隔週木曜のカナリア倶楽部では、日本学術会議とその会員任命拒否問題について、何回かに分けて書いていこうと思っていましたが、この2週間ほどの間に次々とデマ情報が政治家や大手も含めたメディアによって拡散されるに至っています。今日は、私が見つけることのできた範囲で取り上げます。
誤情報1.日本学術会議会員に選ばれると多額の年金がもらえる
フジテレビ解説委員の平井氏が、学術会議で6年働くと学士院に入れて多額の年金がもらえると主張したのですが、これは全くの事実無根です。そもそも日本学術会議と学士院は全くの別組織です。なおフジテレビのアナウンサーが後日、この平井氏の発言を訂正しています。
「学術会議で6年働けば、学士院で死ぬまで年金250万円」は誤り。フジテレビで放送、ネットで拡散 https://t.co/OkjkRA4ZYJ
番組でちょろっと訂正があったらしいけど、本人 @iwaneba はツイッターでデマの訂正もしようとしないんですか。さすがフジテレビの解説委員。
— 3羽の雀 (@three_sparrows) October 6, 2020
「学術会議で働くと年金」バイキングが誤解説を番組内で訂正(女性自身)#Yahooニュースhttps://t.co/u6fmyJO1D8
— ちゃんSOLA (@SOLA71814973) October 9, 2020
誤情報2.学術会議に税金を投入しているのは日本だけだ
学術会議は英語ではアカデミーと呼ばれる組織で、組織の形は様々ですが基本的にどの国にもあります。そしてアメリカのイギリスも税金を投入しています。
「デマです」と橋下徹氏のツイートに批判 学術会議問題で誤情報が拡散:東京新聞 TOKYO Web https://t.co/HljWF9VfQh
米国では、年間の運営費が2億ドル(約210億円)で、うち8割が連邦政府との契約という形で公的資金が。英国では収入7060万ポンド(97億円)のうち67%が公的資金。— 大学フォーラム (@univforum7) October 16, 2020
誤情報3.日本学術会議は活動をしていない
自民党の下村博文議員が、長年にわたって答申がでていないことを理由に、日本学術会議が税金を投入するに見合った活動をしていないため、行政改革の対象にするべきだと指摘しました。
しかし実際には日本学術会議は、9月だけでも25もの提言を出しています。例えば9月11日には「認知症に対する学術の役割ー「共生」と「予防」に向けて」という提言が出されています。提言以外にも報告や声明など多くの議論をまとめて発信をしています。下村氏が指摘した「答申」が出されていないのは、政府から諮問がないからです。答申は「お答え申し上げる」ものですから、政府が質問(諮問)をしなければ、学術会議が答申することはできません。
下村博文氏は答えるという日本語を知らないんです。だから加計学園の200万円についても答えてないんです。やっと答えるの意味を知ったので色々期待してます!→
「答申ないのは諮問ないから」 学術会議元会長、自民の批判に反論(時事通信)#Yahooニュースhttps://t.co/NN9cBpxhfj— ダースレイダー (@DARTHREIDER) October 10, 2020
誤情報4.会員は自分の後任を指名できる
できません。学術会議会員は3年ごとに半数ずつ改選されますが、それに先立って全国の学会にアンケートを取るなどして候補者などについて情報を集めます(私が共同副代表をしている学会にも問い合わせが来ました)。優秀な研究者を偏りなく選んでいくことができるように、多くの努力がされています。
【嘘デタラメ】スガとイソジン維新は、学術会議10億円を行革の対象とする嘘デタラメの攻撃を仕掛けている。後任を指名もできない、専門分野ごとの分科会などが公表する「提言」は先月だけでも25件もあり、固定給で低い出張旅費で手弁当、年金もない。https://t.co/3thJGsFLCs
— 金子勝 (@masaru_kaneko) October 9, 2020
誤情報5.日本学術会議は中国の軍事研究『千人計画』に協力している
衆議院議員の甘利氏が最初に流した誤情報で、本人がブログをこっそりと書き変えた後もネット上で拡散が続いています。ここには誤情報が2つ含まれています。まず日本学術会議は中国の『千人計画』とは無関係です。このことは加藤官房長官も、10月12日の記者会見できっぱりと否定しています。
また中国の『千人計画』は軍事研究ではないとのことです。中国は優秀な若い人たちが米国を始めとする海外の大学に留学して学位を取得し、そのまま帰国しないことに悩んでいます。中国出身の研究者たちを帰国させたいということで始まったプロジェクトです。
SNS上の怪しげな情報が「報道」に格上げされ、国会議員の委員会質問の動画と共に拡散されているー。中国の研究者招致「千人計画」について詳しく調べた記事です。ぜひ読んでください。https://t.co/s4rC9isn2p
— 小川一 (@pinpinkiri) October 15, 2020
またこの誤情報と絡めて、日本学術会議の中国の科学技術団体との交流に疑惑の目を向ける主張も出ているようですが、どこの国の学術会議も様々な国と交流していますし、それを言い出せば自民党自身も、ビジネス界も、中国と交流しています。交流それ自体は悪いことではないのでは?
大西会長の時代に、安倍政権の外交政策の一環として行った、中国の科学技術団体との協力協定までも、中国の軍事研究に協力した、と言われなき非難を受けたら、大西先生も反論せざるを得ないでしょう。こんなことやっていたら二度と政権側で会長職を引き受ける人は出なくなり、一層左傾化しますよ。
— Satoshi Ikeuchi 池内恵 (@chutoislam) October 12, 2020
以上、主なものを挙げましたが、他にもいろいろなデマ情報が流れているようです。
【New】日本学術会議幹部が「北大総長室に押しかけ研究を辞退させた」という情報が拡散しています。
この情報は誤りです。発端となった記事は訂正されていますが、産経新聞などが引用し、誤情報が拡散しています。
ファクトチェックを行いました。(千葉雄登 @ForzaYuto)https://t.co/icAhekjKGA
— BuzzFeed Japan News (@BFJNews) October 13, 2020
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。