かわらじ先生の国際講座~「有志連合」への参加は可か否か

アメリカ政府は日本に対し、ホルムズ海峡などを航行する船舶の安全を確保するための「有志連合」への参加を求めました。今月25日、ポンペオ米国務長官が明らかにしました。日本以外にも英・仏・独・ノルウェー・韓国・オーストラリアが参加要請されているそうです。それについてどう思いますか?

自衛隊の派遣や資金提供という形での参加が求められているようですが、わたしの考えを述べれば、いずれも「ノー」です。

しかし日本は原油の大部分を中東から輸入し、ホルムズ海峡の安全確保は他人事ではありません。トランプ大統領も6月24日、ツイッターで「なぜアメリカが他国のためにタダで航路を守っているのか。彼らが自国の船を守るべきだ」と、日本などを名指しして批判していますよ。

「航路の安全確保のため」といえば、もっともなことに聞こえますが、言葉の綾に惑わされてはいけません。日本は2009年、「海賊対処法」を制定し、ソマリア沖における犯罪者集団の海賊行為から商船などを守るため、海上自衛隊が派遣できるようになりました。現在もソマリア沖に護衛艦1隻が派遣されています。但しこれは相手が国家ではない犯罪者集団であって、彼らへの対処は警察的行為と見なされ、戦争行為とは一線を画しています。しかしホルムズ海峡は、状況が全く異なります。

どういうことですか?

そもそもホルムズ海峡は公海ではなく、北側はイラン、南側はオマーンの領海です。治安取り締まりのためだといって他国の軍艦が勝手に入ることはできません。そこは本来、イランとオマーンなど当事国が責任をもって守るべき場所で、他国が勝手に介入すべきではありません。さらにいえば、今日のホルムズ海峡は、一方の沿岸にイランがミサイル部隊や高速艇などを多数配備し、対岸には米軍やサウジアラビア部隊が軍備を展開しています。ホルムズ海峡はいわば一分の隙もなく武装され、海賊などのギャング集団が入り込む余地もありません。したがって、ここで軍事力を行使するとしたら、相手は国家、もしくは国家同盟となり、明らかな戦争行為となります。日本は憲法上も、国是としても、そのような事態が想定される行動をとることは許されません。
ホルムズ海峡が歴史的にどれほど軍事的緊張をはらんだ場所かについては、次のロイターの記事および動画をご覧ください。

 JP 
アングル:2分で分かるホルムズ海峡、なぜ中東の「火薬庫」か
https://jp.reuters.com/jp.reuters.com/article/explainer-hormuz-idJPKCN1TK0AI
世界的な海上交通の要衝で、ペルシャ湾とオマーン湾の間にあるホルムズ海峡を巡って、イランと米国およびその同盟湾岸諸国との間で緊張が続いている。

なるほど。ここは各国の利害がぶつかり合いながら、かろうじてバランスをとっている危うい海峡なのですね。へたに外部勢力が首を突っ込むと、とんでもない戦火が広がりかねない「火薬庫」のような場所だとわかりました。日本など入る余地なしですね。

いえ。そんなに卑下する必要はありません。むしろ日本は、今までこの難しい地域に対し、非常に賢明な戦略をとってきたのです。各国の軍事対決とは距離をとりながら、原油売買などを通じ、どの中東諸国とも友好な関係を保ってきました。これは稀有なことです。イランはアメリカと犬猿の仲ですが、そのイランでさえ日本は友好国だと見なしてきたのです。日本が歴史的に築いてきたこのような貴重な外交資産を「有志連合」への加担によって食いつぶしてしまってはなりません。

しかし、それではアメリカとの関係がこじれませんか?

今回の事態の発端は、アメリカ側が昨年、一方的にイラン核合意から離脱したことにあります。イランが合意を遵守していたにもかかわらず(少なくとも、アメリカ以外はそう考えています)。つまり、これは「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権がまいた火種でしょう。アメリカ国内の反トランプ陣営は、この政策を批判しています。つまりトランプ政権の行動をアメリカの立場と同一視すべきではありません。欧州諸国もアメリカが提起する「有志連合」とは距離を置こうとしています。日本が「有志連合」に同調しないからといって決して孤立するわけではありません。イランとて、本気でアメリカに戦いを挑むつもりはありません。核合意の見返りとして経済制裁を解いてほしいだけです。イランのバックには中国とロシアがついていますが、特に「一帯一路」を掲げる中国は、中東の海が分断されることは是非とも避けたいところです。ですから、今日のホルムズ海峡をめぐる危機は、各国の外交努力によって乗り越えるチャンスが十分にあります。戦争の危険性を高める「有志連合」への参加のみならず、「有志連合」そのものにわたしは反対です。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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