昨年の4月ですが、薬物使用で有名人などが逮捕される事件の報道に関するガイドラインについて紹介しました(薬物依存症についての誤解と報道)。有名人の自死もニュースになりやすいですが、自死の報道についてもガイドラインがあり、WHOが定めています。
記事を目立つように配置しない
報道を過度に繰り返さない
センセーショナルに表現しない
よくあることとみなすさない
問題解決策の一つと紹介しない
手段について表現しない
現場や場所の詳細を伝えない
センセーショナルな見出しを使わない…全部ダメでした https://t.co/0Pt5Id5uYg
— 斎藤環 【新刊】『その世界の猫隅に』青土社 (@pentaxxx) July 18, 2020
有名人が自死で亡くなったときには、センセーショナルに報道したり、自死の方法を伝えたりなどしては、だめです。見出しに慎重になるなど、さまざまに気をつけるべきことがあります。 pic.twitter.com/nAnVhndShX
— 🏳️🌈おがたけ/ヒキーネ・コモリーダ🐛キラキラひきこもり当事者✨🤩 (@ogatakehikky) July 18, 2020
ガイドラインの内容を解説している動画もあります。
今、何かしらの苦しい思いを抱え、自殺という選択肢を背負ってしまっている人にとって、報道が”引き金”にならないよう、私たちは何に配慮すべきなのか。荻上チキ氏による「自殺報道ガイドライン」の解説です。https://t.co/sMLsSzM845
— 安田菜津紀 (@NatsukiYasuda) July 18, 2020
残念ながら現状において日本の報道は、このガイドラインを守っているとは言えないように思います。専門家によるメディアへの申し入れも行われているのですが。
有名人の「自殺報道」でやってはいけないこと、やるべきこと。専門家がメディアに要請 https://t.co/C1XXvwMzMh
— 岩永直子 Naoko Iwanaga (@nonbeepanda) July 18, 2020
遺族の方の声もあります。
「自殺という言葉を使わないで」自死遺族たちが報道に望むこと。(鎮目博道) – Y!ニュース https://t.co/LMOPsQ5hU1
— 木村草太 (@SotaKimura) July 20, 2020
報道が変化しない背景には、自死・自殺についての誤解も多いのかもしれません。「自ら望んだことだ」という誤解です。実際にはそのようなことはほとんどないと言われています。
自殺対策に取り組んでいると、時々「死ぬ権利を奪うつもりか」といった批判を受ける。しかし、自殺の多くは「追い込まれた末の死」であり、つまり「死ぬ権利を行使した結果」ではない。むしろ「生きる権利を行使できなかった結果」である。生きる権利を保障できない社会で、死ぬ権利を語るべきでない。 https://t.co/TbnvGyE23c
— 清水康之/NPO LIFELINK (@yasushimizu) July 24, 2020
今月に入ってからも有名人の自死報道がありましたが、上で紹介した荻上チキさんの番組を除くと、相談先の紹介をしていたものを私はみませんでした。もちろん全部の報道を見てはいませんので、他にもあったかもしれません。しかしガイドラインを守っている報道は、低い確率でしか存在していないのではないかと思います。
相談先一覧が掲載されているサイトを2つ、紹介しておきます。
「いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)」
こちらは厚労省による相談窓口一覧です。
こんな情報もありました。
「死にたい」と思うぐらいつらかったら、心理的危機対応プラン「PCOP」をぜひ試してみてください。30分でできます。誰かと一緒でもできますし、一人でもできます。https://t.co/zFS8ch8xub
— 伊藤絵美 (@emiemi14) July 18, 2020
相談先を知っておくことは重要ですが、電話がなかなかつながらないということも言われています。十分な予算が投入されておらず、人手が足りていないのです。メディアの報道のあり方から、自死を防止できる社会のあり方まで考えさせられるように思います。
———–
西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。