください。社会心理学と刑事法学の若手研究者とのやりとりも、参考になるかと思います。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。