成年後見の仕事をしていると、さまざまな相談や質問が舞い込みます。5月には、参加している認知症の人と家族の会兵庫県支部の総会のあとに、成年後見制度についてお話をする予定でした。制度を正しく知って頂き、皆さんのアレコレ疑問を解消して、これからの生活に安心ができるように・・・と思っていましたが、残念ながら中止となってしまいました。
成年後見制度は、2000年から始まって今年で20年になります。2000年と言えば、介護保険制度がスタートした年で、この二つの制度は高齢社会を支える両輪になると言われていました。その後、介護保険は定期的に変化しながらたくさんの人が利用する制度になっています。一方、成年後見制度は法定後見と任意後見を合わせて平成30年12月末で218,142人(厚生労働省 令和元年5月資料)となっていて、同時期の介護保険制度での要支援・要介護認定を受けている人が6,577,849人(厚生労働省 介護保険事業状況報告 平成30年12圧分)であるのと比べると、成年後見制度は周囲に利用している人があまりいない、全く知らない…という状況かもしれません。
これまで私が見聞きした成年後見制度に関する誤解や不安の一例を挙げてみましょう。
① 家族の意見は聞いてもらえなくなる?
② 補助・保佐・後見はお医者さんに依頼すれば自由に選べる?
③ 成年後見人等はお金持ちの人のための制度?
④ 成年後見人等への報酬が高いからお金のない人は使えない?
⑤ 成年後見人等はお金の管理だけをする人?
上記のような質問が、ご本人や家族だけではなく、ケアマネさんなど介護についての専門職などからも時々寄せられます。 折角の制度も正しく知らないと活用ができないものです。 ここで、簡単にお答えしてみます。長くなりますので、今回はまず、①と②の二つを説明いたします。
① 家族の意見は聞いてもらえなくなる?
ご本人の意志が確認できる場合は、まずはご本人の意志決定を支援するのが成年後見人等の役目です。その上で、またはご本人が意思表示が難しい状況では、これまでのご本人の様子や発言を知っている家族からの話は大切です。ご本人にとってプラスになる家族の希望や、家族が介護について負担過多になった結果で希望されることについては、しっかりお話を聴いておきたいところです。ご本人の財産の使い方についても、必ずしも家族が望む通りになるとは限らないのですが、ご本人にとって必要であると思われることは成年後見人等にお話しいただき、ご一緒に考えていけると良いと思います。また、医療同意については成年後見人等はできませんので、ご本人とご家族の考えを聞かせていただき、力を貸していただきたいところです。
② 補助・保佐・後見はお医者さんに依頼すれば自由に選べる?
成年後見制度の法定後見では、判断力の程度によって「補助」「保佐」「後見」の3類型があります。それぞれ、補助人・保佐人・成年後見人が付くのですが、それぞれが代理や同意できる事柄や、その決め方に違いがあります。「後見」では、代理権や同意権は包括的に成年後見人に付与されますが、「補助」ではご本人が望まれる代理権や同意権が補助人に付与されます。つまり、もし財産管理を望まなければ、財産管理の代理権は付与されず、補助人は通帳の管理などを行えません。そのことから、『補助か保佐にしてもらって、財産管理は家族がおこなって、それ以外のところを補助人・保佐人にやってもらいたい』という思いがあるかもしれませんが、そもそもこの3類型は『本人の判断力』の程度によって決められるものです。
類型の決め方は、医師が判断力を診断書によって示し、裁判所が診断書と本人面談による調査によって確認し決定します。もし、診断書とご本人の様子に違いがある場合、より詳しい鑑定を行うことになります。
なお、最近ではケアマネ等が主治医に普段のご本人の様子を伝え、日常生活のなかでどれほど判断や行動ができているかや難しい状況を伝える「本人情報シート」というものが導入されています。これにより、医学的な判断力の判断だけでなく、生活面での情報も取り入れられ、3類型とご本人の生活の中での様子がフィットするようになってきています。
次回は
③ 成年後見人等はお金持ちの人のための制度?
④ 成年後見人等への報酬が高いからお金のない人は使えない?
⑤ 成年後見人等はお金の管理だけをする人?
の説明を書きたいと思います。
2025年問題という言葉があります。2025年には団塊の世代全員が75歳に達し、後期高齢者が増えるというものです。それと同時に、認知症を発症する人が増加し、以前も書きましたが今後は『後見爆発』という時代が来る…そろそろ始まっているということです。コロナ感染防止による自粛や休業生活で、職を失ったり収入が減ったりと、経済面での将来の不安が増えてきています。生活保護の申請も増えてきていると聞こえています。次回は、経済的に不安があっても、不安があるからこそ、適切に成年後見制度を活用していただき安心・安全な暮らしのイメージを持ってもらえるよう、後半の疑問についてまとめてみたいと思います。