新年早々、アメリカとイランの関係が緊迫し、戦争直前といった様相を呈していますね。一体何がどうなっているのでしょうか?
ご存じのように直接の原因は今月3日未明、米軍がイランの軍事指導者ソレイマニ司令官ら7名を殺害したことです。同司令官はイランで最高指導者ハメネイ師に次ぐ権威があるとされ、国民的な英雄でしたから、イラン全土でアメリカへの憎悪が一気に高まり、イラン政府もアメリカへの軍事的報復の決意を公言しています。それに対しトランプ大統領も、イランの出方次第では52カ所の拠点を直ちに攻撃すると警告しています。
それにしてもアメリカはなぜこの時期、こうした行動をとったのでしょう?
アメリカがイランに対し、何らかの軍事行動をとることは、昨年末以来、ある程度予想されていました。先月27日、イランの隣国イラクで、反米武装組織によるロケット弾攻撃があり、5名のアメリカ人が死傷しました。米軍は報復として、その武装組織の拠点を空爆しました。すると31日、イラクの首都バグダッドのアメリカ大使館が彼らの襲撃を受けたのです。アメリカ政府は、イラクで執拗にアメリカ人を攻撃する武装組織がソレイマニ司令官の指図に従っていると断定し、今回の行動に出たのです。現にソレイマニ司令官が殺害された場所はイラン国内ではなく、イラクのバグダッド空港でした。
ソレイマニ司令官とは何者なのですか?
彼はイランの最高指導者ハメネイ師の直属である革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官ですが、この部隊は、対外的な軍事工作を行うことをミッションとしています。イラク、シリア、レバノン、イエメン等のイスラム教シーア派武装組織と密接に連絡をとり、それらの組織に様々な支援を行っているのです。そしてその活動の中心人物がソレイマニ司令官でした。トランプ大統領は、同司令官の殺害はアメリカに対する戦争を防ぐための自衛措置だと説明しています。
つまり今回のアメリカの行動は正当なものだということですか?
それには異論もあります。イラン政府はアメリカの行為を宣戦布告だと見なしていますし、中国とロシアはイランを支持し、アメリカを非難しています。アメリカ国内でも、イランの実質上ナンバー2である人物の殺害はやり過ぎだとの意見もあります。いずれにせよはっきり言えることは、アメリカがイラン内外の反米的なイスラム教シーア派武装組織をすべて敵に回してしまったということです。
今後どんな展開が予想されますか?
最悪のシナリオとしては、中東地域のすべてのアメリカ関連施設が、親イラン派武装組織の攻撃対象となります。彼らは米軍と真っ向から戦っても勝てないことは分かっていますから、テロという手段をとるでしょう。そうなればアメリカの民間人もターゲットになります。中東の親米国サウジアラビアやイスラエルにも軍事攻撃が加えられる可能性もあります。またイランは核開発を加速化させるかもしれません。実際、イラン政府は5日、無制限にウラン濃縮を進めるとの声明を出しました。これがエスカレートすれば、アメリカはかつてイラクにそうしたように、対イラン戦争に突入する事態もあり得ます。すでにアメリカは兵士約3500人を中東へ増派することを決めています。
とはいえ、欧州各国がアメリカとイランの仲裁に乗り出しているようですし、再選を目指すトランプ大統領もこの時期に本格的な戦争は望んでいないでしょうから、ぎりぎりのところで軍事衝突は回避される見込みもあります。
日本としてはどうしたらよいでしょう?
安倍首相は今月中旬にも中東を訪問し、何らかの仲介役を務める意向のようです。しかしその前に、昨年末に閣議決定した中東への自衛隊派遣を中止すべきです。これはアメリカ主導の有志連合とは一線を画し、軍事行動は伴わないにせよ、海外の目からすれば自衛隊は軍隊にほかなりません。現に自衛隊は英語では「Self-Defense Forces」(自衛軍)と呼ばれています。しかも日本はアメリカの同盟国です。日本側の事情は何であれ、イランにとって自衛隊は「敵軍」以外の何物でもないでしょう。場合によっては自衛隊もまたイランの軍事攻撃の標的になりかねません。また、安倍首相がほんとうに仲介役を果たそうとするならば、日本はあくまでも中立でなくてはなりません。自衛隊が中東で収集した情報はアメリカと共有されることになりますから、もうその段階で中立性は失われてしまいます。以上が自衛隊の中東派遣に反対する理由です。