かわらじ先生の国際講座~支持率急落の文在寅政権

この数日、菅内閣の支持率が急落しました

政府の緩慢な新型コロナウイルス対策への国民の不安や不満がその主因であることは想像に難くありません。
ところでお隣の韓国でも文在寅大統領の支持率が過去最低を記録したとか。

韓国は徹底した防疫で感染拡大を抑え込み、国際社会でも高く評価され、たしか今年5月の世論調査では文政権の支持率は70%を超えたと報じられた記憶があります。それがなぜ今、こんなふうに落ち込んでしまったのでしょう?

実は韓国も、日本と同様に感染拡大の歯止めがかからない状態に陥っています。

国民の「自粛疲れ」に加え、感染経路の不明なケースが増大し、政府としても有効な策が講じられずにいるようです。しかし文大統領の支持率低下は、新型コロナだけが理由ではありません。

いったい何が問題なのでしょう?

いくつもの理由が複雑にからんでいますが、まずは政府与党側の政治家のスキャンダル。昨年(2019年)9月、文大統領は側近の曺国氏を法務大臣に任命しましたが、同氏の娘の大学不正入試や親族の不透明なファンド投資等、いろいろな疑惑が噴出し、就任後1ヶ月余りで辞任という失態が演じられました。また文大統領と近しい釜山市前副市長が収賄容疑で起訴されると、政府の介入により捜査が途中で打ち切られるというスキャンダルも起きました。さらに元従軍慰安婦支援団体の前代表で、与党国会議員となった尹美香氏が国庫補助金を流用した疑惑も出てきました。そして今年7月、与党に属し文大統領の後継者として次期大統領選に出馬すると言われていた朴元淳ソウル市長が、女性秘書へのセクハラ問題で追い詰められ自殺するという事件もありました。要するに文大統領は内輪の不祥事に甘いとの印象を国民に与えてしまったのです。

政界入りする前の文氏は「人権派弁護士」として知られ、クリーンなイメージが強く、大統領就任当初は80%の支持率があっただけに、その「身内」からこのような醜聞が次々出てくると国民の失望も大きいでしょうね。

そうですね。経済政策の不首尾も国民の不満の種となっています。新型コロナ禍の影響で経済は低迷し、国際通貨基金(IMF)の予測では今年の経済成長率は前年比2.1%減となるようですが、そのしわ寄せが特に若い世代にいっているのが問題です。今年6月の統計では、15~29歳の失業率は10.7%という高水準なのです(『朝日新聞』2020年7月17日)。とりわけ深刻なのが不動産の高騰問題。ソウルをはじめとする都市部のマンションの値段はうなぎ登りで、文政権発足から3年でソウルのマンションの平均価格は5割も上昇し、日本円にして1邸9000万円に迫るほどとか。教育や生活環境が充実した好立地の物件は、もはや一般市民の手に届かなくなっています。
かたや富裕層は、投資目的のために中心部の物件を買いあさり、複数の住居を取得するなど、貧富の格差があらわになっています。こうした「多住宅者」に対する世論の反発を受け、今年7月、廬英敏大統領秘書長は大統領府幹部に対し、1戸を残して他の物件を処分するよう強く勧告しましたが、彼自身がそれを実行していないことが発覚し、批判が集中、廬氏と首席秘書官5名が辞意を表明する事態となりました。韓国のメディアは、多くの国会議員や政府高官が複数の不動産を所有していることを告発し、これが文政権への不満につながっています。

文政権への不満はコロナ対応だけでなく、かなり根深いものがあるのですね。

はい。なかでも一番の問題は、法務相と検事総長の対立が泥沼化していることです。この対立を招いた責任は文大統領にあると国民は憤っているのです。この12月に大統領への支持率が急落した最大要因はこの問題だと言ってもいいでしょう。

なぜ法務相と検事総長が対立するのですか?もう少し詳しく説明して下さい。

もともと人権派の文大統領は「検察改革」を公約とし、悲願ともしています。かつて検察は強権的な政権と結びつき、民主活動家の弾圧に荷担したり、保守政治家の不正を隠蔽すべく捜査を手控えたり、野党勢力の排除に動いたりと、かなり問題の多い、アンフェアな機関でした。韓国ではたいがい前大統領が有罪とされ逮捕されてしまいますが、それは検察が新政権に都合よく動いているからとも言えるわけです。
そこで文氏は、検察を中立化するだけでなく、政官界への捜査権を取り上げ、刑事事件の起訴権を警察にも分与するなど、検察の権限を弱める改革に乗り出しました。その一環として独立機関である「高位公職者犯罪捜査処」の設置に関する法改正も行ったのです。そして文大統領は検察改革を推し進めるための要員として、尹錫悦氏を検事総長に、秋美愛氏を法相に任命したのです。ところが、尹検事総長は文大統領に牙を剥き、その政権内部に捜査のメスを入れ出したのです。そこで秋法相は文大統領の意を体し、いまや野党の側についた尹氏を排除すべくその不正を暴こうとしている、という次第です。ですから法相と検事総長の闘いは与野党の「代理戦争」とも言われます。

国内が新型コロナ禍と経済の低迷に喘いでいるとき、政局がこんなに泥沼化してしまい韓国も大変ですね。

文大統領もこのような混乱を招いたことに対し、テレビで謝罪のスピーチをしていました。しかし大統領の任期は残すところあと1年半。与野党間では次期大統領選挙に向けて熾烈な政治闘争が始まっています。ちなみに尹検事総長は次期大統領の有力候補の一人と目されています。この混沌とした内政が米日韓関係や南北朝鮮情勢など外交問題にどう影響するか、われわれも注視したいところです。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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