きびしい残暑が続いていますが、皆さんご健吟の様子で頼もしく思います。
さっそく投句順にみてゆきましょう。
△ 大杉の跣で触れむ樹齢二千 ゆき
【評】「大杉の跣で」という箇所がぎこちないように思います。「二千年の杉の根に触る跣にて」でしょうか。上五の字余りは致し方ありませんね。
◎耿々と小さき満月女将の訃 ゆき
【評】あえて「小さき」と書いたところに弔意が感じられます。印象鮮明な作品です。
△~○秋日受く備前の壺の鈍き艶 豊喜
【評】「秋日受く」が壺の艶の説明になっていますので、上五はもっと離れた季語のほうがよさそうです。たとえば「秋惜しむ」など。
△美術館備前を企画秋うらら 豊喜
【評】ちょっと言葉を入れすぎでしょうか。「企画」と言う言葉を使ってもなかなか詩情は出ません。さらに「秋うらら」は戸外で使う季語。「秋澄めり古今の備前焼並べ」など。美術館名は前書に記すといいでしょう。
△~○塀伝ふ初雪かづら茂りたり 蓉子
【評】「伝ふ」と「茂り」は意味的に重複します。「塀伝ふ初雪葛咲きにけり」でどうでしょう。
△~○山小屋の月の戸口に杖二本 蓉子
【評】「山小屋」と「戸口」の間に「月」を挟むのはよくありません。「山小屋の戸口に杖や宵の月」。「杖二本」を残すなら、「杖二本戸口に立てし登山小屋」とする手もありますね。
△雨蛙ぴょんと先行く遊歩道 美春
【評】「ぴょんと」が月並み調です。雨蛙の様子をもう一歩深く写生して下さい。一例として「一心に歩道跳ねをり雨蛙」など。
○~◎眼鏡置き両手で掬う岩清水 美春
【評】これはきちんと写生のできた句で結構です。歴史的仮名遣いでは「掬ふ」です。
○コスモスの迷路出口の鐘鳴らす マユミ
【評】だいたいよろしいかと思いますが、だれが鈴を鳴らしたのかちょっと考え込みました。見事に迷路を抜けた人が、自分で鳴らしたのか、それとも、迷っている人のために監督者が鳴らしているのか。また、「出口で」のほうがよくはないでしょうか。
△子や孫は元気と告げて門火焚く マユミ
【評】ちょっと説明調ですね。「元気と告げて」をなんとかしてほしいところです。
○首回すだけの体操今朝の秋 音羽
【評】決して悪くはないのですが、「~だけの体操」はやや脱力的な表現。一方、「今朝の秋」は積極的に秋を迎え入れようとする能動的な季語。両者の関係がややアンバランスな気がします。もっといい季語があるかもしれません。
△風止んで酔ひの深まる酔芙蓉 音羽
【評】きれいにまとまってはいるのですが、「酔ひ」と「酔芙蓉」はつきすぎ。また発想も月並みな感じです。
○つくつくし橋を渡れば淡路島 えみ
【評】きちんとできた句ですが、作者はどこでつくつくぼうしの声を聞いているのか疑問を抱きました。かなり長い橋なので、その途中につくつくぼうしがいるとは思えません。いっそ別の季語のほうがいいかもしれません。
△山別れ機影ひがしへ鷹にしへ えみ
【評】対句表現を使ったおもしろい句ですが、「山別れ」がよくわかりませんでした。山も二手に分かれているのでしょうか。
◎人形の薄き唇葛ざくら 妙好
【評】鋭敏な感覚のユニークな句ですね。薄皮の葛桜の淡い感じが人形の唇とうまく呼応しています。静かで古風な座敷も想像されます。
△~○先約の心にかかるこぼれ萩 妙好
【評】今一つ句意がとれませんでした。「先約」や「心にかかる」は観念的な表現ですので、もっと具体的な「物」で描写したいところです。
○処暑の田に農薬降らすドローンかな 永河
【評】まさに現代の句ですね。「田」と「農薬」に少し重複感があります。「ドローンかな」という収め方も詩情を弱めているように思います。「農薬を降らすドローンや○○○」という形にして、「○○○」に思い切った季語を入れるとさらに面白みが増しそうです。
△~○亀の目に八月六日の日矢の射す 永河
【評】凄味を感じる句ですが、日矢とは雲の間から差す日光のことですので、亀の目に焦点をあてるのは微細すぎないでしょうか。中八も気になります。「日の光弾く亀の目広島忌」と考えてみましたが、たぶん「広島忌」は避けたかったのでしょうね。地名に「忌」を付けることの当否には議論がありますので。わたしは容認派ですが。
○確かと餌をはさみ蟷螂こちら向く 万亀子
【評】しっかりと観察した句です。「こちら向く」というところにカマキリの警戒心が感じられ、俳諧味があります。「餌をはさみ」の「餌」が具体的に何かわかると、さらに映像がはっきりします。
△~○炎昼やシェスタの似合ふ国となる 万亀子
【評】「シェスタ」でなく「シエスタ」ですね。スペインなどで習慣となっている昼食後の長い休憩時間のことですね。「炎昼」の「昼」と「シエスタ」は重複していますので、季語をもう一工夫して下さい。「扇風機シエスタ似合ふ国となる」など。
○へら浮子の先ゆく田舟秋の雨 徒歩
【評】釣りをしていたら、その前を田舟が通りかかったという場面を想像しました。作者は岸辺から「へら浮子」と「田舟」の両方を見ているわけですね。のどかな風景ですが、そうだとすると、「秋の雨」でいいのかどうか一考を要するかもしれませんね。
△~○空澄むや妻が手を振る三角点 徒歩
【評】ご夫婦で三角点のある山に行楽に行かれたのでしょうか。楽しそうな気分が伝わってきます。下五に「三角点」があるとちょっと収まりが悪い気がします。字余りになりますし。「空澄むや三角点に妻と来て」などもう一工夫してみて下さい。
△稲妻やパズルの詰めの第六感 多喜
【評】言葉を詰め込みすぎですね。下五の字余りもよろしくありません。「一ピース足りぬパズルや稲光」「大詰めのジグソーパズル稻つるび」など工夫してみて下さい。
△抜けぬ刃に二人がかりの南瓜かな 多喜
【評】意味はよくわかります。もう少し正確に表現すると、「刃を抜くに二人がかりや大南瓜」「南瓜より二人がかりで刃を抜けり」となるでしょうか。
○蛇蜻蛉とまるお腹の出つ張りに 桃子
【評】「蛇蜻蛉」を知りませんが、なかなか味のある名前ですね。顔が蛇に似ているのでしょうか。それが(中年親爺の)出っ張ったおなかに止まったというのもユーモラスです。
◎をとこへしをのこばかりの孫四人 桃子
【評】この句は季語がつきすぎだとは感じませんでした。むしろ作者の感慨が季語とうまくマッチしているように思いました。どこか温かみのあるすてきな句です。
△降りさうになき空を見る旱畑 織美
【評】降りそうにない日が続いて「旱畑」になるわけですから、これは季語を説明しただけです。「またけふも空を見上ぐる旱畑」であれば、もう一歩写生が深まる気がします。
△ままならぬ子等の帰省やウィズコロナ 織美
【評】どこの家庭でも口にしていることで、いわば日常感覚にとどまっています。「ウイズコロナ」のような用語を使って詩を作るのは至難のわざでしょう。むしろこれは前書に置くべき言葉ですね。
次回は9月15日に掲載の予定です。皆さんのご投句をお待ちしております。前日14日、午後6時までにお送りいただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。