10月27日から11月3日までの1週間、仕事で米国のウィスコンシン大学マディソン校に滞在していました。現地時間の10月31日夕刻、ハロウィーンの変装をした子どもたちが街を歩いているのを眺めながら、先方の先生方と夕食をいただいた帰り道に、カナリア倶楽部でも何度か取り上げた大学入試問題(センター試験に相当する共通試験に英語の民間試験を導入するという問題)のニュースが飛び込んできました。
中止ではなく延期とは言え、正常化に向けてまずは一歩前進かとは思います。しかし、2020年度入試から予定されている「入試改革」には英語民間試験導入以外にも問題点があります。それは国語と数学に記述式が導入されることです。マークシートの試験には批判があるのは事実です。それでもマークシートを使った大学入試センター試験が共通一次試験時代も含めて長年行われてきたのは、様々な現実的制約の中で実施しうる合理的で公正な方法であると考えられてきたからです。
「マークシートよりも記述式のほうが受験生に頭を使って考えさせるから良い」ということに誰も反論はしないでしょう。それでもそれを実行しなかったのは、関係者が怠慢だったからではありません。
記述式のテストで問題になるのは採点です。現在でも個別大学の入試(いわゆる二次試験)では記述式が採用されているところが多くあります。ただしそれは、個別大学の入試の規模だから可能なのです。
問題点はいくつもありますが、1つは「全国規模で採点を可能にするために、テストそのものを歪める」というものです。テストの歪みは高校の授業の歪みも引き起こします。これからの子ども達の国語の力が心配です。
QT 担当者はその都度協議し、判断によってはそれまで採点した答案をさかのぼって見直します。仮に2千枚を採点していて1999枚目にそうした解答が出てきてもです。しかし、それを50万人を対象にした入試でできるでしょうか? 不可能です。https://t.co/uEQo4spLJx
— thouautumn (@thouautumn) November 18, 2019
国語よりも数学のほうが大変だという指摘もあります。
大学新共通テスト「記述式」のこれだけの問題点 – 吉田弘幸|論座 – 朝日新聞社の言論サイト https://t.co/tws1by4BVb
— 吉田弘幸 (@y__hiroyuki) November 13, 2019
入試問題としてのあり方もさることながら、採点の体制もかなりずさんです。
あまりのメチャクチャさに唖然とします。①50万人の答案の採点担当が民間業者!、②その業者が採点基準にも関与し!、③バイトなど1万人を雇って採点だと! 第一、国語3問の記述の上限がそれぞれ僅か120字!ツイート未満で「思考力や表現力を測定」って、バカも休み休み言え。https://t.co/MASzXpbdZ8
— 堀 茂樹 (@hori_shigeki) November 13, 2019
採点を請け負っているベネッセは、きちんと研修を受けたアルバイトに採点をさせるから大丈夫だと言っているようですが…。私も学生時代に、模擬試験の採点のバイトをしていたことがあります(ベネッセではありませんが)。研修も受けたことはありますけれどもね…。
そもそも、大量の記述式問題の採点を民間業者が請け負うということに対する問題点は、以前から指摘されていました。
「新テスト」記述式問題採点をベネッセグループが落札。1民間企業に頼り切りの大学入試改革でいいのか?2019.9.1
GTEC、eポートフォリオという、大学入試改革の目玉のすべてにベネッセが大きく関わることになる。大学入試改革受託業者と呼んでも過言ではない。 https://t.co/49FbSwWo4f
— 富士見坂 (@Tei393421) November 3, 2019
【政治】来年度から始まる大学入学共通テスト。民間試験活用に至る経緯もさることながら、ベネッセ主催「GTEC」の採用基準、同社関連法人による国数の記述式問題の採点業務の受注決定などベネッセをめぐる疑惑が噴出しています。https://t.co/Gg8LP85ZAE #日刊ゲンダイDIGITAL #日刊ゲンダイ
— 日刊ゲンダイ (@nikkan_gendai) November 9, 2019
かなり長い記事ですが、英語民間試験以外の「入試改革」の問題点はこちらの記事が良く整理されていると思います。
長いけど、良い記事だと思う。
今世間で話題になっている英語試験の話にとどまらず、記述式問題の他教科への導入の話なども交えて、共通テストの問題点を挙げてくれている。問題だらけの共通テスト~英語民間試験の延期だけでは終わらない(石渡嶺司) – Y!ニュース https://t.co/8C6ezmGoNs
— 夜光猫 (@yakou_neko_jp) November 4, 2019
そして「とどめの一撃」とでもいえそうな情報が…。
英語民間試験を大学入試センター試験相当の全国共通試験で使えないくなったので、各大学の個別試験(二次試験)で利用するようにという圧力がかかっています。
下村博文は既に「大学入試センターが一元管理する現在の制度を見直し、各大学による民間英語試験の導入を国が私学助成金などで支援する代替案を示した」とのこと。まだ凝りないのか。今回の混乱の責任を問われるべきなのは萩生田氏よりむしろ下村氏。→
— 羽藤由美 (@KITspeakee) November 2, 2019
国立大学協会も巻き込まれているようです。
これだけ問題が指摘された民間試験を2次試験で課すなどありえない。国大協、ついに発狂? 1次試験よりさらに罪が重い。「強行」が失敗してメンツがつぶれたからの凶行ですか。 https://t.co/b2NWyh5Q2E
— 阿部公彦 (@jumping5555) November 9, 2019
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。