かわらじ先生の国際講座~政治家と言葉

奇しくも同じような時期に日本とアメリカで政権が変わりました(ただしバイデン氏の大統領就任は1月20日)。どちらのトップも前任者より年上で、アメリカの場合は史上最高齢の大統領とか。どうしても彼我のリーダーを比較してみたくなりますね。

バイデン氏は大統領就任時には78歳になる由で、こんな高齢で4年間も激務が全うできるのだろうかと思いましたが、勝利演説を聞いて認識を改めました。こちらの映像をご覧下さい。本当に力強い、そして真情の伝わるスピーチです。


アメリカ国民の団結を訴える内容ですが、易しい言葉を使いながらも格調が高く、しっかりと聴衆の目を見て語るそのスタイルにほれぼれとしました。もちろんスピーチライターはいます。しかし肝心なのは、バイデン氏がそれを完全に自分の言葉にしていることです。原稿を読み上げるなどということをしていません。聴衆の反応を確かめながら、余裕をもって語っています。
ついでながら、副大統領にきまったカマラ・ハリスさんの演説も見事なものです。内容もさることながら、その表情の豊かさに魅了されます。心揺さぶられる名演説です。ぜひじっくりと聞いてください。

ひるがえって我が国は、ということですね・・・。

はい。上の2人と比較するのは酷ですが、菅首相の言葉には心をゆさぶる要素が乏しいといわざるを得ません。たとえば首相就任時の記者会見を見てみましょう。


原稿を読み上げていることが丸わかりで、言葉が自分のものになっていません。また表情のなさも大きなマイナス要素(ただ、この頃はこの無表情が、彼のトレードマークになっているようですが)。
内容もいけません。安倍政権への賛辞と自分の手柄を語りすぎです。「最優先の課題は新型コロナウイルス対策」だと言いながら、「ポストコロナ」の政策に重点を移してしまっているのも問題。「自助・共助・公助」を掲げ、わけても「まずは自分でやってみる」と自助を強調する点も、今の国民感情から乖離しています。いまこそ「公助」が求められているというのに。
そして最後の「国民のためになる、ために働く内閣をつくります。国民のために働く内閣、そのことによって、国民の皆さんの御期待にお応えをしていきたい。どうぞ皆様の御協力もお願い申し上げたいと思います」という言葉は最悪です。まさか安倍政権は「国民のために働かない内閣」だったと言いたいわけではないでしょう。「国民のために働く内閣」という至極当然のことを手柄のように強調する神経にはあきれるほかありません。

しかし新型コロナ禍への対策は専門家にとっても未知の領域で、菅内閣に具体的な処方箋を求めるのは無い物ねだりではないでしょうか?

それは国民も承知していますから、みな前代未聞の事態に耐えているわけです。しかし菅首相の言葉は一体に熱量が不足していて、冷たい感じがするのです。国民を鼓舞する力が皆無に近い。11月19日の記者会見では「ぜひ皆さん、『静かなマスク会食』をお願いします。わたしも今日から徹底したいと思います」と述べて、はにかむような笑みを浮かべましたが、きっとご本人としては、気の利いた表現のつもりだったのでしょう。

しかしネットやテレビではこの首相の発言に相当疑問の声が上がっています。首相に限らず、現内閣の大臣たちの表現能力はかなり問題があるように思われます。

どのような点が問題なのでしょうか?

それを指摘した非常に興味深い鼎談がネットにありました。「危機管理/広報コンサルタント」の肩書きをもつ石川慶子さんのサイトです。文章と動画が載っていますが、時間があればぜひ動画のほうをご覧下さい。とにかく面白くてためになる内容です。

 Yahoo!ニュース 個人 
閣僚の80%が会見で原稿棒読み、ボディランゲージは危機的状況 海外なら炎上しかね...
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20201126-00208488/
9月16日に菅義偉新内閣が誕生し、各大臣の活動が始まり2か月が経ちました。今回は、各大臣のボディランゲージ力を徹底比較します。

閣僚たちの原稿棒読みや尊大な動作が痛烈に批判されています。国際社会のなかでこんな振舞いをしたら大変なことになるという座談会メンバーの危機認識はぜひ政治家にも共有してほしいところです。

茂木外務大臣は日本外交の顔としてどうですか?

東大卒業後、米ハーバード大大学院で学位を取得するなど優秀な人で、英語能力も非常に高いはずです。ただしその尊大さが問題で、人間性の観点からみれば国際人失格でしょう。定例記者会見でジャパンタイムズの記者に対し、その日本語をばかにするような受け答えをしている映像をご覧下さい。2分15秒あたりからです。

だめ押しのように「日本語わかっていただけました?」と繰り返すあたりは人種差別と言われてもしかたありませんね。

そういえばアメリカのトランプ大統領も、日本人記者のあまりうまくない英語の質問に対し小馬鹿にしたような態度をとったことが話題になりましたね。たしかに政治家はもっと言葉に敏感にならなくてはならないでしょうね。特に一国のトップともなれば国内だけでなく世界が注目しているわけですから。

最新のニュースですが、アメリカのバイデン陣営は、広報担当のチームをすべて女性にしたそうです。

 Yahoo!ニュース 
バイデン氏、広報の要職を女性で固める 大統領報道官にサキ氏(ロイター) - Yaho...
https://news.yahoo.co.jp/articles/562237472855c04277b5e04a8ac0a80081136803
[ワシントン 29日 ロイター] - 米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領は29日、オバマ前政権時代の国務省報道官、ジェン・サキ氏を大統領報道官に、自身の選対陣営の広報担当

国民に何かを伝えるということへの意識の高さが感じ取れます。日本政府もこのままでは日本国民のみならず国際社会からそっぽを向かれてしまうかもしれません。今やネットですべてが瞬時に広まってしまう時代です。我が国の政治家も言葉の重要性にもっと自覚を持つ必要があるでしょう。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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