年末のお忙しいところ、熱心にご投句下さりありがとうございます。
さっそく投句順に見ていきましょう。
◎白生地のピザが宙舞ふクリスマス 徒歩
【評】ポップな句ですね。作者の快活な気持ちがよく伝わってきて、読み手の心も浮き浮きとしてきます。
△墨擦つて護摩木選べり小晦日 徒歩
【評】僧侶の所作なのでしょうか。護摩木を手に取るのなら思い浮かべやすいのですが「選べり」でちょっとわからなくなってしまいました。選別する必要があるのでしょうか。かりに選ぶにせよ、動作が二つ続くと説明的な句になりますので、動詞は一つに絞った方がよいと感じます。
△年の暮埃掃き出す大うちわ 織美
【評】西本願寺恒例のすす払いの場面でしょうね。大うちわですから、掃くのではなく、あおいで埃を外に出すのではないでしょうか。また、これだけでは単なる事実の報告ですから、作者が実際に立ち会って初めて知り得たことを詠んでほしいと思います。
△~○大釜に炊く味噌汁や葱香る 織美
【評】これもお寺かどこかで振る舞ってくれているのでしょうね。前書きがほしいところです。もし前書きがあれば、上五中七の内容は自明のことになりますので、かろうじて下五で作者の感性が生かされていますね。
△わやわやと袖まくりあげお書初 妙好
【評】「わやわやと」がどのような動作なのか、今ひとつよくわかりません。着物の袖をたくし上げるなどの動作がすっとわかるような言葉が見つかるとさらによくなりそうです。
△殺処分済みし豚舎に寒の雨 妙好
【評】俳句はルポルタージュではなく詩ですから、読み手の心をときめかせてください。この句を読むとなんだか気分が沈んでしまいます。
◎荒波や巌に揺るる寒の菊 音羽
【評】風格があっていいですね。掛け軸に描かれた水墨画が見えてくるようです。寒の菊に作者自身の心が投影されているのでしょうね。
○寒雷や砲台跡に屈みたる 音羽
【評】「丸岡藩砲台跡」と前書きがあります。寒雷がさながら大砲の音のようで、ちょっと怖くなって身を屈めたのでしょう。そこにやや作為が見えてしまう点が惜しい気がします。
○しづくめく電飾の灯や年の暮 マユミ
【評】電飾の灯を雫に見立てる発想にやや類想感はありますが、ロマンチックでいい感じです。年の暮の雰囲気をうまくとらえた句です。
△~○裸木や納め不動の火の粉浴ぶ マユミ
【評】火の粉ですから、まさか人間が浴びているのではありますまい。裸木のことだと解しました。とすると、「や」で切ってはいけませんね。「裸木に納め不動の火の粉飛ぶ」くらいでどうでしょう。
△~○身にあまるパンをくわへて寒鴉 万亀子
【評】「身にあまる」ですから、よほど大きいパンだったのでしょう。その大きさが「くわへて」ではうまく伝わらないような気がします。「身にあまるパン引きずれり寒鴉」くらい言うと「身にあまる」が生きてきます。
△~○真向かひに雪の伊吹嶺小休止 万亀子
【評】きっと畑仕事をしているのでしょうね。しかし「小休止」だけではそれがわかりません。「真向かひに雪の伊吹嶺土を鋤く」など、もう一つ具体的な描写がほしいところです。
○~◎祓所(はらへど)のしんしんたるや落葉降る 永河
【評】伊勢神宮での作。祓所はほんとうに静かだったのでしょうね。それが「しんしんたるや」の「や」に表れています。具体物は落葉だけにすることによって、この祓所という静かな空間そのものがうまく捉えられていますね。
◎石祀る幣の静けさ冬深む 永河
【評】「四至神(みやのめぐりのかみ)を拝みて」の前書きがあります。「幣」に焦点を絞って静けさを捉えたところが秀逸です。季語も申し分なしです。
△造成の終ひに掘れり冬小菊 多喜
【評】宅地を造成したのでしょうか。それだとショベルカーを連想するのですが、「冬小菊」を掘ったのは、もっと小さなショベルでしょうね。状況を把握するためにちょっと考え込んでしまいました。そもそもなぜ冬小菊を掘ったのでしょう。鉢植えするためでしょうか。
○仕舞ひ湯にも一つ入るる冬至柚子 多喜
【評】仕舞い湯ですから、柚子の香りもだいぶ薄らいでしまったのでしょう。そこでもう一つ足したのでしょうね。すなおな作でけっこうです。「入るる」が語調としてあまりよくないので、「足せり」でいかがでしょう。
△子規の間に聞こゆる喇叭冬ぬくし 利佳子
【評】このラッパはどこから聞こえてくるのだろう、そもそも何のラッパだろうということが気になって、鑑賞を妨げます。「子規堂のまへを豆腐屋冬ぬくし」など、もう少し具体的な情報がほしいところです。
△猫を背に老女抜きをり冬の草 利佳子
【評】この「老女」がなにか魔法使いのお婆さんのようで不思議な味わいの句ですね。とはいえ、なぜ猫を背負っているのか、それになぜ冬の草を抜いているのかが疑問で(「草を引く」は夏の季語)、うまく鑑賞できません。「肩に猫登りてきたる日向ぼこ」くらいのほうが理解しやすいかもしれません。
△~○銅色の屋根の本堂冴ゆるなり 美春
【評】情景はわかりますが、今一つメリハリがないため詩的高揚感が得られません。「本堂の屋根は銅いろ寒波来る」など、もっと弾むように作るのも一法です。
△ポン菓子を眺むる子らや息白し 美春
【評】ポン菓子を眺めているのでなく、それを作っているところを眺めているのですね。「息白く子らが囲めりポン菓子機」などもう一工夫してください。
△冬ぬくし雀集まり賑やかに 蓉子
【評】すなおに詠まれた句ですが、もう一つ具体的なものを描写してほしいと思います。たとえばどこに雀が集まっているかわかるといいですね。「冬ぬくし庭にあまたの雀来て」あるいは雀を季語にして「初雀我が家の庭を賑やかに」など。
○山茶花の掃きし後から又散れり 蓉子
【評】だいたい結構かと思いますが、少してにをはを直し、「山茶花を掃きし後よりまた散れり」くらいでいかがでしょう。
△弘法の縁日人出師走かな 豊喜
【評】「縁日」と「師走」はどちらも時期にかかわる語ですので、重複感があります。また縁日に人出が多いのは常識の範囲内ですね。たとえば「弘法の縁日に皆着ぶくれて」としてみました。
△日泰寺栴檀の実の晴れがましけり 豊喜
【評】栴檀の実が晴れがましく感じられたのですね。ただ俳句はそれを「晴れがまし」と言う代わりに、客観的に具体描写する必要があります。下五の字余りもいけません。「栴檀の実が高々と日泰寺」など、晴れがましさが伝わるような表現を探してみてください。
次回は1月20日に掲載の予定です。来年のご健吟をお祈りいたします。
皆様よい年をお迎えください。河原地英武