子供の頃、近所の公園に有る桜の木の実を「さくらんぼ」と称して食べていた。パチンコ玉より二回り小さい楕円形の実は、赤く熟するとさくらんぼみたいな味がした。しかし大人に成ってからは、その桜の木に実がなっているのを見たことが無い。桜のソメイヨシノと言う品種は、接ぎ木で増やすクローンだと知った。クローンには、実が付かない。公園の桜は、ソメイヨシノのはず。口にしていたあの実は、いったいなんだったのか。最近疑問が解けた。ソメイヨシノも他の品種の花粉と交配すると実を付けるらしい。そういえば色の白い花を付ける桜の木がもう一本植えられていてそちらの方が少しだけ早く咲いていたことを思い出した。もうずいぶん前に台風で倒れてしまい忘れていたが、確かにもう一本あった。子供心に一本だけになってしまった桜が、寂しがっている様に感じた。そんな記憶まで蘇る。一本だけになってからあの桜の木は、実を付けていない。連れ合いを無くした夫婦の様。
京滋有機農業研究会 会長の田中真弥さんが無減農薬野菜などの宅配サービスの会員向けに連載しているコラム「こころ野便り」を当サイトにも掲載させて頂いています。前回はこちら。