かわらじ先生の国際講座~~NZ銃乱射事件に思うこと

ニュージーランド南部のクライストチャーチ市で今月15日、まことにおぞましい銃乱射事件が起きました。実行者は「白人至上主義者」を名乗る28歳の男、被害者(50名が死亡、約50名が負傷の由)はモスク2か所に集うイスラム教徒の人々。この事件をどう考えますか?

ニュージーランドは極めて平和な国との印象がありますが、実はアメリカと同様に銃の所持が容易であることを知り、わたし自身驚きました。約470万の人口に対し、150万丁の銃が出回っているそうです。単純計算をすれば3人に1丁の割合で銃が持たれています。この男は5丁の銃を保有していたとのことですが、免許は必要であるものの保有の登録は不要であるため、何丁持とうが見過ごされてきたようです。今回の事件でニュージーランド政府は、銃規制強化に動き出したと報じられています。

実行者の動機は何なのでしょうか?

この男は事前にネットで74ページにおよぶ「犯行声明」を公表し、複数の政府機関にも同様の文書を送りつけていたようです。「自分は労働者階級出身の平凡なオーストラリア人である」と名乗り、「侵略者」である移民から「白人の文化やアイデンティティーを守る」ために行うのだと説明し、銃撃時には軍服姿で、ヘルメットにはカメラを装着し、17分間リアルタイムでその映像を流したといいます。つまりこれは単なる狂気の行動というより、明らかに政治的意図を持ったテロといえるでしょう。

つまり一回性の事件として済まされないということですか?

はい。近年にも「白人至上主義」や「憎悪犯罪」による事件がいくつも起きています。2015年6月米国サウスカロライナ州における事件、2017年カナダ東部ケベック市における事件、同年8月米国バージニア州における事件、昨年10月米国ペンシルバニア州における事件などは一例です。グローバル時代になり欧米へ移民が増えていることや、紛争による難民の急増などが背景にあります。イギリスのEU脱退を促したのも、EUの難民受け入れ政策への反発でした。メキシコ国境に壁を建設するため「国家非常事態宣言」を発令した米国トランプ政権の政策も、国民の反移民感情や外国人排斥の気運と連動しています。つまり今日の政治状況、というより政治家たちの政策が、今回のような凶悪事件の実行者たちに「正当化」の口実を与えているのです。

彼らは罪を犯したという意識がないのですか。

恐ろしいことですが、「白人社会」を「侵略者」から守るという大義のため、聖なる行動をとったと考えています。正義の味方気分なのです。ただ、これは「白人」だけの問題ではありません。わが国日本にも、このようなどす黒い民族憎悪が渦巻いていることに留意したいと思います。

どういうことですか?

「ヘイトスピーチ」のことはご存じでしょう。以前、NHK番組の「クローズアップ現代」がその衝撃的な実態を紹介しました。文字情報ですが、次のNHKのサイトをご覧ください。

デモ参加者がすさまじい言葉を発していますね。

ええ、そうです。「殺せ、殺せ、朝鮮人。出てけ、出てけ、朝鮮人」と連呼しながら公道を練り歩いているのです。まさに言葉によるテロですが、それがまかり通っているのが日本の現実です。ネットを検索すれば、このようなヘイトスピーチはあふれるほどあるでしょう。日本は外国人労働者を大幅に増やす政策に転じました。多くは途上国からの人々です。彼らが益々多く日本に定住するようになるとき、日本社会にどのような摩擦が起こるか予測がつきません。「外国人に対して寛容な社会」の必要性が言われていますが、実は「寛容」という言葉自体に、すでに相手への優越感や差別が潜んでいます。欧米やオセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)で急速に進んでいる多民族共生社会の実態や教訓から、われわれも多くを学ぶ必要がありそうです。

—————————————
河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。